上 下
18 / 74

16.いきなり現れたその人は……

しおりを挟む
拙者は夢を見ていた。それは生まれ変わった後の幼少時代の夢だった。

拙者の今生の両親は、仲が悪くいつも口論を繰り返していた。幼い拙者はそれを当たり前のように遠くから見ていた。

遠いから声はよく聞こえない。漏れ聞こえる僅かな内容が耳に入る。

「……は余の子ではないだろう??」

「なんど…………!!……は、……」

「嘘をつくな!!」

繰り返される罵倒の応酬に怯えていると、後ろから抱きしめられて耳をふさがれた。

「ルシオン殿下、聞いてはいけません」

その優しい声に振り返ろうとしたが……、そこで夢から覚醒した。

目覚めたそこは、大きな天蓋付ベットの上というなんか想像と全く違う部屋でござった。というかここはどこだろう、拙者の記憶が正しければ確か黒いマスクの人に攫われてここに来たはずなのだが……。

そこまで考えた時、部屋のドアが開いて可愛らしいメイドさん♂が入ってきた。そして拙者の顔を見るなり急に涙をこぼしてそのまま部屋を出て行ってしまった。

「えっ、これなんというドッキリでごさるか??」

意味がわからず唖然としていると、それから秒と立たずに思い切り扉が開いてみたことない人が部屋に飛び込んできた。

その人は、長身で筋肉質で銀髪に青い瞳をしたイケメンだった。

そのイケメンが、大粒の涙をこぼしながら拙者をそれはそれは強い力で抱きしめたのだ。つまり……

「グエッ!!」

華奢な拙者はその圧に潰されて、潰されたカエルのような呻きを上げることになってしまった。そんな拙者の様子に、イケメンは気付く様子もなく頬ずり地獄を味わう羽目になった。

助けてほしくて周囲を見るが、周りもみんな何故か涙を流して、

「良かった」

「一時はどうなるかと思った」

などと口々に言っていたが、その中に見覚えのある人物が居ることに気付いた。間違いない、そこに居たのは見覚えのある黒髪に赤い瞳の魔法師団長、レオンハルト殿だった。

「な、なんでレオンハルト殿がいるでござるか??レオンハルト殿、このイケメンの拙者を絞め殺そうとしている人は誰でござるか??」

とりあえず周りが全く拙者の状態に気付いていないので訴えるようにそう叫ぶと、レオンハルト殿はスペースキャットみたいな顔をしてから、「はっ」としたようになり、急いでイケメンを止めた。

、そのように強く抱きしめたらルシオン様が窒息されてしまいます。ただでさぇ王城ではルシオン様の扱いは望ましくないものでございましたのでとても繊細で華奢な方なので……」

その名を聞いた時、拙者に電撃が走った。拙者は父方の親類との交流は僅かながらになったが母方、つまり帝国側の親類とはほとんど没交渉だった。

それは母上が拙者に対して愛情がないため、母上にとって大切な帝国側の家族との接触を好まないためだと思ってきた。

実際、一度も拙者は帝国へ行ったこともあちら側の祖父母、つまり現帝国の皇帝陛下と妃殿下にお会いしたこともない。

ただ、隣国については重要なためある程度の知識は身に着けていて、皇族の名前と肖像画から顔も一通り覚えていた。

その中で王国と隣国の国境線の帝国側の広大な土地を領地として持っていて、王国からすれば大変恐ろしい隣国の英雄で銀色の髪に青い瞳をしたご仁は『銀色の悪魔』と渾名されている、アンドレイ・アンデレ・リゲルことリゲル辺境伯の名前も勿論知識として知っているし、かの人が母上の弟君であり、拙者からみたら叔父であるということも知ってはいた、知ってはいたが……。

「可哀そうなルシオン。ああ、何故こんなひどいことをされないといけないのだ。やはり兄上は無理やりでも離婚させて帝国へ帰らせるべきだったのだ。大体、あのクソ王も王国もこちらが本気になれば木っ端みじんにできるのだから我慢などさせる必要はなかった」

「あ、その、話が進み過ぎて読者の方々同様に拙者も何を言っているのか分からない状態でござるが、ご仁は、そのリゲル辺境伯でござるか??」

首をコテンと傾げる。美少年のその姿に何故か余計泣いてしまう叔父上、そして……。

「そんな他人行儀に呼ぶのはおやめ。ルシオン、おじちゃまとかおじたんとかこうなんか親し気に呼んでほしい」

といきなり難易度ルナティックなことを言われる、元コミュ障のドルオタの拙者の運命やいかに……。とりあえず無難な呼び方をしよう。

「そ、そのおじしゃま……あっ」

噛んでしまった。叔父様と言おうとしておじしゃまとか幼児みたいな呼び方をしてしまった。あまりの恥ずかしさに消えたいと思ったが……。

「おじしゃま……いいな、うん。最高だ。僕がルシオンのおじしゃまだよ可愛い可愛いルシオン、心配しないでね、あんなクソみたいな国は、兄上を救出したらおじしゃまがちょっと捻って滅ぼしてあげるからね」

物凄い無邪気な笑顔で恐ろしいことを言うその人に思わず震えて助けてほしいという眼差しをレオンハルト殿に向けたが、無表情に少し困ったような顔をしているが助けてくれる気配はなかった。

「いや、話が脱線しておりますが一体これはどういうことなのか、そのご説明願いたい」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね大歓迎です!!

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

処理中です...