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06.社畜サラリーマンと不穏な悪夢
しおりを挟む竜帝陛下との謎の攻防の後、バスローブだがかんとか服を手に入れて眠りについた2日目の夜、奇妙な夢を見た。
幼い頃から、夢と現実がごっちゃになり混乱するということが多々あった。
それをコントロールするために夢日記をつけることで夢の中で夢と気付くことが可能になったのだ。
だから、その夢が始まった時、すぐにそれが夢だと気付いた。それは私が幼い日から繰り返し見ている夢だった。
夢の中の私は、いつも地下牢の中に居て、そのジメジメとした空気と嫌な臭いを感じる。
(夢くらいはいつも思うがもう少し希望に溢れていてほしいのだが……)
そこまで考えて、今までの人生に夢も希望もなかったことと、夢とは潜在意識だという話を思い出す。
つまり、私は夢も希望もない人生により悪夢こそ見る要因はあってもそれから逃れる術はない、ただ、夢と認識して早めに切り上げえるくらいが関の山なのだ。
だから、すぐに目覚めたくて目が覚めるよう念じた。
いつもなら目が覚めるはずが起きられる気配すらない。
(なぜだ?)
カビ臭い地下牢でボロボロの服を着て座り込んで絶望していると、私は自分の意思に関係なく叫び出した。
「ちがう、ちがうやってない、やってない!!」
まるで、記憶でも見ているみたいにこの夢はいつも私の意思に関係なくここで叫ぶ。
そして、脳裏に幼い頃の嫌な記憶がよみがえるのだ。
私には年子の義弟が居た。
義弟は、父の再婚相手の連れ子だったが、実際は私の母が生きている時から浮気をして出来た父の隠し子というのが真実だった。
名家同士の約束によって結婚した父と母は、表向きは理想の夫婦を演じていたが1ミリも愛し合ってはいなかった。
古い名家というしがらみにより出来上がった家族、親類もみな同じようなものだったので誰ひとりその歪さを異様と思うものはいない、そんな家だった。
その中で、父はどこかでそれに抗うことを望んでいたのだろう。
だから、名家同士の血を引いた愛していない息子ではなく、愛した人の血を引いた弟を家の跡取りに据えたかったのだ。
母を亡くしてからの私の生活は地獄だった。
私が家の跡取りに相応しくないと周りに刷り込むために、無実のことで父親から精神的な虐待を受け続け絶縁したあの日まで尊厳を踏みにじられ続けた。
夢が無意識の顕在化なら、あれは今も咎なき罪で酷い目にあった昔の私が無実を訴える叫びなのだと解釈している。
その時の感情がよみがえり、しばらく忘れていた痛みを感じた。
だから、この夢は好きではなかった。
しばらく、ただ叫び続けていると、牢の外にはどこか見覚えのある男がひとり怒りの入り混じった瞳でこちらを見つめているのが分かった。
今までは知らない人物だったが、彼がリュカの側近の騎士だと分かった。
(なぜ、彼がこの夢に??)
昔から見る夢に、この世界の住人が出ている事実に驚きが隠せずにいると、さらに先の展開を思い出してハッとした。
(……このまま、続くならあいつも出てくるな……)
コツコツ
いつものように牢へ近づいてくる足音が響いた。足音が牢の前に来たことがわかり顔を上げた。
(来たな……)
そこには私を召喚して蔑んでいた少年、リュカが立っていた。
そう、彼も夢の中に出てくるのだ。
「……お前がなぜ!!」
相変わらず自動的にそう口にした私は、深い憎しみがこもった目でリュカが睨みながら見下すように冷ややかに口角だけを上げている。
不思議と彼がまるで仇のように憎かった。
「そんなの、お前が番様を襲ったからに決まっているだろう!!お前がバカなのは知ってたけど、それがどれだけ重い罪かわからないほどのバカだったなんて流石にびっくりしたよ」
「意味が分からない。何を言っているんだ」
「ふざけるなよ、お前が大切な番様であるアナイスを殺そうとしたことは分かっているんだ」
全ては自動でなされる、まるでテレビでも見ているように。
そんな光景を全自動の醒めた目で見ていたその時だった。
『シヅル、シヅル』
誰かが優しく呼ぶ声がした。
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