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13.最愛保護監禁大作戦(レイモンド視点)

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「……なるほどあくまでシラを切るつもりみたいだな」

ルシオンの行方がわかってすぐ、私は動いた。

娼館にコンタクトを取り、ルシオンの身請けを申し入れしたのだ。

しかし、娼館からの返答は至極シンプルで、

「そんな人物は娼館に在籍していない」

と言うものだった。こちらは影が念入りに調べて全て把握していると言うのに、なんとも粗末な答えだ。

(随分と舐められたものだな……)

我が公爵家は父は臣下降下したため王位継承権は持たないが、私には第2位の王位継承権が元々あった。

さらに、悲しい話だがルシオンが廃嫡されたことで第1位に繰り上がり立太子も決まった。

それについてはずっとルシオンと王太子の教育を受けて来たため問題はない。

(本当はルシオンを支えるために勉強したんだが。ああ、でもその権力でルシオンを大切に大切に私の檻の中に入れて守れる。早く愛する君に会いたい、今まで我慢していた全てを手に入れたい……)

そんなことを考えていた時、ヒラヒラと床に何が落ちた。それは引きちぎった紫陽花の花びらだった。

「ふふ、ルシオン。大丈夫。君に自由は似合わない。あの学園に通った時間が間違いだったんだよ。この先はずっと大切にしてあげるからね」

そう空を向いて微笑みながら私はその花弁を思いきり踏み躙った。

しかし、シラを切り私からルシオンを奪うものを許すわけにはいかない。

正直、地位を盾に無辜の民に手など出す気はないし、王になるものは彼らを導く必要があるだろう。

ただ、それは私の半身を奪わないという前提の元の話である。

今回、彼らは完全にそれを犯した。ならば許されないことを教えないといけない。

「影、いるか??」

「はい、ご主人様」

声は答えた。私は声に告げる。

「例の娼館の犯罪絡みの証拠を集めろ、それにより強制的に立ち入りができるように手配するんだ」

「承知いたしました」

影は答えた。この国の娼館はほぼ大なり小なりの犯罪行為を犯している。

少なくとも該当の娼館はルシオンを連れ去りながら居ないなどと言っている訳で、さらに慰謝料の請求先であり今や我が家の所有であるルシオンを意図的に失踪させたのだから罪として問えるだろ。

「ルシオン、早く私だけの君を助けないとね、君をちゃんとしまってあげないとね」

結果、うちの優秀な影はすぐに証拠を掴んで、さらに手際の良いことに強制執行の令状も手に入れた。

だから、それを手に娼館に公爵家の騎士団を連れて向かう。

しかし、たどり着いた娼館の様子はおかしなものだった。

間違いなく高級娼館であるはずなのに客がおらず、下働きの大半はまるで心がここにないような顔をして虚空を眺めていた。

「なんですかね、まるでこいつら薬物中毒みたいだ」

騎士達が訝しがる中、ひとりの若い男が何かを譫言のように呟いているのが分かる。

のはぁはぁすべすべのはぁはぁ」

その言葉を聞いて全身の血が沸騰しかけた。よくよく虚な連中の呟きに耳をすませば一様に「姫様」と口にしている。

この国で、「姫」とは王族にしか用いられない言葉であり、この娼館でそう呼ばれる人物はひとりしか居ない。

「ふざけるな!!」

感情が抑えきれず魔力が暴発した。

ドカン!!

という轟音と共に娼館の建物の半分が半壊した。

(許さない許さない許さない……)

「団長、落ち着いてください。この建物を壊したらルシオン様にも被害がでます」

必死に副団長に止められなければ全て破壊していたかもしれない。

「……いくらなんでも意味がわからなすぎる」

娼館を半分吹っ飛ばしたせいか、迷惑そうな顔をしたひとりの男がやってきた。

確か娼館の主人だと資料で見た黒髪に赤い目のその男には、その時から知らないはずなのに、妙な既視感があった。

しかし、そんなことよりルシオンを奪った元凶に怒りがおさまらない。

「許すか許されないかではない。そもそもここは法的に問題があるだろう??そんな場所に私の最愛を置いておくわけにはいけない、いや、そもそも最愛は私の安楽な腕の中にいるべきなのに……何故奪ったんだ」

怒りに完全に冷静さを欠いた私は男を睨む。

「話にならない。そもそもいくら高貴な貴方とはいえどんな許可があってここにそのような根の葉もない話をしにきたんだい??ここに元王子様なんていないよ」

「嘘だ!!証拠もある。ルシオンを返せ!!」

影が集めた証拠を突きつける。

そこではじめて男の表情が僅かに歪む。

「なるほど、中々頑張ったみたいだね、でもそれでも貴方に彼を渡すわけにはいかない」

ごく普通の所作だったが、私にはそれが手練れたものが部下に合図を送ったと分かった。

私は咄嗟に騎士団に叫ぶ。

「こいつらを拘束しろ!!」

しかし、一瞬指示が遅れたため、目の前が暗くなるのが分かる。

間違いない、目眩しの魔法だ。

「クソ、こんなもの……」

魔法を弾こうとした時、耳元に妙に優しく囁く声がした。

「ごめんよ、レイ」

その聞き覚えのある声が聞こえた瞬間、私の意識は反転した。
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