上 下
12 / 74

11.狐と蛇に睨まれたオタクもとい美少年

しおりを挟む
連れて来られた部屋は、自分が連れて来られた部屋よりさらに広い、まさに絢爛豪華という言葉がぴったり合うような部屋であった。

その部屋の中の豪奢な椅子に腰かけているギムレット様は、優雅な所作でお茶を飲んでいた。

(……あの壺、レイの家で見たことがあるでござるな……)

公爵家であるレイの家にあるような調度品が並んでいる、その時点でこの部屋の主であるギムレット殿が相当な目利きでもあることも分かる。

そして、ほぼ間違いなく、この人は猛者であると先日恐ろしい目にあった時から察している。拙者的に今のこの状況では物凄く会いたくなかったご仁である。

「ギムレット様、連れて参りました」

「ありがとう、マティーニ。とりあえずお前もそのまま居てよ。ごきげんよう、王子様」

前回同様のアルカイックスマイルに、本能的に背筋の毛が逆立つ。さらにいつの間にかギムレット殿のすぐ脇に移動しているマティーニ殿の威圧も加わり、文字通り玉ヒュンしてしまう。

「ははは、そう縮こまらないでよ。僕はただ、ここにきて少し経ったから王子様とお話したかっただけだからさ」

そう軽口のように言っているが、拙者は入室以来椅子に座る許可さぇだされず全裸で立っている。そこには明確な上下関係があり、とてもただ話したかっただけの人間のする行動ではないことが分かる。

「……流石に、そこまで馬鹿ではないか」

拙者の表情から何かを読み取ったように、今度は吐き捨てるようにギムレット殿は言い捨てた。

「まぁ、いいや。賢かろうが、馬鹿だろうがやることはひとつだけだからさ」

そう言いながら、かの人と目が合ったその瞬間、とても気持ちが悪い感覚がした。この感覚には覚えがある。

それも何度も繰り返し行われた嫌な記憶。

(これはステータスを見られているでござるな……)

この国では、ステータスは、自分よりレベルが低い相手なら全て見ることができる。ただ、個人情報のためあからさまに覗かれることはほとんどない。

例外として、魔力の有無の判定や、なんらかの嫌疑が掛かっている場合、奴隷に関しては問答無用で見られることもある。

現在、性奴隷になり果てている拙者は、元王族と言えど当然ステータスの開示を拒否できない。体の中を覗かれているような嫌な感覚に必死に耐えている。

これで拙者のスキルについてもバレてあまりよくないことなると覚悟した時、唐突に気持ち悪さがなくなる。

「……はぁ、マティーニ。王子様を部屋に戻しといて」

吐き捨てるように言ったギムレット殿は、疲労こそ見えるが何かに勘付いたような気配もない。それにもし気付いたなら絶対に、拙者をビッチ氏のいる部屋に戻してくれるわけがない。

「わかりました」

短く返事をするとマティーニ殿が再び拙者の鎖を持って部屋を出ようとした。背後からギムレット殿に声を掛けられる。

「王子様、ひとつだけ忠告しておくけど、もし妙なことやこの娼館で面倒ごとを起こすようなことがあったら……ただではすまないことは覚えておいてね」

「……」

あまりの恐怖に漏らしそうになったが、全裸で美少年が放尿はマニアックな意味で需要がありすぎるので必死に尿道をキュっとした。

そうして、冷たい視線を尻の穴辺りに感じながら、なんとか拙者は部屋に返された。

部屋に戻り、ベットにダイブしたいくらい疲れていたが、ビッチ氏がベットでゴロゴロしているので、断念するが、まだ部屋の扉が閉まる音がしない。

不審に思い振り返るとマティーニ殿がドアを開けたまま微動だにせず佇んでいた。その姿に今度こそ漏らしかけたがなんとか色々力を入れて耐え抜いた拙者は褒めてもらっても罪にならないはずである。

「ルシオン様、ギムレット様のお言葉を常々お忘れにならないようにご注意ください」

「……」

ギムレット殿の冷たさと違う、血の通わない言葉に別の意味で怯えつつもそのままで無言でいる拙者を一瞥するとそのまま扉は閉じた。

しかし、多分、本日の監視者はマティーニ殿なのでドアの前に立っていることはたやすく想像できた。

「ルッシーおかえり♡ベットの中あたためておいたよ」

絶対、寝ていただけなのにそんなことを言うビッチ氏の言葉に張りつめた空気が解けていく。

「かたじけない」

何故か涙が出そうな気持ちになりながら、ビッチ氏と談笑してその日は眠りについた。

しかし、薄氷の上に居ながらも穏やかに過ぎる日々が終わりを告げる時が、刻一刻と近づいていたことになど、その時の拙者達は気づいていなかったのだった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

悪役令嬢のペットは殿下に囲われ溺愛される

白霧雪。
BL
旧題:悪役令嬢のポチは第一王子に囲われて溺愛されてます!? 愛される喜びを知ってしまった―― 公爵令嬢ベアトリーチェの幼馴染兼従者として生まれ育ったヴィンセント。ベアトリーチェの婚約者が他の女に現を抜かすため、彼女が不幸な結婚をする前に何とか婚約を解消できないかと考えていると、彼女の婚約者の兄であり第一王子であるエドワードが現れる。「自分がベアトリーチェの婚約について、『ベアトリーチェにとって不幸な結末』にならないよう取り計らう」「その代わり、ヴィンセントが欲しい」と取引を持ち掛けられ、不審に思いつつも受け入れることに。警戒を解かないヴィンセントに対し、エドワードは甘く溺愛してきて…… ❁❀花籠の泥人形編 更新中✿ 残4話予定✾ ❀小話を番外編にまとめました❀ ✿背後注意話✿ ✾Twitter → @yuki_cat8 (作業過程や裏話など) ❀書籍化記念IFSSを番外編に追加しました!(23.1.11)❀

処理中です...