28 / 74
26:脱出大作戦01(レイモンド視点)
しおりを挟む
「何故こんなことになったんだ??」
見慣れない古ぼけた装飾過多で楕円形の絵画のはめ込まれた天井を眺めながら、ミハイルのあの狂気に満ちた表情と言葉を思い出していた。
『だめだよ、レイモンド。お前は俺のお嫁さんになるんだ。あんなヌルの婿ではなく俺だけの……ああ、でも……』
(そう狂った表情で私の首を絞めながら……)
思い出しただけで気分が悪くなった。
何故、親友だと思っていた男にあんなことをされたのか、全く分からない。
ミハイルとは、幼なじみだった。イスカルオテ侯爵家は国にとって発言力のある貴族でありミハイルはその家の子であるため、上位貴族の子息の中でも中心的な存在であった。
我がカルナック公爵家は爵位こそ上だが、父が魔力量が少ないため王家の血を引きながら大公位を得れなかったという事実があり、あまり権力を持つ家門ではなかった。
けれど、何故かミハイルはその公爵家の嫡男の私に仕えるような形で親交は深められたのが、よく考えたら不思議だった。
(そう言えば彼と出会った時……)
回想するために目を閉じた。
ミハイルと初めてあったのは、確か父上について王城へ登城した日だったはずだ。
伯父上は終始笑顔で私に対して親し気に話しかけて気にかけてくれていたが、今思えば伯父上も魔力至上主義であったので魔力量が自身の親類で一番高かった私に対して優しかったのだと今更ながら理解する。
そして、そういう考え方の伯父上は実子であるルシオンを必要以上に毛嫌いした。
(ルシオンはあんなに素晴らしい子なのに……ああ、ルシオン。君に会いたい……)
ミハイルのことを思い出そうとしたのに、脳内にはルシオンのあの控え目な微笑みが浮かんきてしまう。そして、自分がどれだけルシオンだけを愛しているかを再確認すると共に、早くここから抜け出さないといけないと改めて決意を胸にしつつ、回想に思考を戻した。
そうして、伯父上からその日、ミハイルの父であり宰相のイスカルオテ侯爵と、ミハイルを紹介された。
はじめて会った時にミハイルの感じたのは、選民思想の強い子供だということだった。
父上とイスカルオテ侯爵との間で何やら話し合いがあったらしく、別室でミハイルとふたりきりになった時、ミハイルはキラキラとした瞳で私にこう言ったのだ。
「カルナック公爵家の嫡男で現在この国で一番魔力量が多いレイモンド様、お会いできて光栄です」
「……ああ、そうだ」
投げやりに答えたのは、そういう風に魔力量で判断して近づいてくる大人にも、その大人の影響で近づいてくる子息連中にもその時の僕はげんなりしていた。
ミハイルも最初はそういうヤツだと思ったので、私は冷たくそう言い放つ。そうするといままでの連中は愛想笑いを浮かべて立ち去ることが多かったからだ。
しかし、ここでミハイルだけ違う行動に出た。
「じゃあ、その、俺と友達になってくれませんか??側近とかでも構いません。俺は、将来この国のために自分の魔力で尽くしていきたいので……レイモンド様のような魔力量の高い方と切磋琢磨したいのです」
ハキハキと自身の夢を語る姿には、邪念があるようには思えなかった。
そして、なによりこの国のために自身が持つもので貢献したいという言葉は、他のただ私の側で甘い蜜を吸いたいと願う人間とは違う気がした。
「分かった。そういうことなら、よろしく」
そう言って握手するために差し出した手を嬉しそうに、握り返して微笑んだミハイルは無邪気な普通の少年に見えた。
それから、親交を深めていくうちに気心の知れた関係になったが、よく考えたらミハイルは終始、ルシオンについては悪いことしか言っていなかった気がした。
曰く、
『隣国の帝国の姫である王妃様の血筋があるから、国際的な軋轢を生まないために王城にいるが魔力もないあんなヌルより、魔力量もあるレイモンドこそ王に相応しいはずだ』
『どうして、レイモンドとあいつが婚約しないといけない、陛下のご命令でも酷すぎる』
などと言ったことがあった。これについては私が愛しいルシオンに対しての悪口は絶対に許さないと強く伝え、最悪絶縁も辞さないことも伝えるようになってからはなりを潜めた。だから、ルシオンは誤解されているだけだと分かってくれたのだと思っていた。
しかし、あくまで言わなくなっただけでミハイルはずっと、ルシオンに対して敬意を示すことはなく、ひたすらに見下していたのだろう。
そこまで考えた時、部屋の扉がノックされた。
「……はい」
答えると、今一番聞きたくない声がした。
「レイモンド、食事をしよう」
「……」
正直食欲など微塵もないので無言でいると、扉が開いて満面の笑みを浮かべたミハイルが立っていた。思わず嫌悪に表情が歪む。
そんな、私に構うこともなく、近づいてこようとしたので逃げようとしたが、魔法を唱えて動きを封じられた。
「レイモンド、ちゃんと食べないと体に毒だぞ」
とまるで友人同士の時のように心配そうに言われて思わず吐き捨てるように答えてしまった。
「うるさい。お前の手籠めになるくらいなら死んでや……っ!!」
言葉が終わる前に、この間と同じように節くれだった手が、私の首を絞めた。あまりの苦しさにキッとミハイルを睨むが、その目は私を映しながら嬉しそうに三日月型に歪んだ。
「はぁ。レイモンド。お前の命は今、俺が握っているんだよ。この手の下で脈打つ命も全て全て俺だけのものなんだ……はぁ、レイモンドをこのまま無理やりに奪うことだって俺にはできる。けれどそれをしないでいるんだ、どうしてか分かるか??」
(わかるわけないだろう!!そんな狂人の気持ちなど……)
心の中で罵っていたが、恍惚としたレイモンドには届いていない。代わりにおぞましい返事が返ってきた。
「レイモンド自身が、俺のお嫁さんになりたいって言葉にさせたいからだ。ああ、そう、俺だけのレイモンド、いやレイになりたい、俺を全て受け入れたいと言わせたいんだ。ははははは」
見慣れない古ぼけた装飾過多で楕円形の絵画のはめ込まれた天井を眺めながら、ミハイルのあの狂気に満ちた表情と言葉を思い出していた。
『だめだよ、レイモンド。お前は俺のお嫁さんになるんだ。あんなヌルの婿ではなく俺だけの……ああ、でも……』
(そう狂った表情で私の首を絞めながら……)
思い出しただけで気分が悪くなった。
何故、親友だと思っていた男にあんなことをされたのか、全く分からない。
ミハイルとは、幼なじみだった。イスカルオテ侯爵家は国にとって発言力のある貴族でありミハイルはその家の子であるため、上位貴族の子息の中でも中心的な存在であった。
我がカルナック公爵家は爵位こそ上だが、父が魔力量が少ないため王家の血を引きながら大公位を得れなかったという事実があり、あまり権力を持つ家門ではなかった。
けれど、何故かミハイルはその公爵家の嫡男の私に仕えるような形で親交は深められたのが、よく考えたら不思議だった。
(そう言えば彼と出会った時……)
回想するために目を閉じた。
ミハイルと初めてあったのは、確か父上について王城へ登城した日だったはずだ。
伯父上は終始笑顔で私に対して親し気に話しかけて気にかけてくれていたが、今思えば伯父上も魔力至上主義であったので魔力量が自身の親類で一番高かった私に対して優しかったのだと今更ながら理解する。
そして、そういう考え方の伯父上は実子であるルシオンを必要以上に毛嫌いした。
(ルシオンはあんなに素晴らしい子なのに……ああ、ルシオン。君に会いたい……)
ミハイルのことを思い出そうとしたのに、脳内にはルシオンのあの控え目な微笑みが浮かんきてしまう。そして、自分がどれだけルシオンだけを愛しているかを再確認すると共に、早くここから抜け出さないといけないと改めて決意を胸にしつつ、回想に思考を戻した。
そうして、伯父上からその日、ミハイルの父であり宰相のイスカルオテ侯爵と、ミハイルを紹介された。
はじめて会った時にミハイルの感じたのは、選民思想の強い子供だということだった。
父上とイスカルオテ侯爵との間で何やら話し合いがあったらしく、別室でミハイルとふたりきりになった時、ミハイルはキラキラとした瞳で私にこう言ったのだ。
「カルナック公爵家の嫡男で現在この国で一番魔力量が多いレイモンド様、お会いできて光栄です」
「……ああ、そうだ」
投げやりに答えたのは、そういう風に魔力量で判断して近づいてくる大人にも、その大人の影響で近づいてくる子息連中にもその時の僕はげんなりしていた。
ミハイルも最初はそういうヤツだと思ったので、私は冷たくそう言い放つ。そうするといままでの連中は愛想笑いを浮かべて立ち去ることが多かったからだ。
しかし、ここでミハイルだけ違う行動に出た。
「じゃあ、その、俺と友達になってくれませんか??側近とかでも構いません。俺は、将来この国のために自分の魔力で尽くしていきたいので……レイモンド様のような魔力量の高い方と切磋琢磨したいのです」
ハキハキと自身の夢を語る姿には、邪念があるようには思えなかった。
そして、なによりこの国のために自身が持つもので貢献したいという言葉は、他のただ私の側で甘い蜜を吸いたいと願う人間とは違う気がした。
「分かった。そういうことなら、よろしく」
そう言って握手するために差し出した手を嬉しそうに、握り返して微笑んだミハイルは無邪気な普通の少年に見えた。
それから、親交を深めていくうちに気心の知れた関係になったが、よく考えたらミハイルは終始、ルシオンについては悪いことしか言っていなかった気がした。
曰く、
『隣国の帝国の姫である王妃様の血筋があるから、国際的な軋轢を生まないために王城にいるが魔力もないあんなヌルより、魔力量もあるレイモンドこそ王に相応しいはずだ』
『どうして、レイモンドとあいつが婚約しないといけない、陛下のご命令でも酷すぎる』
などと言ったことがあった。これについては私が愛しいルシオンに対しての悪口は絶対に許さないと強く伝え、最悪絶縁も辞さないことも伝えるようになってからはなりを潜めた。だから、ルシオンは誤解されているだけだと分かってくれたのだと思っていた。
しかし、あくまで言わなくなっただけでミハイルはずっと、ルシオンに対して敬意を示すことはなく、ひたすらに見下していたのだろう。
そこまで考えた時、部屋の扉がノックされた。
「……はい」
答えると、今一番聞きたくない声がした。
「レイモンド、食事をしよう」
「……」
正直食欲など微塵もないので無言でいると、扉が開いて満面の笑みを浮かべたミハイルが立っていた。思わず嫌悪に表情が歪む。
そんな、私に構うこともなく、近づいてこようとしたので逃げようとしたが、魔法を唱えて動きを封じられた。
「レイモンド、ちゃんと食べないと体に毒だぞ」
とまるで友人同士の時のように心配そうに言われて思わず吐き捨てるように答えてしまった。
「うるさい。お前の手籠めになるくらいなら死んでや……っ!!」
言葉が終わる前に、この間と同じように節くれだった手が、私の首を絞めた。あまりの苦しさにキッとミハイルを睨むが、その目は私を映しながら嬉しそうに三日月型に歪んだ。
「はぁ。レイモンド。お前の命は今、俺が握っているんだよ。この手の下で脈打つ命も全て全て俺だけのものなんだ……はぁ、レイモンドをこのまま無理やりに奪うことだって俺にはできる。けれどそれをしないでいるんだ、どうしてか分かるか??」
(わかるわけないだろう!!そんな狂人の気持ちなど……)
心の中で罵っていたが、恍惚としたレイモンドには届いていない。代わりにおぞましい返事が返ってきた。
「レイモンド自身が、俺のお嫁さんになりたいって言葉にさせたいからだ。ああ、そう、俺だけのレイモンド、いやレイになりたい、俺を全て受け入れたいと言わせたいんだ。ははははは」
0
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
35歳からの楽しいホストクラブ
綺沙きさき(きさきさき)
BL
『35歳、職業ホスト。指名はまだ、ありません――』
35歳で会社を辞めさせられた青葉幸助は、学生時代の後輩の紹介でホストクラブで働くことになったが……――。
慣れないホスト業界や若者たちに戸惑いつつも、35歳のおじさんが新米ホストとして奮闘する物語。
・売れっ子ホスト(22)×リストラされた元リーマン(35)
・のんびり平凡総受け
・攻めは俺様ホストやエリート親友、変人コック、オタク王子、溺愛兄など
※本編では性描写はありません。
(総受けのため、番外編のパラレル設定で性描写ありの小話をのせる予定です)

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。
いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。
エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。
俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。
処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。
こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…!
そう思った俺の願いは届いたのだ。
5歳の時の俺に戻ってきた…!
今度は絶対関わらない!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる