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58:対峙(レオンハルト視点)※時間が少し遡ります
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※流血表現があります。
「ルシオン殿下、申し訳ございません。本来貴方に最後まで付き従い安全に小公爵様をお助けする予定でしたが、私はここでこの男を食い止めないといけません。だから……ここから逃げてください」
なんとしても主の大切な甥御様であるルシオン殿下を逃がさなければいけない。私にとって主の大切な人は私にとっても大切な存在であるため何が何でも望みを叶えてあげなければいけない。
その言葉の後、しばらくしたようにルシオン殿下が去って行く姿が見えた。その姿を見送りながら、心の中で囁く。
(それで良いのです)
目の前の男がこちらを睨んでいるのが分かる。その顔に浮かぶのは隠すことができないほどの深い憎しみだった。
「ギムレット殿、いいえ。レイン殿下と呼ぶべきでしょうか??」
その言葉に、レイン殿下は低い声で答えた。
「殿下はやめてくれない??僕は一度だってそんな扱いを受けたことはない」
血を吐くように答えた言葉。真っすぐ見つめた真紅の瞳には憎しみより濃い憎しみが映り込んでいた。
カルナック公爵様から伺った言葉が頭を過った。
『ギムレット、いや弟のレインは、母親の身分のせいで王族の血を引きながら冷遇されて育った。私はそんな弟をずっと不憫に思ってきた』
この国で、もっとも高貴な血を継いでいながら、ずっと冷遇を受け続けて歪んでしまったその人の佇まいは、けれどとても品が良く見えた。
「分かりました。ではレイン様。ここで貴方を足止めしなければいけません」
「お前はそうだろうな。本当ならお前には僕は恨みはない。けれど、邪魔をするなら戦うしないね」
その言葉と共に、大きな魔法の力を感じた。間違いない再び音波の魔法を使ったようだ。音の魔法は相手に悟られずダメージを与えることが出来るので本来ならとても強い魔法ではある。
しかし、察知と打消しの魔法を得意としている私には、それは効かない。
大きな魔法の気配を私は打ち消す、魔法を無言で放つ。
「……なるほど。やっぱりお前が魔法を打ち消したのか。あの甘ちゃんの坊やにそんなことはできないって思っていたけど中々厄介だよね」
「そうです。私の前で魔法は無力です。だから、どうか投降してください」
私は、彼を殺すようには命を受けていない。カルナック公爵様は弟であるレイン様をできれば救いたいと聞いているし、我が主も『一応、その男も可愛いルシオンの叔父仲間だからもし投降するなら丁重に扱え』と言っていた。
だから、そう問いかけた。
しかし、レイン様は首を横に振る。
「まさか、そんな甘っちょろい考えで国を乱そうとするわけないでしょう??それに僕にだって守らないといけないものがある。そのためなら命だって惜しくない」
そう言ったレイン様の口元がニヤリと笑う。カルナック公爵様からはレイン様は魔法に特化しているがそれ以外に隠し玉があるとは言われていなかった。
そこで私が、そう考え悩んで隙が出来たことこそが相手の思惑だった。
レイン様だけを見ていて、私は忘れていたのだ。私達のすぐ側に倒れていた男の存在を…・・・。
グサッ
足音もなく近づいた男は、何の躊躇もなく私の胸を突き刺した。咄嗟に強化魔法を使ったので貫通こそはしなかったが、重症なのにはかわりない。
「確かに魔法ならお前はほぼ無敵かもしれないけど、体術はそこまでじゃないよね」
「……グッ……」
私の体が完全に倒れる。痛みが体を貫いている。回復魔法を使いたいがどうやら刺された刃物が特殊なようで回復が思うようにできないまま失血し、意識が遠のいていく。
そんな私が伏しているの中で、レイン様の元へ、マティーニが寄り添うように立つ。その口の端からは血がこぼれて苦しいだろうに男はそれを完全に押し込めている。
「……レイン様申し訳ございません。遅くなりました」
「いいよ。それよりそろそろ準備は整ったよね??」
「はい。行きましょう王宮へ……」
(止めねば……)
しかし、今、回復魔法を止めたなら私は死ぬだろう。
(主の、最愛のアンドレイ様のためなら私は死んでも止めないと……)
そう、私が誰より愛し敬愛するアンドレイ様のためならば、私は……そう考えて回復魔法を止めようとしたとき脳内に声が響いた。
『レオンハルト、無理はするな』
そう、最愛の主の声が響いた。私にも持たせてくださっていた竜玉からの通信だ。
(しかし、あのふたりを逃したら……)
『それより、お前を失う方が問題だ。今こちらから援軍を送っている。だからもう戦うな』
転移装置を使うのだろう。
瞬間移動ができれば早いが、該当の魔法は個人でしか使うことができない。そのため軍勢を送るならば転送装置を使うのだが、その場合、移動よりはたやすいが時間がある程度かかる。
「そうだ、この男にとどめを刺さねば」
まだ息がある私に気付いたマティーニがこちらににじり寄る。動くことのできない私は、そのまま死を受け入れるしかない。
「アンドレイ様、私の愛する番様、申し訳ございません」
「ルシオン殿下、申し訳ございません。本来貴方に最後まで付き従い安全に小公爵様をお助けする予定でしたが、私はここでこの男を食い止めないといけません。だから……ここから逃げてください」
なんとしても主の大切な甥御様であるルシオン殿下を逃がさなければいけない。私にとって主の大切な人は私にとっても大切な存在であるため何が何でも望みを叶えてあげなければいけない。
その言葉の後、しばらくしたようにルシオン殿下が去って行く姿が見えた。その姿を見送りながら、心の中で囁く。
(それで良いのです)
目の前の男がこちらを睨んでいるのが分かる。その顔に浮かぶのは隠すことができないほどの深い憎しみだった。
「ギムレット殿、いいえ。レイン殿下と呼ぶべきでしょうか??」
その言葉に、レイン殿下は低い声で答えた。
「殿下はやめてくれない??僕は一度だってそんな扱いを受けたことはない」
血を吐くように答えた言葉。真っすぐ見つめた真紅の瞳には憎しみより濃い憎しみが映り込んでいた。
カルナック公爵様から伺った言葉が頭を過った。
『ギムレット、いや弟のレインは、母親の身分のせいで王族の血を引きながら冷遇されて育った。私はそんな弟をずっと不憫に思ってきた』
この国で、もっとも高貴な血を継いでいながら、ずっと冷遇を受け続けて歪んでしまったその人の佇まいは、けれどとても品が良く見えた。
「分かりました。ではレイン様。ここで貴方を足止めしなければいけません」
「お前はそうだろうな。本当ならお前には僕は恨みはない。けれど、邪魔をするなら戦うしないね」
その言葉と共に、大きな魔法の力を感じた。間違いない再び音波の魔法を使ったようだ。音の魔法は相手に悟られずダメージを与えることが出来るので本来ならとても強い魔法ではある。
しかし、察知と打消しの魔法を得意としている私には、それは効かない。
大きな魔法の気配を私は打ち消す、魔法を無言で放つ。
「……なるほど。やっぱりお前が魔法を打ち消したのか。あの甘ちゃんの坊やにそんなことはできないって思っていたけど中々厄介だよね」
「そうです。私の前で魔法は無力です。だから、どうか投降してください」
私は、彼を殺すようには命を受けていない。カルナック公爵様は弟であるレイン様をできれば救いたいと聞いているし、我が主も『一応、その男も可愛いルシオンの叔父仲間だからもし投降するなら丁重に扱え』と言っていた。
だから、そう問いかけた。
しかし、レイン様は首を横に振る。
「まさか、そんな甘っちょろい考えで国を乱そうとするわけないでしょう??それに僕にだって守らないといけないものがある。そのためなら命だって惜しくない」
そう言ったレイン様の口元がニヤリと笑う。カルナック公爵様からはレイン様は魔法に特化しているがそれ以外に隠し玉があるとは言われていなかった。
そこで私が、そう考え悩んで隙が出来たことこそが相手の思惑だった。
レイン様だけを見ていて、私は忘れていたのだ。私達のすぐ側に倒れていた男の存在を…・・・。
グサッ
足音もなく近づいた男は、何の躊躇もなく私の胸を突き刺した。咄嗟に強化魔法を使ったので貫通こそはしなかったが、重症なのにはかわりない。
「確かに魔法ならお前はほぼ無敵かもしれないけど、体術はそこまでじゃないよね」
「……グッ……」
私の体が完全に倒れる。痛みが体を貫いている。回復魔法を使いたいがどうやら刺された刃物が特殊なようで回復が思うようにできないまま失血し、意識が遠のいていく。
そんな私が伏しているの中で、レイン様の元へ、マティーニが寄り添うように立つ。その口の端からは血がこぼれて苦しいだろうに男はそれを完全に押し込めている。
「……レイン様申し訳ございません。遅くなりました」
「いいよ。それよりそろそろ準備は整ったよね??」
「はい。行きましょう王宮へ……」
(止めねば……)
しかし、今、回復魔法を止めたなら私は死ぬだろう。
(主の、最愛のアンドレイ様のためなら私は死んでも止めないと……)
そう、私が誰より愛し敬愛するアンドレイ様のためならば、私は……そう考えて回復魔法を止めようとしたとき脳内に声が響いた。
『レオンハルト、無理はするな』
そう、最愛の主の声が響いた。私にも持たせてくださっていた竜玉からの通信だ。
(しかし、あのふたりを逃したら……)
『それより、お前を失う方が問題だ。今こちらから援軍を送っている。だからもう戦うな』
転移装置を使うのだろう。
瞬間移動ができれば早いが、該当の魔法は個人でしか使うことができない。そのため軍勢を送るならば転送装置を使うのだが、その場合、移動よりはたやすいが時間がある程度かかる。
「そうだ、この男にとどめを刺さねば」
まだ息がある私に気付いたマティーニがこちらににじり寄る。動くことのできない私は、そのまま死を受け入れるしかない。
「アンドレイ様、私の愛する番様、申し訳ございません」
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