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31.全てを狂わせた青い薔薇(皇帝陛下視点※小公爵の伯父)
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「……ノーマンは戻らないのか」
落ち着きなく私室を行ったり来たりしながらノーマンを待っていた。ノーマンがアレクシスの捜索依頼を出してから既に数日が立っていた。
余は戻ってきた近衛騎士団の副団長、ノーマンの右腕である男に声を掛けた。
「はい、ただ団長からこちらを預かっております」
そう言って、差し出された手紙を受け取る。ノーマンから手紙を受け取ることは業務的になかったわけではないがなぜか酷く胸騒ぎがしていそいでそれを開いた。
何の飾り気もない便箋に几帳面な文字で書かれたそれは紛れもなく親友の筆跡であった。
しかし、その内容はあまりにも信じ難い部分が多かった。
特に、ノーマンが子爵令息ではなく前辺境伯の双子の弟であるということ、彼自身にも『黒い血』が流れているということ、辺境伯領が雪により閉ざされたということ、そしてこれから辺境伯領に入るが最悪戻ってこれなくなるかもしれないことが記されていた。
「なんだこれは……あいつはなぜ……」
「後、そのもうひとつ言伝がございまして、皇太子殿下については映像装置を確認すれば解決すると話しておられたのですが……貴重なものなので我々もまだ確認できておらず……」
映像装置は魔法で特定の場所の映像を映すことができる貴重な機械で、王家、辺境伯、リシュリュー公爵家のみが保有しているものだった。
「……そうか。ではすぐに映像装置を準備しろ」
「はい!!」
余の言葉に安心したようにそれはすぐにセッティングされた。そして、セッティングするなりそれは映し出された。
「アレクシス!?」
どこの建物か分からないが、どこかに監禁されたアレクシスが鎖でつながれて虚ろな瞳をしているのだ。
「なんてことだ、クソッ!!早く、アレクシスを救い出せ!!」
余がそう近衛騎士達に叫んだ時だった。アレクシスに目を奪われて気付いていなかったが画面の中にキツネ目の男がおり、その男がまるで我々に気付いたように映像装置のレンズに近付いてきた。
『帝国の太陽にご挨拶いたします』
「ふざけるな!!アレクシスを、皇太子に何をした!!」
『……皇太子殿下はただ素直に思ったことをお話されただけです。我々もこれ以上今は何もするつもりはございません』
ニコニコとした顔でそう言う男に背筋がゾクリとした。
「何が望みだ??」
『察して頂きありがとうございます。こちらからの要求はただひとつ。皇太子殿下には青薔薇姫に金輪際関わらないようにしていただきたく』
青薔薇姫、この国でそう呼称される権利を持つ人物はただひとりしかいない。我が弟の血を引き、ロイヤルブルーの瞳を受け継いだ甥っ子のフレデリックただひとり。
そこで、アレクシスがフレデリックの瞳に執着を持っていたことを思い出す。幼い頃から完璧な皇帝になるように育てた息子。
何もかも想定以上に出来たあの子が唯一持たなかったもの。それがフレデリックのみがいまや持つロイヤルブルーの瞳だった。
「……アレクシスが……わかった。約束しよう」
『皇帝陛下、貴方ならそうお答えいただけると信じておりました。では……皇太子殿下はすぐにお返しいたしましょう』
その言葉を告げると、虚ろな瞳をしたアレクシスにキツネ目の男は近づいて何やら呪文を唱えた瞬間、アレクシスの体が光に包まれた。
そして、次の瞬間、余の目の前にアレクシスが現れたのだ。
「アレクシス……、すぐに医者を呼べ!!」
多少衰弱しているが怪我などはしていないらしいことに安堵しながら、再び映像を見るとまだキツネ目の男が映し出されていた。
『皇帝陛下、この映像は念のため録画されております。お約束をゆめゆめお忘れなきように……』
そう言い残すと映像はぷつりと切れてしまい、その後はノイズが写るのみとなってしまった。
余にはあのキツネ目の男が誰かは分からない。ただ、辺境伯関連だということは何となく察した。そして、これ以上アレクシスがフレデリックに近付くことも危険と判断した。
「マティアス……、ノーマンもああ、全くあの青い薔薇の瞳が彼奴らを狂わせたのか……ああ、アレクシスも」
余は急に疲労が襲ってきた体を引きずりながら、ただもう彼等に関わりにならないようにすることを誓ったのだった。
落ち着きなく私室を行ったり来たりしながらノーマンを待っていた。ノーマンがアレクシスの捜索依頼を出してから既に数日が立っていた。
余は戻ってきた近衛騎士団の副団長、ノーマンの右腕である男に声を掛けた。
「はい、ただ団長からこちらを預かっております」
そう言って、差し出された手紙を受け取る。ノーマンから手紙を受け取ることは業務的になかったわけではないがなぜか酷く胸騒ぎがしていそいでそれを開いた。
何の飾り気もない便箋に几帳面な文字で書かれたそれは紛れもなく親友の筆跡であった。
しかし、その内容はあまりにも信じ難い部分が多かった。
特に、ノーマンが子爵令息ではなく前辺境伯の双子の弟であるということ、彼自身にも『黒い血』が流れているということ、辺境伯領が雪により閉ざされたということ、そしてこれから辺境伯領に入るが最悪戻ってこれなくなるかもしれないことが記されていた。
「なんだこれは……あいつはなぜ……」
「後、そのもうひとつ言伝がございまして、皇太子殿下については映像装置を確認すれば解決すると話しておられたのですが……貴重なものなので我々もまだ確認できておらず……」
映像装置は魔法で特定の場所の映像を映すことができる貴重な機械で、王家、辺境伯、リシュリュー公爵家のみが保有しているものだった。
「……そうか。ではすぐに映像装置を準備しろ」
「はい!!」
余の言葉に安心したようにそれはすぐにセッティングされた。そして、セッティングするなりそれは映し出された。
「アレクシス!?」
どこの建物か分からないが、どこかに監禁されたアレクシスが鎖でつながれて虚ろな瞳をしているのだ。
「なんてことだ、クソッ!!早く、アレクシスを救い出せ!!」
余がそう近衛騎士達に叫んだ時だった。アレクシスに目を奪われて気付いていなかったが画面の中にキツネ目の男がおり、その男がまるで我々に気付いたように映像装置のレンズに近付いてきた。
『帝国の太陽にご挨拶いたします』
「ふざけるな!!アレクシスを、皇太子に何をした!!」
『……皇太子殿下はただ素直に思ったことをお話されただけです。我々もこれ以上今は何もするつもりはございません』
ニコニコとした顔でそう言う男に背筋がゾクリとした。
「何が望みだ??」
『察して頂きありがとうございます。こちらからの要求はただひとつ。皇太子殿下には青薔薇姫に金輪際関わらないようにしていただきたく』
青薔薇姫、この国でそう呼称される権利を持つ人物はただひとりしかいない。我が弟の血を引き、ロイヤルブルーの瞳を受け継いだ甥っ子のフレデリックただひとり。
そこで、アレクシスがフレデリックの瞳に執着を持っていたことを思い出す。幼い頃から完璧な皇帝になるように育てた息子。
何もかも想定以上に出来たあの子が唯一持たなかったもの。それがフレデリックのみがいまや持つロイヤルブルーの瞳だった。
「……アレクシスが……わかった。約束しよう」
『皇帝陛下、貴方ならそうお答えいただけると信じておりました。では……皇太子殿下はすぐにお返しいたしましょう』
その言葉を告げると、虚ろな瞳をしたアレクシスにキツネ目の男は近づいて何やら呪文を唱えた瞬間、アレクシスの体が光に包まれた。
そして、次の瞬間、余の目の前にアレクシスが現れたのだ。
「アレクシス……、すぐに医者を呼べ!!」
多少衰弱しているが怪我などはしていないらしいことに安堵しながら、再び映像を見るとまだキツネ目の男が映し出されていた。
『皇帝陛下、この映像は念のため録画されております。お約束をゆめゆめお忘れなきように……』
そう言い残すと映像はぷつりと切れてしまい、その後はノイズが写るのみとなってしまった。
余にはあのキツネ目の男が誰かは分からない。ただ、辺境伯関連だということは何となく察した。そして、これ以上アレクシスがフレデリックに近付くことも危険と判断した。
「マティアス……、ノーマンもああ、全くあの青い薔薇の瞳が彼奴らを狂わせたのか……ああ、アレクシスも」
余は急に疲労が襲ってきた体を引きずりながら、ただもう彼等に関わりにならないようにすることを誓ったのだった。
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