雨ニモマケヌ、野ニ咲ク花ノヨウニ〜魅了魔法で全てを失った元王子の拙者は前世推しに貢いで爆ぜたアイドルオタクだと思い出した

ひよこ麺

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27:脱出大作戦02(レイモンド視点)

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狂ったように恍惚の表情で笑っていたミハイルの手が首から離れた時、沸き立ったのは純粋な恐怖と、この男は自分を愛していると言いながら歪んだ執着をしているだけだという嫌悪の感情だけだった。

「はぁ、いい目だレイ。精々今は俺に抵抗すればいい。それが叶わない、俺のお嫁さんになるしかないってあきらめて、俺にその綺麗な体を差し出すようになるまでゆっくり待っている」

「……」

何も答えないでいる私の顔を舐めるように見つめるその顔は、到底今まで親友として私の側にいた男と同一人物とは思えなかった。

それから、ミハイルに連れられた食堂で出された料理はどれも、私の好きなものばかりだった。

「口に合うかな……。料理自体は好きなものを選んだが公爵家とココでは格が違い過ぎるからな、本当はレイの体に入るものは全て吟味してだしたかったけど、時間がなくって今日だけは許してくれ」

そう目の前の鴨肉にナイフを立てながら言う男の姿を、注意深く俺は見ていた。何か隙を見つけてとにかくここを早く脱出しなければいけない。

ただ、現段階で、私は魔法を封じられている。魔法さぇ使えればスキルの力でこの状況を打破できるが、魔法を封じているこの腕輪が厄介だ。

本来は、囚人につけるそれはとても強力な封印の魔法がかかっており、内側から魔力をこめて破壊しようとしても壊すことができない。

ただ、外から魔法を使えば壊すことができるので、ミハイル以外で誰か協力者を得ることができればなんとかなるだろう。

しかし、問題はここは敵地であるということだ。

(なんとか公爵家の騎士や関係者に居場所を伝える術があれば……)

それを探るためにも今いる食堂についてもよく確認した。しかし、この装飾過多な古い時代の建造物は酷く派手なのに何とも言えない陰鬱さと閉塞感がある。

具体的には窓にはまるで牢獄のように鉄柵が全てかかっており、換気ができるだろう窓はとても届かないような高い場所に設置されていた。

まるで、内部に閉じ込めた小鳥を逃がさないように作られた酷く豪華な鳥籠のようなこの建物だとそう思った時、そう言えば自分もそういう場所に愛しいルシオンを閉じ込めようとしていたことを思い出した。

(皮肉だな……鳥籠に閉じ込めるつもりが別の鳥籠に私が連れ込まれるなんて……)

「レイ、此処は気に入ったか??お前も気付いていると思うけれどここは鳥籠のように中に入った者を外に出さない構造になっているんだ。前にレイがあのヌルをこういう場所に閉じ込めたいと言っていたから、好きなのかと思って親類がちょうど保有していたから譲ってもらったんだ」

笑顔で、血のような赤ワインを煽りながらミハイルが自慢げに笑う。

か……」

「そうだ。アルトは俺の母方の親類で俺とも昔から仲が良いんだ。レイは嫌いだったみたいだけど……」

のアルト。

その名を聞いて不快感がせり上がってきた。

アルトは私の大切なルシオンを傷つけたひとりだ。

正確にはアルトの母親がルシオンの捕まっていた離宮に務める使用人のトップであった侍女頭であり、ルシオンに対して酷い嫌がらせをしていた。

特にひどかったのが、初めてルシオンにあった時、ルシオンはとても王子とは思えない服装をしていた。しかし、いくら陛下や王妃様がルシオンに関心はなくても、王子の生活に使われる予算が存在する。

ルシオンの予算を侍女頭は横領していたのだ。ただ、この侍女頭の質が悪いところは公の場に出る時に異常を悟らせないように、ルシオンを『暗愚でワガママ』という印象になるように離宮内の情報を統制していたことだろう。

元々、ルシオンを毛嫌いする陛下が、ルシオンが苦しんでいるからと救うことがないことを知っていたのもあるだろう。結果として、該当の印象操作が、侍女頭が解任された後もルシオンを苦しめ続けたことは近くで見ていた私が一番よく知っている。

そして、その侍女頭の失態により、本来はマグダラ伯爵家であり、イスカルオテ侯爵家と縁戚の高位貴族だった家格が、男爵まで降格となりさらに横領した金額を王家に返済するために数多の建物や持ち物を手放す羽目になったということは風の便りで聞いていたが、正直ざまぁみろとしか思っていなかった。

その家の子息のアルトは、ルシオンと同学年だった。

侍女頭は同じ年の息子がいるのに、ルシオンを虐げていたと思うとより怒りが湧いたし、アルトはいつも張り付けたような笑みを浮かべた正直信頼するべきところが見当たらないような人物だったので、私は何度かミハイルが彼を紹介してきたが、その度に気のない返事をし続けた。

そうして、お前もお前の家のことも私は許さないという意図を出していた。この件を今更この状況で話しても意味はないだろう。

「確かにアルトの母親は犯罪に手を染めたことは一族としては許しがたい行為だった、が、あのヌルに予算があったこと自体が間違えだろう??魔力のない存在なんて、神に選ばれていない平民と同じなのだから」

あまりの言葉に、無意味に言葉を紡ぐのが悪手だと分かっていても怒りがこみ上げた。

「そのヌルというのをやめろ。ルシオンだ。名前で呼べ。後魔力があるから神に選ばれた訳じゃない。だとしたら私の父上だって神に選ばれなかったことになる、そんなわけがない。父上は……」

ガチャン!!

私が父上は『真実の目』を持っていると口にしかけた時、突然配膳をしていた使用人のひとりが皿を落とした。

「申し訳ございません」

そう急いで謝罪して、頭を下げたのは糸目の男でそんなヘマをするようには見えないどこか蛇のような隙のない雰囲気の男。

(どこかで見覚えがあるな……)

「……魔力がない者は神の加護を受けられなかった存在だ。そんな存在をもっとも神に愛されたレイが庇うなんてだめだぞ」

男の謝罪など聞いていないように甘く呟いて恍惚の笑みを浮かべるミハイルの様子を、男は特に気に留めることもなく、淡々と己の職務をこなしていた。

そして、その調子で高揚したミハイルがルシオンに酷い侮辱を吐いて雰囲気の悪いまま食事は終わると、ミハイルは私を部屋に再度閉じこめてその場を立ち去った。

部屋に戻ってから、ぼんやりと先ほどまでの一連の行動の中に抜け穴がないか、脱出の手がかりがないか考えた時、何かが頭上からパラパラと落ちて来た。反射的にそれを拾い上げれば紙片のようだった。

「これは……」
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