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07:契約魔法の軛とかカルマとか

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ビッチ氏が口を開いた瞬間、いままで平然と話していたのにまるでパントマイムのように口をパクパクしているのだが声が出ていない。

「ビッチ氏、その言いにくいことでござるか??正直今後の信頼関係のためにその辺りは知りたく思うが、もし言いたくないなら無理強いはせぬが……」

「あ、違う違う。ごめん、やっぱりのせいで話せないみたいだね」

そう言ってベーと舌を出した、ビッチ氏のピンク色の舌には黒い複雑な文様が描かれていた。端的に言えば魔法陣のようなそれに、『なんかこういのマンガで見たことあるな』と思いつつ、確かに何かの面妖な魔法が掛かっているということは分かった。

「えっと、つまり何らかの魔法契約をしたためその契約者に関することは話せないということでござるか??」

「まさにその通り。多分契約者関連のことは話しても声に出ないみたい。同じように契約内容も……。だとしたら話せそうなところを大枠で話すね。俺はと契約をしてルッシーを魅了して、婚約破棄させたなら……あ、ここも言えないのか。とりあえず婚約破棄させたら願いを叶えてもらえるという話だった。けれど、それがこの通り。俺も結局騙されて処分されたみたい」

残念みたいな仕草をしたビッチ氏に、なんとも言い難い気持ちになる。この話が本当ならばビッチ氏は拙者の不幸と引き換えになんらかの見返りをえようとしたということだから。

つまり、自分の不幸を願った人物に対して拙者は情けを掛けたということになる。

けれど、それでも結局はビッチ氏に魅了をかけられて、レイを裏切ったのは拙者自身。

(例え誰かに謀られての結果だとしても、結局拙者自体が魅了されたことによってレイを裏切った事実はなにひとつ変わらない)

レイが婚約破棄を受け入れた時のあの悲し気な笑顔が蘇る。それだけでも拙者は取り返しのつかないことをしてしなったのだ。例え、それがビッチ氏や他の何者かの手引きであってもそれに引っかかったのは拙者なのだ。

「……ごめんなさい。俺どうしてあんな奴の口車に乗って、ルッシーみたいな心の綺麗な人に酷いことしたんだろう。確かに俺自身追い詰められていたけど、人を不幸にして幸せになろうなんて間違ってた、もう取り返しはつかないし、ルッシーだって許せないと思うけど……」

「ビッチ氏。分かってくれればいいでござるよ。過去を振り返ったところで拙者もビッチ氏もどうしようにもならない。今更元通りには戻せないのだから今からどうにかできることを最大限頑張るしかないでござる」

そう言って微笑むと、ビッチ氏が困ったような笑顔を浮かべた。それは彼がずっと浮かべていた軽薄なものではない本当の笑顔のような気がした。

「ルッシー、男前すぎ」

「ひぃ、そういう褒めはいらないでござる。しかし、契約魔法がまだされたままということは、相手方も契約が履行されねばそれなりの何かがあるはずでは……」

契約魔法とは文字通り、制約を行いその制約に基づいて執行されるものである。そのため、契約内容が果たされていないのでビッチ氏の舌にはいまだに契約のくびきがある訳で、そう考えると相手にもまだ契約に伴うものが残っているはずだ。それならばその相手にも罪を償ってもらえるのではないか。

「契約魔法を辿れば、ビッチ氏だけを主犯として陥れた人物も捕まえられるかもしれませんな」

そう独り言のようにサラリと呟いた拙者を、ビッチ氏が不思議そうな顔で見つめながら言った。

「……なんだろう、ルッシーさぁ、正直ルッシーが一番の被害者なのになんとなく他人事みたいなのどうして??殺してやりたいとかさぁなんというかそういうのないの??」

その言葉にはてと思わず首を傾げる。うっかり見えた姿見にはコテンという感じで首を傾げているそれはそれは美しい美少年(しかも全裸)が映し出されていた。無駄に破壊力が高すぎる自身の現在のビジュアルから目を急いで逸らす。

「うーん、そうですな。人を不幸にして自分が幸福を得てもカルマによりなんやかんや必ず不幸になるものですし……、そう考えるとそのうち相手は勝手に破滅するので拙者が手を下したいとはあまり思いませぬ。ただ、このままではビッチ氏には近い将来確実に破滅が迫っているので、それを回避するにはその人物の悪行を暴く必要があると思ったのでござるよ」

「……ルッシー、本当に優しすぎる。俺、抱かれるの専門だけど、ルッシーなら抱ける気がする」

「それはご遠慮いただきたい。そうと決まれば何か該当の契約魔法に関する書物などを手に入れたいところだが……」

ついでにありあまる魔力も使いたい。

「ルッシー、魔法の本なら俺が……えっ??」

突然、目の前でいままでピンピンしていたビッチ氏がまるで糸が切れた人形のように倒れてしまった。
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