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53.社畜サラリーマンは義弟と対峙する

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ムサカリ絵馬をなんとか回避して戻ってきて目を開くと、そこには完全にカオスな状況となっていた。

「なっ、どうしてこんなことに??」

そこには、なぜか志鶯が血まみれになり倒れていてそれをヘイズが必死に応急処置していた。全く何が起きたのか分からなかったが、その様子を見ただけで竜帝陛下はすぐに何かを把握したように静かな声で言った。

「……なるほど、ヘイズ。余がその異世界人の傷を治そう。彼はどうやら無防備になった余とシヅルを狙ったアナイスの魔の手から身を挺して守ってくれたのだからな」

竜帝陛下の言葉が私には信じられなかった。

なぜ、志鶯がそんなことをしたのかがわからなかったが、思った以上に自分が動揺していることに驚く。

「志鶯は助かりますか??」

「……」

思ったより震えた声で問いかけた私に、いつもなら『簡単だ』と口にするだろう竜帝陛下が黙り込んでいる。その表情は難しく、それが難しいことを示していた。

「あっ……」

「シヅル……すまない」

竜帝陛下が首を振り苦し気に答えた言葉に頭の中が真っ白になる。

志鶯のことを弟として大切におもっていたということはない、そう言いきれる位には私と志鶯の関係は志鶯が一方的に懐いているような関係だった。

しかも、それが原因で間接的によくないことが起きたことも多く正直好きではなかった。それに父から赤の他人だという事実を聞いた今、本来なら何も感じないはずだ、そのはずなのに胸が痛い。

「志鶯……」

胸から沢山の血を流しながら、目を閉じている志鶯の名前を呼んだ。

いつもならすぐに『兄さん』と答える口が言葉を紡がずただ、今にも途絶えそうな浅い呼吸がわずかに漏れていた。

「にぃ……ちゃん」

そう言ってほんのわずかに開いた瞳と目が合う。その表情はまだ幼い日に私の後を必死に追いかけて来た志鶯そのものだった。

(私は、お前のことが苦手だった。でも……嫌いではなかったんだな)

しっくりくる感情が胸に浮かんだ時、私の瞳から一筋の涙が零れて志鶯の顔に落ちた、その時……、私の体が以前一度あったように黄金に発光し、その光が志鶯を包み込んだ。

「……死ぬな志鶯」
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