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38.私の幼馴染で恩人(ヘイズ視点)
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「……」
ラム様はいつも浮かべている笑みを完全に引っ込めて眉間に皺をよせている。その腕の中には真っ青な顔のペット様が居た。
癒しの呪文を唱えていることはすぐに分かったが呪印の効果が強すぎるようでそれだけでは手詰まりなのが見てとれた。自分に出来ることはあまりないが、せめて少しでも元気が出るようにお茶を淹れた。
「……ヘイズか」
青ざめた顔でそう一言告げてまたペット様に呪文と唱えるラム様の様子に胸が痛んだ。
「陛下、無理はしないで少し休んでくださいーっ」
ラム様、私にとって大親友であるこの方は幼い頃から竜帝という重責を背負って生きて来た。
ラム様のご両親である前竜帝様と前王妃様はそれは仲睦まじい番同士だったと言われている。しかし、悲劇は突然訪れることになった。
今は帝国の一部である統治かつて存在した獣王の国が、前王妃様がラム様の卵をあたためるために故郷である辺境伯領へ里帰りしたタイミングで攻め込んできたのだ。
そうして、前王妃様と卵を奪おうとした獣王軍だったが、前王妃様が自らの命を犠牲にすることで卵は守られたのだが、番を失った前竜帝様は暴走し、獣王の国を滅ぼし、さらには自身の国まで破壊をはじめてしまった。
いくら優れた竜帝でもそうなってしまった場合は、国を治めることはできないため、前竜帝様は幽閉され、代わりにまだ生まれて間もないラム様が帝位につくことになった。
しかし、赤子が当然統治することはできないので、摂政がふたりついて成人までは政治を行うことになった。
ひとりが、前王妃様の父であり、ラム様の祖父でもあった前辺境伯様でもうひとりが当時国の宰相を務めていた私の父だった。
だから、私は幼い頃からラム様とは兄弟のように育った。しかし、イグリュウの血を引く私がラム様の側にいることを望まない者は多かった。
イグリュウに対する差別意識が大きいのは、かつてこの国を崩壊寸前まで陥らせたクーデターの首謀者となる一族だったこともあるが、それより以前からイグリュウへの潜在的な差別はあったと言われている。
イグリュウは蛇と呼ばれるが、その原因は元々は竜でありながら、大きな罪を犯して手足を切り取られて蛇となったと言われる話が帝国の建国神話によるものだった。
その神話から、イグリュウは罪を犯した竜人の家系と長年嫌悪されて、クーデターに至るまでになったのだとされている。
しかし、ラム様はそんな国の差別をなくそうと尽力してくださった。私と友人だったのもあるが心優しい方なので謂れもない差別により才能があっても閑職に追いやられていたイグリュウ達に手を差し伸べてくださったのだ。
それだけでも、ラム様に私は恩があった。
そして、年頃になり私にも番が居ることが分かった。番は近づけばわかると言われているが私の番は私が番だと未だに知らない。
正確な診断が出来ていないが番は番を感じ取りにくい病なのかもしれないと考えている。相手が感じ取れずとも私は番を愛し手を尽くし続けた。どんなに振り返らなくても竜人は番を愛する。それは最早本能と言っても過言ではない。
そんな私の秘密をラム様は言葉にしなくても察してくださり、その上で黙認してくださった。
それなのに……、私の番はスタガーは償いきれない罪を犯した。意図的に番い様の殺害に関わっていた疑惑が判明したのだ。
その事実を知った時、私はスタガーの死を覚悟しないといけなかった。
番が死ねばラム様のような特殊な理由がなければ狂竜になってしまう、だからそのことをラム様に伝えた時、あの方は真剣な表情で答えた。
「スタガーの行ったことは許されることではない。本来であれば番もろとも死罪に処される位の重罪だ。しかし、ヘイズにはずっと世話になってきた。だから……」
ラム様の提案は意外なものだった。
スタガーを事件の諸々の取り調べが終わり次第、ラム様から私が褒美で頂いた別邸に幽閉することという条件だった。
別邸はとても広く美しいが、構造がとても変わっている。言うなれば大きな鳥籠のようなもので誰かを閉じ込めるのにとても適したものだった。
まだ、スタガーは目を覚まさないが、目を覚まし尋問が終われば永遠に私は番と暮らすことができるのだ。
そんなお膳立てまでしてくださったラム様だから、私はあることを伝えようと思った。
「……ラム様、ペット様の呪印を大きく後退させる方法がございます、ただ……」
その方法はラム様があまり好まないものなので今までは伝えずに来たが、もう時間がない。
「……どんな方法だ??リスクがあってもどんなものでも余は必ずシヅルを救えるなら聞かせて欲しい」
「貴方ならそう答えると思いました。ではお話します、その方法は……」
ラム様はいつも浮かべている笑みを完全に引っ込めて眉間に皺をよせている。その腕の中には真っ青な顔のペット様が居た。
癒しの呪文を唱えていることはすぐに分かったが呪印の効果が強すぎるようでそれだけでは手詰まりなのが見てとれた。自分に出来ることはあまりないが、せめて少しでも元気が出るようにお茶を淹れた。
「……ヘイズか」
青ざめた顔でそう一言告げてまたペット様に呪文と唱えるラム様の様子に胸が痛んだ。
「陛下、無理はしないで少し休んでくださいーっ」
ラム様、私にとって大親友であるこの方は幼い頃から竜帝という重責を背負って生きて来た。
ラム様のご両親である前竜帝様と前王妃様はそれは仲睦まじい番同士だったと言われている。しかし、悲劇は突然訪れることになった。
今は帝国の一部である統治かつて存在した獣王の国が、前王妃様がラム様の卵をあたためるために故郷である辺境伯領へ里帰りしたタイミングで攻め込んできたのだ。
そうして、前王妃様と卵を奪おうとした獣王軍だったが、前王妃様が自らの命を犠牲にすることで卵は守られたのだが、番を失った前竜帝様は暴走し、獣王の国を滅ぼし、さらには自身の国まで破壊をはじめてしまった。
いくら優れた竜帝でもそうなってしまった場合は、国を治めることはできないため、前竜帝様は幽閉され、代わりにまだ生まれて間もないラム様が帝位につくことになった。
しかし、赤子が当然統治することはできないので、摂政がふたりついて成人までは政治を行うことになった。
ひとりが、前王妃様の父であり、ラム様の祖父でもあった前辺境伯様でもうひとりが当時国の宰相を務めていた私の父だった。
だから、私は幼い頃からラム様とは兄弟のように育った。しかし、イグリュウの血を引く私がラム様の側にいることを望まない者は多かった。
イグリュウに対する差別意識が大きいのは、かつてこの国を崩壊寸前まで陥らせたクーデターの首謀者となる一族だったこともあるが、それより以前からイグリュウへの潜在的な差別はあったと言われている。
イグリュウは蛇と呼ばれるが、その原因は元々は竜でありながら、大きな罪を犯して手足を切り取られて蛇となったと言われる話が帝国の建国神話によるものだった。
その神話から、イグリュウは罪を犯した竜人の家系と長年嫌悪されて、クーデターに至るまでになったのだとされている。
しかし、ラム様はそんな国の差別をなくそうと尽力してくださった。私と友人だったのもあるが心優しい方なので謂れもない差別により才能があっても閑職に追いやられていたイグリュウ達に手を差し伸べてくださったのだ。
それだけでも、ラム様に私は恩があった。
そして、年頃になり私にも番が居ることが分かった。番は近づけばわかると言われているが私の番は私が番だと未だに知らない。
正確な診断が出来ていないが番は番を感じ取りにくい病なのかもしれないと考えている。相手が感じ取れずとも私は番を愛し手を尽くし続けた。どんなに振り返らなくても竜人は番を愛する。それは最早本能と言っても過言ではない。
そんな私の秘密をラム様は言葉にしなくても察してくださり、その上で黙認してくださった。
それなのに……、私の番はスタガーは償いきれない罪を犯した。意図的に番い様の殺害に関わっていた疑惑が判明したのだ。
その事実を知った時、私はスタガーの死を覚悟しないといけなかった。
番が死ねばラム様のような特殊な理由がなければ狂竜になってしまう、だからそのことをラム様に伝えた時、あの方は真剣な表情で答えた。
「スタガーの行ったことは許されることではない。本来であれば番もろとも死罪に処される位の重罪だ。しかし、ヘイズにはずっと世話になってきた。だから……」
ラム様の提案は意外なものだった。
スタガーを事件の諸々の取り調べが終わり次第、ラム様から私が褒美で頂いた別邸に幽閉することという条件だった。
別邸はとても広く美しいが、構造がとても変わっている。言うなれば大きな鳥籠のようなもので誰かを閉じ込めるのにとても適したものだった。
まだ、スタガーは目を覚まさないが、目を覚まし尋問が終われば永遠に私は番と暮らすことができるのだ。
そんなお膳立てまでしてくださったラム様だから、私はあることを伝えようと思った。
「……ラム様、ペット様の呪印を大きく後退させる方法がございます、ただ……」
その方法はラム様があまり好まないものなので今までは伝えずに来たが、もう時間がない。
「……どんな方法だ??リスクがあってもどんなものでも余は必ずシヅルを救えるなら聞かせて欲しい」
「貴方ならそう答えると思いました。ではお話します、その方法は……」
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