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34.社畜サラリーマンはその手をとることにした
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「らみゅさま、でも、わたしはこどもで……そのふうふてきなことがれきなぃ」
涙がボロボロ溢れた。嬉しいのに悲しい。
大好きな竜帝陛下がプロポーズしてくれた喜びと、今の自分がどう足掻いても竜帝陛下と夫婦になれないという事実への絶望感とがせめぎ合う。
「余はシヅルに最初に出会った時にも言ったがシヅルのことを最期まで世話をすると誓った。だからどんなシヅル状態になろうとも伴侶として共に歩みたいんだ」
真摯な瞳で私に視線を合わせた竜帝陛下に胸の中の何かがあふれた。私は、竜帝陛下から差し出された手を小さくなった両手で包むように握った。
「……うっ……うっ。わたしもらみゅさまとずっといっしょにいたい……」
やっと素直な気持ちを口にすると竜帝陛下は私を優しく抱きしめて唇に触れるだけの慈しむような優しいキスを落とした。
そのキスが優しくてあたたかくて、とても幸せでそのまま時間が止まればいいとすら思った。きっと今まで生きて来た中で一番幸せな瞬間だった。
だからかもしれない、私は永遠にその瞬間が続けばいいと心の中で強く願った。
その後、特に何かが変わることはなかったが竜帝陛下はさらに優しく私を甘やかすようになった。幼児の状態なこともあり性的なことは一切ないが穏やかな日常に、私は幸せとは程遠かった自分の幼き日々のやり直しをしているような不思議な気持ちでもあった。
呪印を私につけた人物は見つからなかったがそれなりに幸せな日々を送っていたのだが……。
「竜帝陛下!!異世界人の後からいらっしゃった方のことでお話がございます」
とても疲れたような顔をした見慣れない糸目の男がひとり竜帝陛下の寝室兼私の部屋にやってきた。彼は赤い髪で糸目だがそこそこ大柄な逞しいタイプの竜人だった。
「なんだ、サン、余は見ての通りシヅルのことで忙しい。後から召喚された異世界人のことは……ああ、そうかヘイズは今つきっきりか……」
何か合点がいったように竜帝陛下がひとり頷いた。意味が分からないので大人しく話を聞いていることにした。
「あの方が、シヅル様に会いたいとずっと申している状況で断り続けてはいるのですが……」
「それでもあきらめないのだな」
義弟の志鶯は、よく言えば意思が強く、悪く言えば驚くほどマイペースだった。両親から私が受けられなかった愛を一身に受けて育ったことで自己肯定感が高いのだ。
私に対して意地悪をするようなことはなかったが、だからこそ私は志鶯があまり得意ではなかった。
『兄さんも一緒に食事をしよう』
『兄さんも一緒に遊びに行こう』
悪意なく私を誘い家族の和に入れようとした志鶯。その誘いを断ることが出来ず結果的に胃痛で食べ物がほぼ食べられない食卓や、ひとりだけ明らかに扱いの違う旅行などに連れていかれることになった。
何時思い出しても最悪の記憶ばかりだ。その記憶を思い出して思わず竜帝陛下の胸に縋りついて、
「イヤッ……ヤダーッ!!」
と完全に気にならなくなってきたちいさくってかわいいかんじの言葉で訴える。
「この通り。シヅルは断固として会いたくないといっている。拒否されていることをきっぱり一度伝えるように。それでもあきらめないなら一度余が話をし……」
「イヤ、イヤ、ヤダー!!」
私の中で、竜帝陛下のことは信じているがいままで大切なもの全て無意識に志鶯に奪われてきたので反射的に会わせたくないと思ってしまうのはワガママだ。
「ああ、シヅル、余と異世界人が会うのも嫌なのだな。ならば会わないから安心しなさい。余は一番にシヅルの意思を尊重しよう」
「らみゅさま」
一番欲しい言葉に安心してその腕の中に納まった時だった。
何故か部屋に続く廊下が騒がしい。
「ああ、まさか……、申し訳ありません。おふたりはこのまま部屋に鍵を掛けますのでこのまま中でお待ちください」
涙がボロボロ溢れた。嬉しいのに悲しい。
大好きな竜帝陛下がプロポーズしてくれた喜びと、今の自分がどう足掻いても竜帝陛下と夫婦になれないという事実への絶望感とがせめぎ合う。
「余はシヅルに最初に出会った時にも言ったがシヅルのことを最期まで世話をすると誓った。だからどんなシヅル状態になろうとも伴侶として共に歩みたいんだ」
真摯な瞳で私に視線を合わせた竜帝陛下に胸の中の何かがあふれた。私は、竜帝陛下から差し出された手を小さくなった両手で包むように握った。
「……うっ……うっ。わたしもらみゅさまとずっといっしょにいたい……」
やっと素直な気持ちを口にすると竜帝陛下は私を優しく抱きしめて唇に触れるだけの慈しむような優しいキスを落とした。
そのキスが優しくてあたたかくて、とても幸せでそのまま時間が止まればいいとすら思った。きっと今まで生きて来た中で一番幸せな瞬間だった。
だからかもしれない、私は永遠にその瞬間が続けばいいと心の中で強く願った。
その後、特に何かが変わることはなかったが竜帝陛下はさらに優しく私を甘やかすようになった。幼児の状態なこともあり性的なことは一切ないが穏やかな日常に、私は幸せとは程遠かった自分の幼き日々のやり直しをしているような不思議な気持ちでもあった。
呪印を私につけた人物は見つからなかったがそれなりに幸せな日々を送っていたのだが……。
「竜帝陛下!!異世界人の後からいらっしゃった方のことでお話がございます」
とても疲れたような顔をした見慣れない糸目の男がひとり竜帝陛下の寝室兼私の部屋にやってきた。彼は赤い髪で糸目だがそこそこ大柄な逞しいタイプの竜人だった。
「なんだ、サン、余は見ての通りシヅルのことで忙しい。後から召喚された異世界人のことは……ああ、そうかヘイズは今つきっきりか……」
何か合点がいったように竜帝陛下がひとり頷いた。意味が分からないので大人しく話を聞いていることにした。
「あの方が、シヅル様に会いたいとずっと申している状況で断り続けてはいるのですが……」
「それでもあきらめないのだな」
義弟の志鶯は、よく言えば意思が強く、悪く言えば驚くほどマイペースだった。両親から私が受けられなかった愛を一身に受けて育ったことで自己肯定感が高いのだ。
私に対して意地悪をするようなことはなかったが、だからこそ私は志鶯があまり得意ではなかった。
『兄さんも一緒に食事をしよう』
『兄さんも一緒に遊びに行こう』
悪意なく私を誘い家族の和に入れようとした志鶯。その誘いを断ることが出来ず結果的に胃痛で食べ物がほぼ食べられない食卓や、ひとりだけ明らかに扱いの違う旅行などに連れていかれることになった。
何時思い出しても最悪の記憶ばかりだ。その記憶を思い出して思わず竜帝陛下の胸に縋りついて、
「イヤッ……ヤダーッ!!」
と完全に気にならなくなってきたちいさくってかわいいかんじの言葉で訴える。
「この通り。シヅルは断固として会いたくないといっている。拒否されていることをきっぱり一度伝えるように。それでもあきらめないなら一度余が話をし……」
「イヤ、イヤ、ヤダー!!」
私の中で、竜帝陛下のことは信じているがいままで大切なもの全て無意識に志鶯に奪われてきたので反射的に会わせたくないと思ってしまうのはワガママだ。
「ああ、シヅル、余と異世界人が会うのも嫌なのだな。ならば会わないから安心しなさい。余は一番にシヅルの意思を尊重しよう」
「らみゅさま」
一番欲しい言葉に安心してその腕の中に納まった時だった。
何故か部屋に続く廊下が騒がしい。
「ああ、まさか……、申し訳ありません。おふたりはこのまま部屋に鍵を掛けますのでこのまま中でお待ちください」
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