社畜サラリーマン、異世界で竜帝陛下のペットになる

ひよこ麺

文字の大きさ
上 下
9 / 68

閑話:社畜サラリーマンの消えた世界01(上司視点)

しおりを挟む
その頃、社畜サラリーマンが消えた会社では……、

「ああ。クソっ、どこに行ったんだ……」

冬の寒い日、立花が忽然と失踪した。会社の入り口の監視カメラには立花が外に出た様子は写されていないので会社に居ると考えられたが現在まで行方はようとて知れないまま1か月の時が立ってしまっていた。

俺にとって、立花は部下であり、仕事を押し付けるのに最適な男だったので大変迷惑している。

「課長、これどうすればいいですか??」

困ったように新人の高橋が俺に聞いてきた内容は、さっぱりわからなかった。

しかし、それは俺が課長であり、マネージャーであるのだから作業については現場の人間が把握しているべきことだったので気にせずに、ひとりで黙々仕事をしているもうひとりの部下に声を掛けた。

「田中君」

「なんですか??」

名前を呼ぶと不機嫌そうに返事をされて内心で苛立ちを感じる。

この田中と立花と新人の高橋が俺の部下なのだが、田中はとても扱いが難しいヤツだった。仕事は割と出来るが、自分が正しいと思わない場合、納得するまで仕事を受け付けないような面倒なヤツだった。

だから、何も言わないで都合の良い立花に新人教育は任せていたのだが、立花が居ないなら田中に頼まざるえないのだから、背に腹は代えられない。

「高橋の質問に答えてやってくれないか??」

「それは無理ですね」

考える素振りもなくそう答えた田中は、こちらを見ることもなくカタカタとパソコンのキーボードを打ち続けている。苛々したが、なるべく穏やかに聞き返す。

「無理と言われても、君以外やれる奴がいないだろう??」

「課長は僕の仕事量は把握されてますか??」

やっと手を止めたと思うと田中は、目の前に積まれた書類の山を指さした。

確かに、田中はこの部署の全体業務のをしている。だが、立花も同じ量の仕事をしながら新人教育や急な仕事に対応をしていた。

だから、田中にだってできるはずだ。

「部署の業務の半分程度の仕事だろう。それなら立花も行っていたし、あいつはそれプラス高橋の教育だってしていて……」

「はぁ、課長がマネージャーとしてあまり有能でないのは知ってましたけど、自分が管理すべき部署の業務量や状況を全然把握できてないんですね」

「なんだと!!お前、馬鹿にしているのか!!」

明かに小馬鹿にするような田中の態度に机を叩いて思わず怒鳴ってしまった。おかげで周囲から注目されるが、とうの田中は涼しい顔をしていた。

周りの冷たい視線に、バツが悪くて咳払いをした。

「コホン。状況なら把握している。その上でお前の業務量なら高橋の世話ができると思って……」

「無理ですね。立花さんが居なくなってから、作業系の業務は全て僕が片しているんです。つまり以前の2倍の業務があります。その上で、今日中に片す必要がある書類をすべて処理するのに、残業確定です。その上で覚えが物凄く悪い役に立たない新人の世話なんてしたら、僕は終電を逃します」

きっぱりと言いきられる。田中の言葉で気付いたが、そう言えば新人の高橋は4月に入った新卒だが、2月現在まで独り立ちをしている気配はない。急に自分を見たことに気付いたのか、高橋が複雑そうな顔をする。

しかし、今は高橋は関係ない。田中に業務の話をしているのだから。

「終電がなんだ。今は緊急時なんだから無理なら残業するしかないだろう。立花君だってそうしていたはずだ」

「そういう無理が積み重なって立花さんは失踪したんですよ。僕は給料に見合う程度の働きまではしますが、先ほどおっしゃった内容はそれを明らかに超過してます」

田中の目は完全に俺を軽蔑しきっていた。

その言葉に、立花のことを思い出す。自分が帰宅する時もいつもひとりで会社に残り仕事をしていて、朝だって誰よりも早く出勤していた。

から、その状況が当たり前となっていたが、よく考えたら異常であったことに今更気付いた。

「課長。立花が失踪した日、元々彼は有休を希望していたのを覚えていらっしゃいますか??」

「覚えている。しかし、あいつが休んだら業務が滞るだから難しいと話をした」

田中の言葉にめずらしく立花が休みを取りたいと言ったのを思い出した。

(そう言えば、珍しく何回か休みたいと打診されたな……すべて突っぱねたが)

ですか、僕からしたらあれは完全に脅しレベルでしたけどね。課長、それパワハラって自覚ありますか??有休は労働者の権利です。確かに繁忙期などは難しい場合は時期の変更について打診できますがうちのチームの場合いつだって同じ状況で改善される見込みもなく代わりの有休日程も明示されない」

「……何が言いたいんだ??」

気付いた時には、田中の胸倉をつかんでいた。しかし田中の表情は変わらない。

、ずっとお話していた通りでしたでしょう??」

そう俺には見えない背後の人物に田中が話しかけた。その言葉にスッと血の気が引いて振り返るとそこには、見慣れた上司が冷たい目をしてこちらを見つめているのが見えた。

「あっ、あの……」

「森田君、君には別室で話がある」

その言葉に俺は、田中から手を離す。諸々が暗転していくような気持ちになったのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

処理中です...