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01.前世を思い出した僕はエルフの叔父どのに変なお面を被せられる寸前だった。

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「これは可愛いルナークたんを守るためだ」

そう言ったのは、プラチナブロンドの絹のような美しい髪に深い海のような碧い瞳をした、それはもう眼球が潰れてしまうのではないかというほどの、この世のものでは絶対ないタイプの気配のする美しい男だった。

しかし、その言葉とは裏腹にその手にはバチクソグロいウサギのお面を持っていて意味がわからない。

彼が僕の叔父でありエルフの王レグルスであるということが脳内に浮かび理解はできたけどバチクソリアルなウサギ顔のお面を無理やり被せようとしている理由はまだ分からない。

(なんであんなにうさぎ面グロいの?叔父どのの趣味なの??絶対斧とかで人殺すタイプのうさぎ面だよ、うん、被ったら某ゲームの爆音鼻歌系キラーになるな……ん??)

そのシュールな場面のせいか突然僕の脳内に前世の日本での記憶が蘇る。

そして、気づいてしまった。ここが、僕が前世、愛読していた追放系ざまぁ小説『勇者パーティーを追放された僕こそが本当の勇者でした』こと『追放勇者』の世界であり、僕がその主人公、小人族とエルフ族のハーフのルナークであることと、今が過保護で最強にして最恐の叔父の『可愛いルナークたんの顔を人間風情に見せたくない』とかいう意味わからん理由で奇抜で呪われてるウサギのお面を被せられる場面だという事実を、完全に正気度チェックが必要な場面だということも。

(そもそも、このお面のせいでこれからがハードモードになるんだよな……)

実際、このお面のせいで僕が予言された勇者と同じ髪色と目の色をしているということがわからなくなり、結果的に本来は勇者ではない人間の国の王子が勇者ということになったあげく、その勇者が驕ったせいで、その仲間たちによって割と長い間面倒くさいいじめを受けることになってしまうのだ。

「いやだ!!こんなお面被ったらきっといじめられてしまうよ!!」

小人系の血のせいで小学生程度の背丈しかない僕がスラリとした長身の叔父に抗うように暴れたところで意味はないけどとりあえず野々村元県議くらい意味わからない奇声をあげて暴れ回ってみた。

「この仮面をォンフンフンッハ、コノ、コノヨァアアアアアアアアア↑↑↑アァン!!!!!! アゥッアゥオゥウア゛アアアアアアアアアアアアアーーーゥアン! コノニホォァゥァゥ……ア゛ー! コノヨノナカヲ… ウッ…ガエダイ!」

最後に足をぶらぶらさせて玉座を蹴ってバンバンした。

「ははは、可愛いルナークたん、泣かないで。安心して。このお面には監視用魔法が掛かっているからもしルナークたんをいじめる不届きなヤツがいたら全て私がエルフの王の名にかけてないないしてあげるよ」

野々村元県議くらい奇声をあげても、暗黒微笑を浮かべる美エルフには効かない。

勇者相手にレベル上げ要因のクソ雑魚モンスターが泣き叫ぶ以外できない状況っぽくって泣きたい。いや、もう泣いてるけど。

「ッヘッヘエエェエェエエイ↑↑↑↑ア゛ァアン!!!嘘だ!!叔父どのは僕を助けてくれない!!」

こんなに過保護なのに、何故かウサギのお面が原因でひどい目に遇うルナークをこの叔父が助けた描写はない。いや、確かに追放後、崖から突き落とされた時は高速で救われたがそれまでの辛い部分でなぜか手を差し伸べられていないのだ。

(正直ここまで僕を溺愛していることを考えるとすごい不自然ではあるけど……)

「ルナークたん……私はルナークたんに嘘なんかつかない。よし、そこまで心配なら叔父どのが可愛いルナークたんについて行って……」

「何をおっしゃるのですか陛下、陛下には執務がございます」

国を放り出す発言に焦ったように黙って横に構えていた宰相が口を出した。

プラチナブロンドの髪にグレーみがかった鋭い青の瞳をした長身のやはり美しいエルフの男。

その顔を見た瞬間、脳内にある言葉が蘇る。

『高貴なエルフの血を汚した薄汚い小人の血を引いた穢らわしいハーフエルフ風情が!!』

(あ、この人のせいで叔父どのは僕がいじめられている情報を知ることが遅れたんだったな……)
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