上 下
31 / 33

30.永遠のさよなら(ノーマン(フレデリックの父親視点))

しおりを挟む
城の薄暗い入口に立つマティアスの姿に体中の血管が沸騰するような怒りを感じた。

それは『お義父さん』と呼ばれたからではない。マティアスの姿が明らかに乱れたもので、それこそ常時の途中で上着を羽織ってやってきたというようなバスローブだけを羽織った姿だったためだった。

「……お前にそう呼ばれる筋合いはない」

「申し訳ありません。むしろ呼ぶ方が良いでしょうか??」

挑発するような物言いのマティアスを睨みつける。後ろからは容赦のない冷気が襲ってくるがそれ以上に怒りの感情が溢れていて寒さを感じなかった。

「いつから知っていた??」

「……そうですね、知ったのは本当につい最近です。祖母の古い日記を見つけてそこで知りました」

「そうか。だが今更そんなことはどうでもいい。フレデリックを私の息子を返してもらおう」

マティアスはその言葉に邪悪な笑みをたたえた。その表情に急に背筋が冷たくなるのが分かった。

それはマティアスが怖いなどそう言うことではない。その醜悪な笑みがトマスを陥れた際に自分が浮かべたものに酷似していたからだった。

まるで鏡の前に立つような錯覚に陥りながらもマティアスを睨み続ける。

「叔父上。フレデリック様は、俺の姫君になりました。そして、もう2度と俺以外の誰とも会いたくないとおっしゃっているのです。それは父親である貴方も例外ではありません」

「そんなはずはない。フレデリックは王都へ帰りたいはずだ!!」

少なくともマティアスの、この狂った男の側にフレデリックを置いておいたら危険だと警笛が鳴るのがわかった。しかし、マティアスはただ邪悪な笑みを浮かべたまま言葉を続ける。

「あんなことがあった王都へ帰りたいと思いますか??むしろ貴方ならお分かりかと思いますが『落伍騎士』として王都に居残るなどただの地獄です」

マティアスの言う通り、『落伍騎士』になったフレデリックが『騎士』を続ければ間違いなく性欲を持て余し『姫』を持たない『騎士』の慰み者にされる可能性が高い。

だからこそ、王都に連れ戻したなら公爵家の奥深くにフレデリックを閉じこめるつもりでいた。

その自分の思考を読み取る様にマティアスが言葉を続けた。

「それに叔父上は姫君を連れて帰ったら、もう二度と家から出さないつもりではありませんか??そうして誰にも触れさせないようにして自己満足をするだけ。でもそれは貴方の望みで姫君の望みではない。姫君は愛を欲しているのだから……」

「だとしても、お前のような男に蹂躙されつづけるよりマシだ」

間違いなくフレデリックを犯し続けているだろう自身の鏡のような男に吐き捨てるように告げる。

「ははは、そうです。姫君はもう俺だけの青い薔薇だ。自分に歪んだ愛しか向けない父親など必要ないのです」

そうして、見せつけるように手の甲に刻まれた青い薔薇をかざした。紛れもない、フレデリックがこの男に『姫』にされた証。

もっとショックを受けると思っていたが、心のどこかでもうフレデリックはこの男のものにされていると予測していた。

分かるのだ。嫌になるくらいはっきりとこの男は、どんな手を使ってでも愛おしい姫を手に入れようとすることが……。

「だからもう貴方の元には姫君は帰らない。永遠に俺だけの『姫』だ」

「違う、フレデリックは……」

何かを口に出そうとしたが、出ることはなく沈黙しそのまま気付いたら崩れ落ちるように地べたに足をついていた。

「……そろそろ、寂しがり屋の姫君のところに帰らないときっと泣いているかもしれない……」

いとおしげに目を細めたその顔に、なぜが泣きたくなる。それが遠い日の自身が確かに持っていたものを思い返してのものであることが分かったがそれを形として認識できるほどの力が最早私には残されていなかった。

玄関で座り込む自分にマティアスが狂った満面の笑みで言い放つ。

「永遠にさようなら」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

ヤンデレ蠱毒

まいど
BL
王道学園の生徒会が全員ヤンデレ。四面楚歌ならぬ四面ヤンデレの今頼れるのは幼馴染しかいない!幼馴染は普通に見えるが…………?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

童話パロディ集ー童話の中でもめちゃくちゃにされるって本当ですか?ー

山田ハメ太郎
BL
童話パロディのBLです。 一話完結型。 基本的にあほえろなので気軽な気持ちでどうぞ。

処理中です...