雨ニモマケヌ、野ニ咲ク花ノヨウニ〜魅了魔法で全てを失った元王子の拙者は前世推しに貢いで爆ぜたアイドルオタクだと思い出した

ひよこ麺

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47:愛は血の雨とともに02(マティーニ視点)

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「〇〇、必ずレイン様を守り抜きなさい」

それが母の最期の言葉だった。こと切れた母は、私ではなくレイン様を案じながら死んだのだ。

普通の子供ならばショックを受けただろうが、私にとって両親はほとんど接点のない大人にすぎなかった。だから冷たいと思われるかも知れないがそのようにこと切れた母親の遺言のためにレイン様を守ろうと考えたことはない。

ただ、血まみれの母が託した美しい人であったレイン様をはじめて見たその日に、私はきっと恋をしたのだ。

祖母は私に金を握らせて言った。

「このお金を持って、その方と私の古い友人を訪ねなさい」

今から見ればほんのわずかだった金、しかし村八分にされてほとんど自給自足の生活をしていた祖母にとってはきっとなけなしのそれを私に託されたと後で理解した時には、私の心は既に冷たく凍っていたがそれでも僅かに心が波だったそれは祖母の深い愛だと今でも思う。

レイン様を連れて祖母に言われた人のところへ向かった。その人は、小さな娼館の主だという。私もレイン様もまだ娼館が何かを知るには幼かった。

その人にお金を渡して、事情を話すと私とレイン様を匿ってくれることになった。

その人、初代ギムレットは、祖母の幼馴染で蛇の血筋の人だった。だから、『信じられる』と子供ながらに思った。

それは、祖母から常に聞いていた子守歌の中で『人は裏切るが蛇は裏切らない』という内容をずっと聞いていたからほぼ洗脳に近い理解をしていたのだろう。

娼館での日々は、村での日々よりも慌ただしく、幼い頃から下働きとして働くことになったし、娼館という大人の愛憎が常に満ちていて穏やかな村での日々とはかけ離れていた。

けれどレイン様は、今まで周りに悪意のある者達だけに取り囲まれていたせいかその少し澱んだ生活すらも大切だというように毎日を幸せそうに過ごしていた。

「レイン様、本来なら貴方はこんな場所に居るような身分ではないのですよ??」

一度、思わずそう言った私を、レイン様は少しぼんやりと見つめて、

「身分??僕はもっと酷い場所にいたよ??ここは少し頭がおかしい人は多いけど全員が全員冷たくはない」

と答えて花が綻ぶような美しい笑みを浮かべた。

その微笑みがあるなら、私は本来、祖母と暮らした村のような静かなところを好むが悪くないと思えた。

レイン様とふたりで支え合いながらふたりで娼館ですこしずつ大人になっていく。

レイン様は娼館の者が喜んだため時々『色変え』のスキルを使って人々を楽しませたり驚かせたりしていたい。この魔法はレイン様の母上が花の妖精の血を引いているため得たものだとこっそり話してくれた。

美しい人。レイン様

誰よりも誰よりも愛おしい大切な大切な人。

貴方がずっと笑っていられるためなら私はなんにでもなれると、その日々で想い続けた。蛇の一族は執念深いと言われているがそれは違う。ただ一途なだけである。

穏やかな日々がそのまま、何事もなく時が流れていくと信じていた。

しかし、残酷な運命はレイン様をそのままにはしてくれなかった。レイン様のスキルの噂を聞きつけたあの男が娼館を訪れたのだ。

イスカリオテ侯爵は魔力量こそ全てであるという、魔力至上主義者だった。しかし、その当時はまだそちらよりも血統を重んじる血統至上主義が中央権力をほしいままにしていた中で、イスカリオテ侯爵は自身の野望のために強い魔力を持つ者を探していた。

そして、レイン様はまさにその条件に当てはまった。その当時もっとも魔力量が優れていると言われていたレイン様の異母兄で現国王よりも豊富な魔力量を持っていたのだから。

さらに、質が悪かったのは、レイン様は自身の母上が死ぬ原因になった王族に対して深い憎しみを持っていたため、そこをヤツに利用されてしまったのだ。

『レイン、ふたりの力で王家を覆さないかい??』

一見穏やかな貴公子のように見えたイスカリオテ侯爵はしかし、狡猾な男だと私にはすぐにわかった。彼と関わるとレイン様に死の危険や、不幸な未来が訪れてしまう気がした。だから、止めた。

けれど、レイン様は、ある日イスカリオテ侯爵について行ってしまい姿を消してしまった。

私はその日から必死にレイン様を探した。些細な内容も全てさらった。

しかし、たったひとりで探れる情報には限度があり、大貴族の後ろ盾を持って失踪したレイン様を見つけることはできなかった。

そんなある日、王都でクーデーターがあったとついにレイン様関連の情報を仕入れることができた。クーデターの首謀者はレイン様で、さらにレイン様の出自が知れた時、王侯貴族はこの一連の事件を完全にこの件を、隠蔽すると決めたらしい。

ただ、レイン様の父親であった前国王は、レイン様の悲惨な状況に涙し本来であれば国家転覆は死罪だが延命の判決を下した。

しかし、この話は嘘でレイン様の母上の呪いが関係していたのではと自分は思った。なんせ、愛妾だったはずのレイン様の母上が亡くなって以来その息子であるレイン様を一度も案じたことのない王が果たしてレイン様に対してそんな感情を抱いたとは思えなかった。

前国王は現国王と比べたら賢い王だった。だから情でそのような判断は絶対にしない。しかし、表向きの理由として綺麗にまとまるそれを選んだのだろう。

レイン様は、そのまま幽閉されることになったが、私はその好機を逃さなかった。

レイン様と、別人を入れ替えたのだ。

「レイン様、帰りましょう」

やっと救い出した主を私は、強く抱きしめた。

しかし、私は一足遅れてしまったのだ。救い出したレイン様は、花が綻ぶように微笑んでいたレイン様の瞳は、幼い日、救われたばかりのあの日よりさらに翳り、まるでビー玉のようになんの感情も映していなかったのだから。
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