社畜サラリーマン、異世界で竜帝陛下のペットになる

ひよこ麺

文字の大きさ
上 下
3 / 68

02.社畜サラリーマンと救世主??

しおりを挟む
「お前たち、異世界人……いや、可愛い子ちゃんをむやみに召喚した上に暴力をふるうとは何事だ」

「伯父上……、お前たちやめろ!!」

突然現れた男の一声に焦ったように暴力をふるっていた連中の動きが止まる。

そして、先ほどまで傲慢な態度をとっていたリュカが明らかに狼狽えたのが分かった。

(なるほど、この人物がこいつらの親玉か……)

「竜帝陛下、リュカ殿下は、竜帝陛下のためを想い異世界人の召喚を断行されたのです」

竜帝陛下の言葉に、ひとりだけ口を挟んだのは先ほど私が体当たりした男だった。

彼はそう言えば私への暴力にも最後まで参加してはいなかった。

私に体当たりされて倒されて気絶していたと思っていたが、特に何事もないようにいつの間にか立ち上がって、リュカを庇うように横に立っていった。

主君への忠義の高い騎士なのだろうが、私には関係がない。

彼らの様子を目で追いながら、逃げ出す機会を狙うために、
こっそりと足元に転がりながら、みじめにフレームが曲がってしまった眼鏡を拾った。

(よし、このまま逃げよう)

そう考えたが、私は顔を上げた際に竜帝陛下を目視してしまった。

竜帝陛下は見たことがないほど、まさに息を呑むようなまさに夜の闇のような漆黒の艶やかな髪が美しく、さらにその瞳はいかなる黄金よりも美しいと思った。

リュカの瞳も美しいが竜王陛下の比ではない。あまりの美しさに息を呑むが、その頭には人間には生えていない立派な2本の象牙のような角が生えていることに気づいてしまった。

(……人外??いや、そんなはずがあるはずない)

そう考えたが、本能が自分とは違う上位種族であると警告している。

人類では太刀打ちできない恐ろしい力を持った存在、理解したくないが察してしまったせいで、前回の魔法ではなく金縛りにでもあったように体が動かなくなった。

「……リュカ、アヴェルの言葉は真実か??」

竜王陛下が吠えるような声でそう言った瞬間、勇ましく主君のために前に出た黒髪の騎士さえも全員が息を飲んだのが分かった。

まさに、あたりの空気がピンと張りつめる。息を飲み込む音すら聞こえそうな沈黙を破るように、リュカがスッと息を吸ってから言葉を紡いだ。

「はい。伯父上がを亡くして以来その、元気がなかったので王妃様と相談したのです。可愛らしい異世界人でも愛玩用に呼べば少しでも癒しになるかって、でも召喚されたのがこんなヨレヨレの冴えないヤツで悔しくて……」

涙を流しながらそう告げたリュカの姿は儚く美しい。

通常の人物ならその言葉に納得したかもしれない。

しかし、竜王陛下はそんなリュカの言葉をスルーするようにボロボロになっている私の元へ歩み寄った。

一瞬、あの一番若い騎士が私に近付こうとしたがあまりの覇気にその場から動けなくなっているのが分かった。

(まずい、殺されるのか??)

竜帝陛下が近くに来て分かった追加情報として背丈が2m近いということにも気付いてしまった。

さらなる恐怖に体が小刻みに震えてしまう。

(もうだめだ……)

少しでも恐怖を和らげたくて私はきつく目を瞑ったが……、

「……可哀そうに、痛かったね、怖かったね。可愛い子ちゃん、余は怖い存在ではないよ」

先ほどとは全く違うまるで仔猫にでも話しかけるように優しい声色で話しかけられて、ゆっくり目を開くと、蕩けるような笑顔で私に視線を合わせるように屈んで手を差し伸べている竜帝陛下が居た。

「うっ……うううっ!!」

暴力と恐怖から声がうまく出ないで、まるで小動物が威嚇するような声が出てしまったが、そんな私にさらに竜帝陛下は優しく声を掛ける。

「おいで。さあ。ほら、怖くない。怖くない」

そう言って手を目の前に持ってこられたことに驚いて、私は先ほどの恐怖もあり本能的にその指に噛みついた。

(まずい!!)

口の中に鉄錆のような味がする。竜帝陛下の指から血が流れていた。

「異世界人の分際で貴様!!」

大人しくしていたリュカの口から暴言が漏れた。しかし、すぐに竜帝陛下に睨まれて大人しくなる。

竜帝陛下は向き直り、再び私に優しく微笑む。

「ほらね、怖くない、可哀そうに。おびえていただけなんだよね」 

その言葉に、何故かとても酷いことをしたと思い傷つけてしまった指に触れるように手を伸ばすと、竜王陛下はそのまま優しく腕の中に私を抱え込んだ。

「よしよし、いい子だ」

そう言って優しく抱きあげられたあげく背中を撫でられることになり困惑する。

さらに、よく考えたら抱き方が人を抱きかかえるというより猫を抱いているような感じなのも大変気になったが、抵抗する気は不思議と起こらなかった。

「なっ、伯父上、そいつのどこが可愛いんですか!!そんなヤツより僕の方がよほどかわいいです!!」

大好きな伯父さんをとられたという気持ちなのかリュカは膨れながら地団駄を踏んだ。

しかし、そんなリュカに対して、先ほど私に見せた優しい笑顔から般若のような表情に変化した竜帝陛下はまさに雷のような怒声を上げた。

「ふざけるな。お前は異世界からこの可愛い子ちゃんを無理やり呼んだ上で気に入らないからと暴力をふるったのだ。そのような非竜人道的な行いはあるまじきことだ。お前が甥っ子とはいえ許しはしない」

あまりの迫力に再び体が本能的に震える。それに気づいた竜帝陛下はまたとても優しい笑顔で私の今度は髪を優しく撫でながら、

「ああ、怖かったね、大丈夫だよ可愛い子ちゃん。可愛い子ちゃんは余がちゃんと守ってあげるからね」

そう言って、30歳社畜の私に何故か竜帝陛下は頬摺りをした。

本来、男に頬摺りなどされたら不快だが、触れた肌の感覚の心地よさと、その体からはする良い香りによって抵抗らしい抵抗をすることができない。

(何故か心地よくて頭がぼんやりする……)

しかし、脳の正気な部分がこれは良くないと言っている気がしたので急いでその顔を手で押し返して拒絶する。

「や……ろっ」

『やめろ』と言いたかったが口の中が切れていて言葉にならない。

そんな姿を悲しい目で見つめられたかと思うと、突然口づけをされた。

「んっ……!!」

厚い舌が口腔内に入り込んで優しく歯を撫でながら、口の中を優しく吸われる。想像していない事態に抵抗できないままされるがままにされた後、唇が離れると不思議と口の中の痛みが消えたのが分かった。

さらに何故か首の下らへんを優しい手つきで撫でられるとそこにあった傷も消えていた。

「な、伯父上、どうみてもそんな冴えないボロボロの異世界人が可愛いわけないです!!そいつは処分して新しく可愛い異世界人を呼べばいい」

リュカが血走る目でこちらを睨んでそう言ったが、その視線から守るように私の目を竜王陛下は大きな手で覆った。

「リュカならびに近衛第2騎士団、先ほども言ったが罪のない可愛い子ちゃんを勝手に呼び出して暴行した罪は大きい。その上反省も見えない。彼奴等を地下牢へ連れていけ」

「伯父上!!嫌です!!」

リュカが抵抗しようとしたが、すぐにどこから現れたのか、大人数の男達に奴らは取り押さえられた。

そして、暴行を加えた者はひとり残らず連行されていった。

「可愛い子ちゃん、甥っ子とその騎士が酷い怪我をさせてしまって本当にすまない」

そう言って、『痛いの痛いの飛んでいけ』の要領で優しく体中を撫でられると不思議なキラキラの光が漏れて、暴力を受けた傷がみるみる消えいくのが分かった。

その非現実な現象に驚いていると何故か眠気に襲われる。

竜帝陛下に疑問を聞こうとしたのに強い眠気に襲われて重力に耐えられず瞼を閉じる。

静かに失われていく意識の中で、頭に竜帝陛下の凛とした声だけが響いた。

「可愛い子ちゃん、大丈夫。全て余が面倒見よう」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...