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31.歪んだ執着(???視点)
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「なるほど、スタガーが捕まったんだ……」
その報告を聞いた時、焦りすら感じなかった。スタガーは、兄は私の言うことを何でも聞いてくれた自分にとって都合の良い人だったはずなのにここまで心が動かない事実に自分でも驚きを隠せなかった。
元々、この心が何事に対しても無感情なのはずっと昔から気付いていた。それこそ、もっとも私が愛しているあのお方への感情以外なにひとつとして意味がないものだった。
「でも、大丈夫。計画はほぼ最終段階まですすんでいるよ」
ニッコリと微笑みながら自身の手の甲を撫でる。そこにはあの方の首筋に刻んだ印と同じものが浮かび上がっている。
(もうすぐあの方が手に入るのだから……)
あの方に刻み込んだこの印は魂のレベルを下げるために必要なものだった。その効果かだいぶ魂が幼稚化している気配を感じた。
(もうすぐ、五千年待ちわびた瞬間を手に入れることができる……もうすぐ)
生まれつき『魂欠け』として生まれた私には番が存在しない。番が存在するこの世界において生まれつきイレギュラーな存在だった。
しかし、それでも気を狂わせずに生きていられたのは呪わしい母の言葉をあのお方の存在だった。
『番であっても永遠なんてない。私を見なさい。私の番は私よりも自分の母親を選んだんだ。それなのに番なんていう呪いがあるから、今もあの男と離縁すらできない』
鬼気迫る表情で母が私に繰り返した言葉。
母は私のところに来る時、いつも泣いていた。私の父は、母の番相手であるスタガーの父ではなかった。だからこそ、私には母は本当の気持ちを唯一吐露できたのかもしれない。
『だからお前はむしろ『魂欠け』でよかったんだ。お前は番なんて枠に含まれない自由な選ばれた子なんだから』
そう言って最後には微笑みながら私の髪を撫でるその横顔と月明りに照らされた銀の髪がまるで金色であるように輝く姿は1枚の絵画のように美しかった。
しかし、ある時期から母は私の前に姿を現さなくなった。
スタガー曰く、母は療養しているということだった。その言葉を聞いた時、なぜか二度と母には会えないのだと直感した。
大人になって知ったのだが、母はスタガーの父親によって最終的に幽閉されたのだと、しかし、隙を見て幽閉先の塔から身投げをし自殺を図ったそうだ。
自殺が成功したか失敗したかは分からない、ただ、それ以来スタガーの父は抜け殻のようになって生活しているというから死んではいないのかもしれないが死んだも同然になったのだろう。
母と予期せぬ別れをしてすぐ、私の生物学的な父がやってきて、公爵家に引き取られた。
そこで、私はあのお方に出会った。
黄金の髪と金の瞳の美しい人、私の最愛にして全てをなげうっても手に入れたいと願った人……、お兄様。そのお姿は月明りの中で私の髪を撫でた母の面影を思い出させるようないつも物憂げな表情と相まって一瞬で私の心を奪った。
少しでも近づきたいと願ったけれど、あの方は輝く魂を持っていて私には簡単には手を出せなかった。
それでも、『ノブレス・オブリージュ』の精神を持つお兄様は私にも施しを忘れないでいてくれた。
ただ、それだけで幸せななずだったのに、その幸せはじわじわと苛まれた。
始まりはスタガーの幼なじみであり王弟殿下の遺児であるリュカ殿下とその側近のアヴェルとの出会いからだった。
ふたりは、私の最愛に酷い扱いをした。
私がいくらいじめを否定してもふたりは聞く耳を持たなかったし、リュカ殿下はお兄様を侮辱した。
お兄様は、リュカ殿下やアヴェルと仲良くなりたかったのだ。
身分の釣り合いが取れた友人がおらず、家族ともあまりうまくいっていなかったお兄様は自分と同じ目線で話をしてくれる友人が欲しかったのだ、それなのに……。
ふたりから拒絶されたお兄様は孤高を選ばざる得なかった。
そのタイミングで私が義弟と判明し、元々あった家族への不信感が爆発して心を閉ざしたお兄様、その姿を見た時に私は確信した。
(今なら、この美しい私の太陽を手に入れられるかもしれない……)
他の連中に有効だった弱々しい態度でお兄様に近づいたが逆効果だった。
「貴様は貴族の、公爵家に連なるものとなったのだ、弱みは見せてはいけないつけ込まれるだけだ」
そう言い放つ孤高の太陽。言葉は冷たく見えて私を案じてくれているのがわかるその姿はあまりに美しく、自信の浅慮さが身に沁みた。
そんな時に追い打ちをかけるように事件が起きた。
なんと、兄上が竜帝陛下の番い様疑惑が出たのだ。
竜帝陛下の番い様となれば私は永遠にあの方に届かなくなる、それだけは嫌だった。
落ち込む私にスタガーがあの恐ろしい計画を持ちかけたのと時を同じくして私は『魂欠け』でも欲しい相手を手に入れる方法を偶然見つけ出した。
手に入れたい相手の『魂を壊すこと』だった。
そうして、相手の魂を堕とすことで手に入れることが可能になるが、『魂を壊した』場合、下級世界に堕ちた魂を探し出す必要が出ると書かれていた。
私は、お兄様が他人のものにならなくすべくリュカ殿下とアヴェルを操り、彼らがお兄様の魂まで壊すように扇動した。
スタガーは自信の力と勘違いしているみたいだが、私には相手を私の意思に扇動することができた。
そうして、約五千年探してやっとお兄様の魂を数多の世界から見つけ出して、またリュカ殿下達を焚き付けて、召喚させた。
(もうすぐだ。だいぶこの刻印によりあの方は……)
手のひらを優しく撫でながら微笑みが浮かぶ。早く手に入れたい、手に入れて全てをドロドロのグズグズにしたい。
汚したい、全部全部、グチャグチャになるくらい犯してやりたい。
「愛おしいルゼルお兄様……」
その報告を聞いた時、焦りすら感じなかった。スタガーは、兄は私の言うことを何でも聞いてくれた自分にとって都合の良い人だったはずなのにここまで心が動かない事実に自分でも驚きを隠せなかった。
元々、この心が何事に対しても無感情なのはずっと昔から気付いていた。それこそ、もっとも私が愛しているあのお方への感情以外なにひとつとして意味がないものだった。
「でも、大丈夫。計画はほぼ最終段階まですすんでいるよ」
ニッコリと微笑みながら自身の手の甲を撫でる。そこにはあの方の首筋に刻んだ印と同じものが浮かび上がっている。
(もうすぐあの方が手に入るのだから……)
あの方に刻み込んだこの印は魂のレベルを下げるために必要なものだった。その効果かだいぶ魂が幼稚化している気配を感じた。
(もうすぐ、五千年待ちわびた瞬間を手に入れることができる……もうすぐ)
生まれつき『魂欠け』として生まれた私には番が存在しない。番が存在するこの世界において生まれつきイレギュラーな存在だった。
しかし、それでも気を狂わせずに生きていられたのは呪わしい母の言葉をあのお方の存在だった。
『番であっても永遠なんてない。私を見なさい。私の番は私よりも自分の母親を選んだんだ。それなのに番なんていう呪いがあるから、今もあの男と離縁すらできない』
鬼気迫る表情で母が私に繰り返した言葉。
母は私のところに来る時、いつも泣いていた。私の父は、母の番相手であるスタガーの父ではなかった。だからこそ、私には母は本当の気持ちを唯一吐露できたのかもしれない。
『だからお前はむしろ『魂欠け』でよかったんだ。お前は番なんて枠に含まれない自由な選ばれた子なんだから』
そう言って最後には微笑みながら私の髪を撫でるその横顔と月明りに照らされた銀の髪がまるで金色であるように輝く姿は1枚の絵画のように美しかった。
しかし、ある時期から母は私の前に姿を現さなくなった。
スタガー曰く、母は療養しているということだった。その言葉を聞いた時、なぜか二度と母には会えないのだと直感した。
大人になって知ったのだが、母はスタガーの父親によって最終的に幽閉されたのだと、しかし、隙を見て幽閉先の塔から身投げをし自殺を図ったそうだ。
自殺が成功したか失敗したかは分からない、ただ、それ以来スタガーの父は抜け殻のようになって生活しているというから死んではいないのかもしれないが死んだも同然になったのだろう。
母と予期せぬ別れをしてすぐ、私の生物学的な父がやってきて、公爵家に引き取られた。
そこで、私はあのお方に出会った。
黄金の髪と金の瞳の美しい人、私の最愛にして全てをなげうっても手に入れたいと願った人……、お兄様。そのお姿は月明りの中で私の髪を撫でた母の面影を思い出させるようないつも物憂げな表情と相まって一瞬で私の心を奪った。
少しでも近づきたいと願ったけれど、あの方は輝く魂を持っていて私には簡単には手を出せなかった。
それでも、『ノブレス・オブリージュ』の精神を持つお兄様は私にも施しを忘れないでいてくれた。
ただ、それだけで幸せななずだったのに、その幸せはじわじわと苛まれた。
始まりはスタガーの幼なじみであり王弟殿下の遺児であるリュカ殿下とその側近のアヴェルとの出会いからだった。
ふたりは、私の最愛に酷い扱いをした。
私がいくらいじめを否定してもふたりは聞く耳を持たなかったし、リュカ殿下はお兄様を侮辱した。
お兄様は、リュカ殿下やアヴェルと仲良くなりたかったのだ。
身分の釣り合いが取れた友人がおらず、家族ともあまりうまくいっていなかったお兄様は自分と同じ目線で話をしてくれる友人が欲しかったのだ、それなのに……。
ふたりから拒絶されたお兄様は孤高を選ばざる得なかった。
そのタイミングで私が義弟と判明し、元々あった家族への不信感が爆発して心を閉ざしたお兄様、その姿を見た時に私は確信した。
(今なら、この美しい私の太陽を手に入れられるかもしれない……)
他の連中に有効だった弱々しい態度でお兄様に近づいたが逆効果だった。
「貴様は貴族の、公爵家に連なるものとなったのだ、弱みは見せてはいけないつけ込まれるだけだ」
そう言い放つ孤高の太陽。言葉は冷たく見えて私を案じてくれているのがわかるその姿はあまりに美しく、自信の浅慮さが身に沁みた。
そんな時に追い打ちをかけるように事件が起きた。
なんと、兄上が竜帝陛下の番い様疑惑が出たのだ。
竜帝陛下の番い様となれば私は永遠にあの方に届かなくなる、それだけは嫌だった。
落ち込む私にスタガーがあの恐ろしい計画を持ちかけたのと時を同じくして私は『魂欠け』でも欲しい相手を手に入れる方法を偶然見つけ出した。
手に入れたい相手の『魂を壊すこと』だった。
そうして、相手の魂を堕とすことで手に入れることが可能になるが、『魂を壊した』場合、下級世界に堕ちた魂を探し出す必要が出ると書かれていた。
私は、お兄様が他人のものにならなくすべくリュカ殿下とアヴェルを操り、彼らがお兄様の魂まで壊すように扇動した。
スタガーは自信の力と勘違いしているみたいだが、私には相手を私の意思に扇動することができた。
そうして、約五千年探してやっとお兄様の魂を数多の世界から見つけ出して、またリュカ殿下達を焚き付けて、召喚させた。
(もうすぐだ。だいぶこの刻印によりあの方は……)
手のひらを優しく撫でながら微笑みが浮かぶ。早く手に入れたい、手に入れて全てをドロドロのグズグズにしたい。
汚したい、全部全部、グチャグチャになるくらい犯してやりたい。
「愛おしいルゼルお兄様……」
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