上 下
6 / 74

05:言葉にできない気持ち

しおりを挟む
「あ、ギムレット様」

途端に恭しく頭を下げる御者に、間違いなくこの娼館の重鎮であると拙者は察した。いつでも隠を生きていたので基本的に人間観察はよくする方である。

ただ、だからと言って得意とは言い難くはある。

この辺りはオタクあるあるかなと思っているのだが、オタク特有の先入観が邪魔をして正しい判断が出来ていない独りよがりになっていることは多々あった。

とはいえ、とりあえず全く知らない人については様子を伺う必要がある。拙者はこっそりギムレット殿を観察する。

「ふーん。なるほど。君達ふたりが王都を賑わせたふたりだね。僕はこの娼館や、この辺りの地区を仕切っている元締めのギムレットだよ。よろしくね」

アルカイックスマイルとはまさにこのことというような、冷たい笑みを浮かべたギムレット殿に、恥ずかしい話、怖すぎて漏らしかけた気がいたしますが、拙者は今全裸なので万が一漏らしたら大惨事である。

それに今の拙者は絶世の美少年なので、万が一漏らしたらまずい。あまり考えたくないが的な変な需要を満たしてしまうので大変今の状況的によろしくない。

なんとか平静を装い答えた。

「お初にお目にかかる。拙者は、ルシオン、元若殿でござる」

答えてから気付いた。あまりの緊張に完全に侍口調で答えてしまった。元若殿ってなんでござる、そこは流石に王子で良かっただろうとセルフ突っ込みを心でしたが、とりあえず気付いてないふりをして微笑みを浮かべた。

前世はニチャァって感じの粘性の強い笑顔になっていたが、美形補正でニチャァっとしても爽やかに変化しているあたり、やはり『ただしイケメンに限る』は事実だったと再確認した。

「……王子様は随分珍妙な口調で話すんだね。まぁいいや。なんにせよ君のは既にこの娼館始まって以来の最高値で決まっているから、たとえ関係がないと分かっていても元恋人と一緒にいるのは望ましくないんだよね」

拙者には冷たいながらも笑みを浮かべているが、ビッチ氏をそれはそれは冷たい目で見つめるギムレット殿。先ほどの内容からビッチ氏がこの娼館でうまくいっていないことはわかっていた。

先ほどまでとは打って変わって黙り込んでしまうビッチ氏。

多分だが、拙者より先に来ただろう彼はよく見ればピーチピンクで艶のあった髪はパサついて、綺麗だった唇もかさついていて、あまり良い環境に居ないことが見てとれた。

「正直、王子様はね人気があるんだ。まだ処女でなんなら童貞で美しいし儚げで、今後どうとでも花開くだろうから需要がある。それと比べちゃうと魅了が使えないルヴィチ、君はただのちょっと見目が可愛いだけの阿婆擦れでしかないんだよね。くだんの件で誰にでも股を開くって有名になっちゃったし、そうなると娼館にはただ欲求を満たしに来る人達もいるけど、うちでは夢を買いたい人が多いものでね。ここしばらくは娼館内での雑務をさせてたけど、王子様がきたからには君を別の娼館へ下げ渡す必要も視野に入れる必要がでてきたよね」

「……分かってる」

娼館の商品である拙者たちに対して、ギムレット殿が向けるそれは正しいだろう。けれどビッチ氏のことを考えたらやるせない気持ちになる。

全てを悟ったようなビッチ氏の言葉、拙者には分かった。それは前世にとても覚えのあるものだったから。誰かと比較されて貶められる苦痛、しかも自身において変えることが今更できないことへの絶望的で攻撃的な言葉を聞いた時の生々しい感覚が蘇った。

前世は、オタ活以外の現場ではとにかく見下される側だった。あからさまな嫌悪で比較された記憶が蘇る。

『貴方には興味ないからさぁ』

『しゃべらないでいいから、どっかいってくれない??』

そうして、今肩を震わせて真っ黒な絶望の中で必死に何が最良か考えているだろうビッチ氏について想像した途端、前世の自身と重なり泣き出したい気持ちになった。

うさんくさい神様の言葉を信用するならば、ビッチ氏により拙者は15歳から3年間魅了魔法で操られて、それが原因で最愛の人との婚約を自身で破棄して現在性奴隷まで堕とされてしまった。

本来なら、拙者はビッチ氏を憎むのかもしれないが、何故かそういう気持ちにはならなかった。ざまぁ小説が大好きだった妹からしたら拙者は幸福な甘ちゃんなのかもしれない。けれど、前世の人格が蘇った今、拙者は前世の拙者が味わった責め苦を味わわされている人をほっとくことができなかった。

例えばそれが間違いなく自身の不利益になることであっても、体は自然に動いていた。

「ギムレット殿。拙者は魔法でビッチ氏、もといルヴィチ殿に操られていただけなので恋人ではござらん。なので魅了魔法を封じられていれば実際操られている時にも実害が出ていないのでその、ふたりになっても問題ないはずでござる。だから、そのもし許されるならばビッチ氏を拙者の世話係などとしていただけないだろうか。性奴隷の身分でそのようなことを言うのはおこがましいかもしれぬがなんとか……」

「……王子様はお人よしなんだね。ははは。そういう綺麗な精神含めては君が気に入っているようだ。本

これはまずい。逆鱗に触れたかもしれない。

そう思ったがギムレット殿はアルカイックスマイルを浮かべて射貫くような目で拙者を見つめた。

「けれど、その部分を今壊したら水揚げの際に面倒になるから今はその麗しい矜持を踏みにじらないであげる。まぁ時がきたら壊してやるけどさぁ」

「ひぃいいい!!」

あまりの恐怖に歯の根がカタカタする。

「ルヴッチ、良かったね。でしばらくは君は面倒見係としてここに置いといてあげるよ」

吐き捨てるように言うとギムレット殿は興味なさげにその場を立ち去って行った。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

処理中です...