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12.社畜サラリーマンは奇妙な夢を見る02
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唐突に場面は切り替わる。
それがパーティーの場面だとすぐにわかった。高級ホテルの結婚式か何かのような様子だったからだ。立食パーティーのようだがどのテーブルにも過度なほどに食べ物が置かれていてほとんど手を付けられた形跡がない。
(勿体ない、じつに勿体ない!!)
もし私に実体があれば食べたり飲んだりしたがかったと内心で思っていた時だった。
「何でお前がここに居るんだ」
聞きなれた声が聞こえて眉をひそめた。実際に会ったのはたったの1度なのに何度も夢に現れるせいで良く知っているような気がするその人物へ振り返る。
予測通り、リュカが立っていた。
「ここは僕の家だ。居て悪いか??」
いつものように自動的に彼がしゃべると、リュカはこれ以上ないくらい憎々し気に私、いや、彼を見た。
「確かにお前の家だけど、今日はアナイスの誕生日だ。聖なる力が開花して、伯父上の番い様候補のね。それなのにお前みたいな悪役令息が居たらどういう風に彼が思うか考えられないのか??」
「なぜ、あいつを僕が慮る必要があるんだ??」
一歩も引かずに睨み返した。周りの人物達はふたりの喧嘩を遠巻きに固唾をのんで見守っているのが分かる。
「リュカ殿下、ここで争えばアナイス様が悲しみます」
そうふたりの間に割って入ったのはこの間見た時より幼く見えるがあのリュカのお付きの黒髪の騎士だった。
「……アヴェル」
黒髪の騎士、アヴェルの言葉にもリュカはまだ不服そうだった。そんな時、アヴェルは私に冷たい視線を向けて言い放った。
「それに、この人とは喧嘩する価値すらない」
言葉から隠しきれない侮蔑を感じ、破裂するような怒りが体を貫くのが分かる。しかし、それを抑えるように体の持ち主は口元に笑みを作った。
「ドリアード伯爵令息。君は甥っ子殿下の近衛だからと勘違いしているようだが、僕は小公爵だ。君より爵位が上なことは理解しているかい??」
その言葉に、アヴェルは何も答えずにリュカとその場を立ち去ろうとした。
「……ああ、騎士として腕を磨きすぎて脳みそまで筋肉にでもなってしまったのかな??」
よく通る声での侮蔑だった。一瞬ビクリとアヴェルの肩が跳ねたのが分かるが、振り返ったのはリュカの方だった。
「ふざけるな!!アヴェルは……」
「リュカ殿下、兄上おやめください」
一触即発の空気の中、凛とした声が響き、そこにはひとりの少年が立っていた。
美しいプラチナブロンドの髪をまっすぐに切り揃えられて、黄金の瞳をした儚げなその姿を見た瞬間、私の体は震えた。
それは間違いない、『王妃様』だったのだから……。
「……お前みたいな私生児に兄上と呼ばれるのは大変不快だ!!」
視線の主はそう吐き捨てるとそのままその場を後にした。周りの視線がトゲトゲしく感じたが、それよりも今は私も彼も1秒でも早くこの場を離れたかったのだから。
*********************
再び場面が変わる、そこは以前見た絢爛豪華な部屋だった。
「あ、あの……」
ビクビクしながらこの間の銀髪糸目の召使が話しかけたが、そのまま何も答えなかった。
(こんなつもりじゃなかったんだ……こんな……いつもどうしてこんなことになるんだ)
体の主の記憶がわずかに見えた。彼はリュカやアヴェルとは同じ年ごろのようだったし、同じ学園に通っていたようだった。
元々、彼は自分と同様に高貴な血を持つリュカと友人になりたかったのが分かった。けれど、初めて話した日からずっとリュカから嫌われていたし、その近衛のアヴェルからも好かれていなかった。
さらに異母弟が入学すると、自分とは仲良くならなかったふたりが彼とは友好的に接していつしか友人になっていった。
それが許せなかった。だから、自身の取り巻きと一緒に彼等に喧嘩を売り続けた。けれど彼の心の空洞が埋まることはなかった。
「そ、その坊ちゃま!!」
回想している最中に再度声を掛けられて眉間に皺を寄せながら召使の少年を睨む。
「……うるさい、なんの用だい??」
「も、申し訳ございません。あ、あの、誕生日プレゼントは無事に贈られましたか??」
その言葉を聞くまですっかり忘れていた。彼は、今日こそは異母弟と、アナイスと少しでも仲良くなれたらと考えていたのだから……。
「捨てておけ……ひとりになりたいからしばらく外に出て居ろ」
渡せなかったそれを、乱暴に召使いの少年に渡す。少年はビクンと体を跳ねさせたがそれを受け取った。
「承知いたしました……あっ」
何か焦ったように召使の少年が立ち去ると、部屋は静寂に包まれた。
「どうして、こんなに苦しい??僕は……」
装飾過多な姿見に、涙を流す美しい人が映る。涙まで真珠で出来ていそうに思えた。しばらくひとりで泣いていると、突然部屋の扉が乱暴に開いて、アヴェルや騎士達が突然土足で部屋にやってきた。
「これはどういう了見だい??」
必死に弱みを隠した時、アヴェルが冷たい声で告げた。
「ルゼル・ハトホル・アナン小公爵。義弟殺害、ならびに番い様候補殺害未遂の罪で王宮まで連行させて頂きます」
先ほどの意趣返しのように小公爵に力を込めたアヴェルの声だけが妙に耳に残った。
それがパーティーの場面だとすぐにわかった。高級ホテルの結婚式か何かのような様子だったからだ。立食パーティーのようだがどのテーブルにも過度なほどに食べ物が置かれていてほとんど手を付けられた形跡がない。
(勿体ない、じつに勿体ない!!)
もし私に実体があれば食べたり飲んだりしたがかったと内心で思っていた時だった。
「何でお前がここに居るんだ」
聞きなれた声が聞こえて眉をひそめた。実際に会ったのはたったの1度なのに何度も夢に現れるせいで良く知っているような気がするその人物へ振り返る。
予測通り、リュカが立っていた。
「ここは僕の家だ。居て悪いか??」
いつものように自動的に彼がしゃべると、リュカはこれ以上ないくらい憎々し気に私、いや、彼を見た。
「確かにお前の家だけど、今日はアナイスの誕生日だ。聖なる力が開花して、伯父上の番い様候補のね。それなのにお前みたいな悪役令息が居たらどういう風に彼が思うか考えられないのか??」
「なぜ、あいつを僕が慮る必要があるんだ??」
一歩も引かずに睨み返した。周りの人物達はふたりの喧嘩を遠巻きに固唾をのんで見守っているのが分かる。
「リュカ殿下、ここで争えばアナイス様が悲しみます」
そうふたりの間に割って入ったのはこの間見た時より幼く見えるがあのリュカのお付きの黒髪の騎士だった。
「……アヴェル」
黒髪の騎士、アヴェルの言葉にもリュカはまだ不服そうだった。そんな時、アヴェルは私に冷たい視線を向けて言い放った。
「それに、この人とは喧嘩する価値すらない」
言葉から隠しきれない侮蔑を感じ、破裂するような怒りが体を貫くのが分かる。しかし、それを抑えるように体の持ち主は口元に笑みを作った。
「ドリアード伯爵令息。君は甥っ子殿下の近衛だからと勘違いしているようだが、僕は小公爵だ。君より爵位が上なことは理解しているかい??」
その言葉に、アヴェルは何も答えずにリュカとその場を立ち去ろうとした。
「……ああ、騎士として腕を磨きすぎて脳みそまで筋肉にでもなってしまったのかな??」
よく通る声での侮蔑だった。一瞬ビクリとアヴェルの肩が跳ねたのが分かるが、振り返ったのはリュカの方だった。
「ふざけるな!!アヴェルは……」
「リュカ殿下、兄上おやめください」
一触即発の空気の中、凛とした声が響き、そこにはひとりの少年が立っていた。
美しいプラチナブロンドの髪をまっすぐに切り揃えられて、黄金の瞳をした儚げなその姿を見た瞬間、私の体は震えた。
それは間違いない、『王妃様』だったのだから……。
「……お前みたいな私生児に兄上と呼ばれるのは大変不快だ!!」
視線の主はそう吐き捨てるとそのままその場を後にした。周りの視線がトゲトゲしく感じたが、それよりも今は私も彼も1秒でも早くこの場を離れたかったのだから。
*********************
再び場面が変わる、そこは以前見た絢爛豪華な部屋だった。
「あ、あの……」
ビクビクしながらこの間の銀髪糸目の召使が話しかけたが、そのまま何も答えなかった。
(こんなつもりじゃなかったんだ……こんな……いつもどうしてこんなことになるんだ)
体の主の記憶がわずかに見えた。彼はリュカやアヴェルとは同じ年ごろのようだったし、同じ学園に通っていたようだった。
元々、彼は自分と同様に高貴な血を持つリュカと友人になりたかったのが分かった。けれど、初めて話した日からずっとリュカから嫌われていたし、その近衛のアヴェルからも好かれていなかった。
さらに異母弟が入学すると、自分とは仲良くならなかったふたりが彼とは友好的に接していつしか友人になっていった。
それが許せなかった。だから、自身の取り巻きと一緒に彼等に喧嘩を売り続けた。けれど彼の心の空洞が埋まることはなかった。
「そ、その坊ちゃま!!」
回想している最中に再度声を掛けられて眉間に皺を寄せながら召使の少年を睨む。
「……うるさい、なんの用だい??」
「も、申し訳ございません。あ、あの、誕生日プレゼントは無事に贈られましたか??」
その言葉を聞くまですっかり忘れていた。彼は、今日こそは異母弟と、アナイスと少しでも仲良くなれたらと考えていたのだから……。
「捨てておけ……ひとりになりたいからしばらく外に出て居ろ」
渡せなかったそれを、乱暴に召使いの少年に渡す。少年はビクンと体を跳ねさせたがそれを受け取った。
「承知いたしました……あっ」
何か焦ったように召使の少年が立ち去ると、部屋は静寂に包まれた。
「どうして、こんなに苦しい??僕は……」
装飾過多な姿見に、涙を流す美しい人が映る。涙まで真珠で出来ていそうに思えた。しばらくひとりで泣いていると、突然部屋の扉が乱暴に開いて、アヴェルや騎士達が突然土足で部屋にやってきた。
「これはどういう了見だい??」
必死に弱みを隠した時、アヴェルが冷たい声で告げた。
「ルゼル・ハトホル・アナン小公爵。義弟殺害、ならびに番い様候補殺害未遂の罪で王宮まで連行させて頂きます」
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