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30.社畜サラリーマンは不思議なチート能力を手に入れる

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竜帝陛下の命令で集められた全員糸目の竜人達。

「自分もイグリュウなんですーっ」

ヘイズが私に聞こえるように呟いた。ヘイズ曰く糸目の竜人は大体がイグリュウと呼ばれる血筋らしい。

「ヘイズは疑っていないが、今回の件に関わりがあると思われるスタガーはイグリュウで、イグリュウは血族を大切にする傾向が非常に強いため、手引きをしたものがいないことを確認する必要がある」

悲しげに話、竜帝陛下を見ていたらなぜか自然に体が動いていた。

私は竜帝陛下を抱きしめて鼻先にキスをした。

本当は頬か唇にするつもりが、はじめて自分からしたキスは目測より変な方にブレたのだ。

私からの行動に驚いた竜帝陛下が目を見開くのがわかるが、私は何も言わなかった。

何か言葉では慰められないと思ったから。

「……ありがとう、シヅル」

竜帝陛下にお礼とばかりにキスの雨を降らされた時だった。

部屋に入るなり突然、ひとりのイグリュウ系竜人が大量に吐血したのだ。

「スタガー!!」

ヘイズがそう叫び駆け寄ったので、彼こそが疑惑の竜人だと分かった。

会ったことのない竜人のはずなのに何故か既視感があった。

ゼェゼェ死の間際のような息をする彼を見た時、なぜだか急に体が動いた。

竜帝陛下の腕の中から飛び出し、血を吐いて倒れた初対面のはずの男に近づいてその顔をのぞきこんだ。

「スタガー……」

しかし、呼びかけても弱々しい呼吸をするだけで反応がない。

その血の気の失せた顔を見た瞬間私はある言葉を、今までの人生で口にした覚えのないそれを自然と口にした。

だ。スタガー」

そして、何故か私の手からは黄金に輝く光が溢れて、その光が繭のようになりスタガーを包み込んだ。

その光が消えると、スタガーの呼吸は静かになった。

「ま、まさか……毒を浄化した??」

「あの美しいは誰だ??」

「まるで、慈しみ深き初代シュブリュウの女神ルキア様の再来だ」

などなどちょっと意味がわからない賞賛をされた。

(何の話をしている??)

「……スタガー、ああ、ペット様。ありがとうございます」

ヘイズがなぜか大粒の涙を流しながら平伏して言った。

「い、いや、これは……」

自分でもわからず焦っていると何故かセシルがドヤ顔で叫ぶ。

「このお方は深淵なる異界よりいらした客人にして、偉大なる竜帝陛下のペット様でいらっしゃる、シヅル様だ。みなひれ伏すが良い」

そう言うなりセシルが真っ先に五体投地をする。それに倣うようにイグリュウ達が皆五体投地を始めてしまい完全に硬直する。

(なんだ、このヤバい空気は……)

「そうです、我らが同胞の命をも救われた偉大なるお方です」

なぜか、ヘイズにまでそんなことを言われてかたまる。

あまりの異様な光景にまるで幼子のように涙がこぼれてしまう。

「あっ……あっ」

そんな私を竜帝陛下が優しく抱き寄せる。

「お前たちやめなさい。シヅルが泣いちゃったではないか」
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