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09:浸食していく夢(娼館のモブ視点)
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「なぁ、ライムあの噂知ってるか??」
「何だよいきなり」
そう、久しぶりの休みの日に、同僚でそこそこ仲の良いジンが話しかけてきた。
俺は、大切なお姫様の監視係をギムレット様に仰せつかっているひとりのため基本的は最近、他の連中と軽口を叩く時間がなかった。
そんな俺を元気づけようと、今日はジンの驕りで酒場に来ていた。ガヤガヤと騒がしい薄暗い酒場の中で、ジンが赤ら顔をいやらしく歪めた。
「ライムとベルモットが監視している、美人のお姫様いるじゃねぇか。あの人が来てから同僚連中があのお姫様とヤる夢を見るらしいんだよ」
「えっ??」
どうやら、あのお姫様との淫夢を娼館の従者たちのほとんどが見ているという奇怪な状況らしい。その話に思わず眉を顰める。
確かに、あのお姫様は上玉だし、娼館始まって以来の価格での水揚げが既に決まっているとされている。しかし、正直毎日顔を合わせる身としてはあのお姫様から性的な色香のようなものはあまり感じない。
むしろ、綺麗すぎてそういう俗的な対象として見たことがないし、そもそも他の連中もほとんどお姫様と接する機会なんてなかったはずなのに妙だと思った。
「しかもその夢がすげぇリアルなんだよ。俺もみたんだけどさ……ああ、本当に最高だった。あんな最高の快感現実でも得たことねぇ」
うっとりと熱に浮かされるようにつぶやいたジンに、俺は信じられないという気持ちが勝った。
なんせ、ジンはとても現実的な男でそれこそ恋人以外とは肉体関係だって持ったことを聞いたことがなかった。そいつが、夢の中での出来事をそれはそれは蕩けた表情で話しているという異常さに寒気がした。
(どういうことだ??)
「ライムは夢見てないのか??」
「そんな夢、見たことがないし今日まで聞いたこともなかった。ただ、そこまで多くの人間が見ているってことはお姫様はもしかして魔法使いなのか??」
そう口にしたが、そもそもお姫様は、王族でありながら全く魔力を持っていないということはとても有名だった。だからこそ、魔力が高く国の中で王族に次いで高貴で魔力の強い公爵様の婚約者となっていたはずだ。
それによく考えれば、お姫様は俺ともうひとりで常々監視をしているし、部屋の中にも監視魔法が掛かっていて何らかの許可がなければ出歩くことすらない。
その状況で魔法が使えるとも考えづらい。
(だとしても、妙だ。なんだろう、胸騒ぎがする……これはギムレット様に伝えるべきか??)
そんなことを考え始めてしまったため、適当にジンと別れた俺はその足で帰路についていた。
薄暗い裏路地を歩いていた時、顔をフードで目深まで被った華奢な人物が横切ろうとした。
本来ならそのまま見逃すのだが、何故かその人物に釘付けになった。顔は見えないがその体からまるで薔薇のような芳香が漂ってきて心臓がバクバクと大きな音を立てる。
(なんだ??これは……)
その以上に思わず、歩を止めところでその人物がこちらへ近寄ってきた。
「大丈夫ですか??顔色が悪いですよ??」
鈴を転がすような綺麗な声。思わずその顔を確認しようとしたが、頭の隅の方がまるで麻痺したように思考ができなくなり、さらに恐ろしいほどの睡魔が体を襲うのが分かった。
「これは??どうして……」
そんな状態の俺の唇にその顔が見えない人物の唇が重なる。その瞬間、完全に体が甘く疼くような欲情が生まれた。
「具合悪そうですね、おうちはどこですかぁ??」
「……こっちだ」
その後の記憶はない。正確には起きていた時の記憶はそこまでしかない。
ただ、ジンの言っていた夢を見た。お姫様と交わる夢。しかもジンの言葉通り、今まで感じたことのない快感も味わった。
そして、その快感を味わったせいか、俺の中で何かがおかしくなった。
あの日以降、寝ても覚めてもお姫様のことで頭がいっぱいなのだ。それは夢の中のあの妖艶なありえないお姫様だけでなく常に監視をしているかの人を見ただけで、守りたい、全ての言うことを聞いてあげたいという狂おしいまでの感情が沸き立つようになってしまった。
「お前、最近おかしくないか??」
お姫様のもうひとりの監視役のベルガモットが俺を訝し気に見つめる。しかし、何も問題はない。
「いいや、特に変わったことはない」
と答えた。
……しかし、それからしばらくして何故か俺はお姫様の監視役を外されてしまった。あまりの事態にギムレット様に抗議を行ったが、とても冷えた目でひとことこう吐き捨てられた。
「お前は、正気じゃないみたいだね。全く。どういうことか分からないけど完全に魅了されているじゃないか。そんなヤツをあの甘ちゃんの側には置けないよ。間違えが起きたら困るからね」
「何だよいきなり」
そう、久しぶりの休みの日に、同僚でそこそこ仲の良いジンが話しかけてきた。
俺は、大切なお姫様の監視係をギムレット様に仰せつかっているひとりのため基本的は最近、他の連中と軽口を叩く時間がなかった。
そんな俺を元気づけようと、今日はジンの驕りで酒場に来ていた。ガヤガヤと騒がしい薄暗い酒場の中で、ジンが赤ら顔をいやらしく歪めた。
「ライムとベルモットが監視している、美人のお姫様いるじゃねぇか。あの人が来てから同僚連中があのお姫様とヤる夢を見るらしいんだよ」
「えっ??」
どうやら、あのお姫様との淫夢を娼館の従者たちのほとんどが見ているという奇怪な状況らしい。その話に思わず眉を顰める。
確かに、あのお姫様は上玉だし、娼館始まって以来の価格での水揚げが既に決まっているとされている。しかし、正直毎日顔を合わせる身としてはあのお姫様から性的な色香のようなものはあまり感じない。
むしろ、綺麗すぎてそういう俗的な対象として見たことがないし、そもそも他の連中もほとんどお姫様と接する機会なんてなかったはずなのに妙だと思った。
「しかもその夢がすげぇリアルなんだよ。俺もみたんだけどさ……ああ、本当に最高だった。あんな最高の快感現実でも得たことねぇ」
うっとりと熱に浮かされるようにつぶやいたジンに、俺は信じられないという気持ちが勝った。
なんせ、ジンはとても現実的な男でそれこそ恋人以外とは肉体関係だって持ったことを聞いたことがなかった。そいつが、夢の中での出来事をそれはそれは蕩けた表情で話しているという異常さに寒気がした。
(どういうことだ??)
「ライムは夢見てないのか??」
「そんな夢、見たことがないし今日まで聞いたこともなかった。ただ、そこまで多くの人間が見ているってことはお姫様はもしかして魔法使いなのか??」
そう口にしたが、そもそもお姫様は、王族でありながら全く魔力を持っていないということはとても有名だった。だからこそ、魔力が高く国の中で王族に次いで高貴で魔力の強い公爵様の婚約者となっていたはずだ。
それによく考えれば、お姫様は俺ともうひとりで常々監視をしているし、部屋の中にも監視魔法が掛かっていて何らかの許可がなければ出歩くことすらない。
その状況で魔法が使えるとも考えづらい。
(だとしても、妙だ。なんだろう、胸騒ぎがする……これはギムレット様に伝えるべきか??)
そんなことを考え始めてしまったため、適当にジンと別れた俺はその足で帰路についていた。
薄暗い裏路地を歩いていた時、顔をフードで目深まで被った華奢な人物が横切ろうとした。
本来ならそのまま見逃すのだが、何故かその人物に釘付けになった。顔は見えないがその体からまるで薔薇のような芳香が漂ってきて心臓がバクバクと大きな音を立てる。
(なんだ??これは……)
その以上に思わず、歩を止めところでその人物がこちらへ近寄ってきた。
「大丈夫ですか??顔色が悪いですよ??」
鈴を転がすような綺麗な声。思わずその顔を確認しようとしたが、頭の隅の方がまるで麻痺したように思考ができなくなり、さらに恐ろしいほどの睡魔が体を襲うのが分かった。
「これは??どうして……」
そんな状態の俺の唇にその顔が見えない人物の唇が重なる。その瞬間、完全に体が甘く疼くような欲情が生まれた。
「具合悪そうですね、おうちはどこですかぁ??」
「……こっちだ」
その後の記憶はない。正確には起きていた時の記憶はそこまでしかない。
ただ、ジンの言っていた夢を見た。お姫様と交わる夢。しかもジンの言葉通り、今まで感じたことのない快感も味わった。
そして、その快感を味わったせいか、俺の中で何かがおかしくなった。
あの日以降、寝ても覚めてもお姫様のことで頭がいっぱいなのだ。それは夢の中のあの妖艶なありえないお姫様だけでなく常に監視をしているかの人を見ただけで、守りたい、全ての言うことを聞いてあげたいという狂おしいまでの感情が沸き立つようになってしまった。
「お前、最近おかしくないか??」
お姫様のもうひとりの監視役のベルガモットが俺を訝し気に見つめる。しかし、何も問題はない。
「いいや、特に変わったことはない」
と答えた。
……しかし、それからしばらくして何故か俺はお姫様の監視役を外されてしまった。あまりの事態にギムレット様に抗議を行ったが、とても冷えた目でひとことこう吐き捨てられた。
「お前は、正気じゃないみたいだね。全く。どういうことか分からないけど完全に魅了されているじゃないか。そんなヤツをあの甘ちゃんの側には置けないよ。間違えが起きたら困るからね」
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