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86.だめだ、もうだめだ

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「辺境伯様、もしもーし」

レイモンドがすごい微妙な顔で声を掛けてきたことで正気に戻った。

「なんだ」

「いや、なんだって、さっきからどうしたんっすか??ずっと真っ赤になったり真っ青になったりひとり百面相して……」

「その、ルカにその、今夜、その誘われた」

言葉にした瞬間体中の血液が勢いよく流れて、なんだか近くの物と叩きたくなるほど恥ずかしい。

「いたっ、いや、なんで俺のこと殴るんすか。良かったじゃないですか、夢が叶って」

生ぬるい目をしているレイモンドをとりあえずもう数発胸のあたりをトントン叩いて冷静になる。

「そうだ、夢が……だが……その……」

俺は真剣な目でレイモンドを見る。正直レイモンドにそういう経験があるか全く分からない。分からないから聞くだけ無駄かもしれない、けれど一応聞いてみよう。

「お前はその、同性を抱いたことはあるか???」

その発言にブッと汚い音を立ててレイモンドが震えている。どうやら笑っているらしい。その姿に俺は腹が立ちすぎてもう一発攻撃をしようとしたが、そんなことしても意味がない。

「俺はないっすね。でも経験がありそうな人ならふたりくらい分かるっすけど……」

「!!誰だ、教えろ!!」

「大公様と、公爵様っすよ」

よりによって鬼門をチョイスされてあからさまに表情が歪んだ。それを見て「うわぁこわっ」と珍しくレイモンドが呟いていた。

「そのふたり以外でいないか??」

「いや、後はわからないっすね。ベルっち君はそういう経験ないっぽいし……」

「お前の兄はどうだ??あれだけイケメンなら……」

「兄上にそれ聞いたら俺、この仕事辞めるっす」

いままで見たことのない、笑顔を浮かべるレイモンド。なんだ、こいつがこんなこと言うのは初めてだ。殴ってもちょっと暴言を吐いても笑って流す男が辞めるとまでいうということは……。

「なるほど、お前は兄がそこまで大切なのだな。これは俺が悪かった。大切な家族を守るのは理解できる」

「……辺境伯様のそういうピュアなとこ俺好きっすよ。もうここは我慢して公爵様に聞いたらどうっすか??大公様に聞いたら辺境伯様のバージンが……」

「そのふたりしか選択できないなら必然的にそうなるが……よく考えたら叔父上の家に行くには時間が掛かるからな……ここは」

「大丈夫だよ、可愛い甥っ子のためならワープぐらいするさ」

何故か、噂をしたら叔父が出てきた。ちょっと意味が分からない。ここは辺境伯領の執務室である。何故叔父がいるのかちょっと意味がわからない。(大事なことなので2回繰り返した)

「ぎゃああああああ!!!」

「ギルエル、何か怖いことがあったのかい??大丈夫だよ、おじたまがきたから守ってあげ……」

「違う!!何故一体、どうしてここに……」

あわあわしていうと叔父が微笑む。意味が分からない。なんだその晴れやかな笑みは。

「可愛い甥っ子が困っている気配がしたからね。ワープしてきたよ。大丈夫だよ、私の大切な天使。君にちゃんと愛するルカ君との情交について分かる様に教えてあげよう」

ちなみにワープはかなり上級魔法だ。ほいほい乱発して良いものではない。

「……いや、その……」

「可愛い甥っ子の晴れ舞台を成功させるためにおじたまは全力で頑張るよ」

その後、断れなかった俺は色々な大切なものと引き換えに、ルカのためにそれをマスターした。しかし、あまりに突かれ、もとい疲れてヘロヘロの状態でルカのところに行くことになったのは本当にただただ不覚としか言いようがない。
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