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1.あるメイドの忠義

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私は今修道院へ向かう馬車に、ヨハンナ様と一緒に揺られていた。

ヨハンナ・マルティン侯爵令嬢。
白銀の美しい髪、深紫のアメジストのような瞳。陶磁器のように白くなめらかな美しい肌は服を着ていても照り輝くような私がもっとも敬愛する美しいお嬢様。

しかし、愚かなヨハンナ様の婚約者であるパーシヴァル公爵令息に3日前に婚約を破棄された。

婚約を破棄されて真珠のように美しい涙を流されたお嬢様は失意の中でご帰宅されてこうおっしゃいました。

「私は初恋を失いました。この先、誰かを愛することはもう二度とありません。これからは神への信仰に身を捧げて生きて行こうと思います」

破棄の原因は明らかにパーシヴァル様の浮気でした。それなのに、お嬢様は彼を許し身を引かれました。

もちろん美しいお嬢様が婚約破棄されても新たなる婚約志願者は後をたたないのは間違いありませんでした。

それなのにヨハンナ様は、婚約破棄を言い渡したパーシヴァル公爵令息への想いを貫くと修道院での人生を望まれました。

「ヨハンナ様……何故あの方を許されたのですか?」

思わず口をついて出た言葉に、その美しい顔(かんばせ)が切ない胸を締め付けるような笑みに変わる。

「私はパーシヴァル様を心よりお慕いしておりました。その想いは山よりも高く谷よりも深いのです。だからこそ私はあの方のためにも身を引く必要がございましたの。それとアンナ、私はもう侯爵令嬢ではありません。ただのヨハンナです」

なぜ?美しい優しいお嬢様がこのような仕打ちを受けるのです?

いえ、お嬢様が望んだことではありますが、私はそれでも許せません。

「アンナ、泣かないで。そして私について来てくれてありがとう。あなたの人生まで巻き添えにして本当にごめんなさい」

そう思慮深い金言に私は身を震わせる。

「お嬢様、私は貴方のためならなんでも捨てることに躊躇いたしません」

「ありがとうアンナ」

私はお嬢様のか細い体を抱きしめた。その体が小刻みに震えていらっしゃいました。

馬車の窓から真っ赤な夕陽が見えた。
血のような赤と黄昏の紫の空。

この美しいお嬢様を独り占めしている今この世界で、そのまま時が止まれば良いのにと本気で思っていた。
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