40 / 68
36.義弟は兄に歪んだ想いを抱いていた(志鶯視点)
しおりを挟む
『志鶯』
自分の記憶の一番最初に浮かぶのは自分の名前を呼んでくれた時の柔らかく美しいその人の横顔。
(兄さん……)
オレは兄さんが一方的に好きだ。どうしてそうなったのかはわからない。
けれど、物心ついた時には兄さんに対して恋愛感情で好きだと自覚した。
ただ、それを明かすことは出来なかった。兄さんは異性が恋愛対象だから。
兄さんは知らないだろうけど兄さんが居ない日にこっそり兄さんの部屋に入って兄さんの香りがするベッドに寝転んだり、兄さんの下着をこっそり盗んだりしていた。悪いことだとわかっていたけどどうしてもやめられなかった。
しかし、家庭環境的に兄さんにとってオレは憎い存在だったことはだいぶ後に知ることになった。
両親はオレのことは可愛がったがほっとくといつも兄さんは蚊帳の外にされていた。
だから、兄さんが悲しいのが嫌で兄さんを家族の輪に誘ったけれど、いつも複雑な笑みを浮かべられたのを覚えている。
後に、オレが居る時は両親はあまりあからさまには兄さんに悪いことはしなかった 。だから、オレが兄さんを家族の輪に入れたなら兄さんも家族にとけこめると信じていた。それが兄さんを傷つけているとも気付かずに……。
そして、兄さんが家族にどう扱われていたかという恐ろしい事実は、ある日、突然眼前に晒された。兄さんが一族から絶縁されたと父に言われたのだ。
「どうして、兄さんが家から追い出されないといけないんだ!!」
そう叫んだ時、父はいつものように兄さんと同じ形をした瞳を優しく細めて言った。
「志鶯、私はお前にこの家を継いで欲しいんだよ。それに志鶴、あの出来損ないは我が家を継ぐにはふさわしくないんだ」
父はいつも、兄さんに高望みしていたのは知っていた。けれど、オレはそれは跡取りとして兄さんに期待しているのだと思っていたが違かったらしい。
「そんなはずない、兄さんはオレよりずっと賢い人だったはずだ。それなのに……」
そう口にした時の父の目は見たことがないほど冷たいもので言葉に詰まる。
そんなオレに父は続けた。
「なんにせよ、もうあいつは居ない。跡取りはお前だけなんだよ」
再び優しく微笑んだ父の変貌に寒い物を感じながらもそれ以上は何も言えなかった。
兄さんが家を出て3度目の季節が過ぎた。父に隠れてオレは兄さんを興信所を使い探し出した。
すると、ある地方都市の会社に兄さんが勤めていることを知った。
兄さんに会いたいと思って何度か会社の外で待ち伏せをしたが兄は会社から出てくることがなかった。
最初は勘づかれたかとも思ったが、すぐにそれが違うと知った。
世間知らずの兄さんはブラック企業で働いていたのだ。
博士号まで取得した優秀な兄さんが悪いやつにボロボロにされている。
それが許せず、証拠を集めて企業を訴えてやろうと考えた。
証拠を集めもうついに全てが明るみに出来ると思った時、兄さんが会社から忽然と姿を消した。
その日は兄さんの誕生日で、オレは証拠とケーキや料理を準備して見つけ出した兄さんの家で待っていたのに兄さんは永遠に消えてしまったのだ。
それから、オレは荒んだ。
自身の仕事でもミスが増えたし、同じタイミングで父のオレに対する態度があからさまに変わった。
まるで抜け殻にでもなったみたいに仕事にも家族にも関心を示さなくなった。
そうして、急に隠居すると言い残して会社も何もかもオレに押し付けて消えてしまった。
しかし、その会社の状況が最悪で、兄さんを探す余裕もないほど追い詰められていった。
ある日、ボロボロになりながら兄さんの残したスマホの中身を見て涙に暮れていた時、突然光がオレを包んだ。
『志鶯』
そう懐かしい兄さんのような優しい声に呼ばれた気がした。
「兄さん……!!」
その光の先に兄さんが居る。そう思ったら怖くなかった。
オレの予測通り兄さんはそこに居た。今度こそ兄さんを手に入れたい。
「何がなんでも兄さんに再会してみせる!!」
力強くオレは決意したが、この後とんでもない事態になるなんてまだ知る由もなかった。
自分の記憶の一番最初に浮かぶのは自分の名前を呼んでくれた時の柔らかく美しいその人の横顔。
(兄さん……)
オレは兄さんが一方的に好きだ。どうしてそうなったのかはわからない。
けれど、物心ついた時には兄さんに対して恋愛感情で好きだと自覚した。
ただ、それを明かすことは出来なかった。兄さんは異性が恋愛対象だから。
兄さんは知らないだろうけど兄さんが居ない日にこっそり兄さんの部屋に入って兄さんの香りがするベッドに寝転んだり、兄さんの下着をこっそり盗んだりしていた。悪いことだとわかっていたけどどうしてもやめられなかった。
しかし、家庭環境的に兄さんにとってオレは憎い存在だったことはだいぶ後に知ることになった。
両親はオレのことは可愛がったがほっとくといつも兄さんは蚊帳の外にされていた。
だから、兄さんが悲しいのが嫌で兄さんを家族の輪に誘ったけれど、いつも複雑な笑みを浮かべられたのを覚えている。
後に、オレが居る時は両親はあまりあからさまには兄さんに悪いことはしなかった 。だから、オレが兄さんを家族の輪に入れたなら兄さんも家族にとけこめると信じていた。それが兄さんを傷つけているとも気付かずに……。
そして、兄さんが家族にどう扱われていたかという恐ろしい事実は、ある日、突然眼前に晒された。兄さんが一族から絶縁されたと父に言われたのだ。
「どうして、兄さんが家から追い出されないといけないんだ!!」
そう叫んだ時、父はいつものように兄さんと同じ形をした瞳を優しく細めて言った。
「志鶯、私はお前にこの家を継いで欲しいんだよ。それに志鶴、あの出来損ないは我が家を継ぐにはふさわしくないんだ」
父はいつも、兄さんに高望みしていたのは知っていた。けれど、オレはそれは跡取りとして兄さんに期待しているのだと思っていたが違かったらしい。
「そんなはずない、兄さんはオレよりずっと賢い人だったはずだ。それなのに……」
そう口にした時の父の目は見たことがないほど冷たいもので言葉に詰まる。
そんなオレに父は続けた。
「なんにせよ、もうあいつは居ない。跡取りはお前だけなんだよ」
再び優しく微笑んだ父の変貌に寒い物を感じながらもそれ以上は何も言えなかった。
兄さんが家を出て3度目の季節が過ぎた。父に隠れてオレは兄さんを興信所を使い探し出した。
すると、ある地方都市の会社に兄さんが勤めていることを知った。
兄さんに会いたいと思って何度か会社の外で待ち伏せをしたが兄は会社から出てくることがなかった。
最初は勘づかれたかとも思ったが、すぐにそれが違うと知った。
世間知らずの兄さんはブラック企業で働いていたのだ。
博士号まで取得した優秀な兄さんが悪いやつにボロボロにされている。
それが許せず、証拠を集めて企業を訴えてやろうと考えた。
証拠を集めもうついに全てが明るみに出来ると思った時、兄さんが会社から忽然と姿を消した。
その日は兄さんの誕生日で、オレは証拠とケーキや料理を準備して見つけ出した兄さんの家で待っていたのに兄さんは永遠に消えてしまったのだ。
それから、オレは荒んだ。
自身の仕事でもミスが増えたし、同じタイミングで父のオレに対する態度があからさまに変わった。
まるで抜け殻にでもなったみたいに仕事にも家族にも関心を示さなくなった。
そうして、急に隠居すると言い残して会社も何もかもオレに押し付けて消えてしまった。
しかし、その会社の状況が最悪で、兄さんを探す余裕もないほど追い詰められていった。
ある日、ボロボロになりながら兄さんの残したスマホの中身を見て涙に暮れていた時、突然光がオレを包んだ。
『志鶯』
そう懐かしい兄さんのような優しい声に呼ばれた気がした。
「兄さん……!!」
その光の先に兄さんが居る。そう思ったら怖くなかった。
オレの予測通り兄さんはそこに居た。今度こそ兄さんを手に入れたい。
「何がなんでも兄さんに再会してみせる!!」
力強くオレは決意したが、この後とんでもない事態になるなんてまだ知る由もなかった。
59
お気に入りに追加
592
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます


【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる