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30.永遠のさよなら(ノーマン(フレデリックの父親視点))
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城の薄暗い入口に立つマティアスの姿に体中の血管が沸騰するような怒りを感じた。
それは『お義父さん』と呼ばれたからではない。マティアスの姿が明らかに乱れたもので、それこそ常時の途中で上着を羽織ってやってきたというようなバスローブだけを羽織った姿だったためだった。
「……お前にそう呼ばれる筋合いはない」
「申し訳ありません。むしろ叔父上と呼ぶ方が良いでしょうか??」
挑発するような物言いのマティアスを睨みつける。後ろからは容赦のない冷気が襲ってくるがそれ以上に怒りの感情が溢れていて寒さを感じなかった。
「いつから知っていた??」
「……そうですね、知ったのは本当につい最近です。祖母の古い日記を見つけてそこで知りました」
「そうか。だが今更そんなことはどうでもいい。フレデリックを私の息子を返してもらおう」
マティアスはその言葉に邪悪な笑みをたたえた。その表情に急に背筋が冷たくなるのが分かった。
それはマティアスが怖いなどそう言うことではない。その醜悪な笑みがトマスを陥れた際に自分が浮かべたものに酷似していたからだった。
まるで鏡の前に立つような錯覚に陥りながらもマティアスを睨み続ける。
「叔父上。フレデリック様は、俺の姫君になりました。そして、もう2度と俺以外の誰とも会いたくないとおっしゃっているのです。それは父親である貴方も例外ではありません」
「そんなはずはない。フレデリックは王都へ帰りたいはずだ!!」
少なくともマティアスの、この狂った男の側にフレデリックを置いておいたら危険だと警笛が鳴るのがわかった。しかし、マティアスはただ邪悪な笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「あんなことがあった王都へ帰りたいと思いますか??むしろ貴方ならお分かりかと思いますが『落伍騎士』として王都に居残るなどただの地獄です」
マティアスの言う通り、『落伍騎士』になったフレデリックが『騎士』を続ければ間違いなく性欲を持て余し『姫』を持たない『騎士』の慰み者にされる可能性が高い。
だからこそ、王都に連れ戻したなら公爵家の奥深くにフレデリックを閉じこめるつもりでいた。
その自分の思考を読み取る様にマティアスが言葉を続けた。
「それに叔父上は姫君を連れて帰ったら、もう二度と家から出さないつもりではありませんか??そうして誰にも触れさせないようにして自己満足をするだけ。でもそれは貴方の望みで姫君の望みではない。姫君は愛を欲しているのだから……」
「だとしても、お前のような男に蹂躙されつづけるよりマシだ」
間違いなくフレデリックを犯し続けているだろう自身の鏡のような男に吐き捨てるように告げる。
「ははは、そうです。姫君はもう俺だけの青い薔薇だ。自分に歪んだ愛しか向けない父親など必要ないのです」
そうして、見せつけるように手の甲に刻まれた青い薔薇をかざした。紛れもない、フレデリックがこの男に『姫』にされた証。
もっとショックを受けると思っていたが、心のどこかでもうフレデリックはこの男のものにされていると予測していた。
分かるのだ。嫌になるくらいはっきりとこの男は、どんな手を使ってでも愛おしい姫を手に入れようとすることが……。
「だからもう貴方の元には姫君は帰らない。永遠に俺だけの『姫』だ」
「違う、フレデリックは……」
何かを口に出そうとしたが、出ることはなく沈黙しそのまま気付いたら崩れ落ちるように地べたに足をついていた。
「……そろそろ、寂しがり屋の姫君のところに帰らないときっと泣いているかもしれない……」
いとおしげに目を細めたその顔に、なぜが泣きたくなる。それが遠い日の自身が確かに持っていたものを思い返してのものであることが分かったがそれを形として認識できるほどの力が最早私には残されていなかった。
玄関で座り込む自分にマティアスが狂った満面の笑みで言い放つ。
「永遠にさようなら」
それは『お義父さん』と呼ばれたからではない。マティアスの姿が明らかに乱れたもので、それこそ常時の途中で上着を羽織ってやってきたというようなバスローブだけを羽織った姿だったためだった。
「……お前にそう呼ばれる筋合いはない」
「申し訳ありません。むしろ叔父上と呼ぶ方が良いでしょうか??」
挑発するような物言いのマティアスを睨みつける。後ろからは容赦のない冷気が襲ってくるがそれ以上に怒りの感情が溢れていて寒さを感じなかった。
「いつから知っていた??」
「……そうですね、知ったのは本当につい最近です。祖母の古い日記を見つけてそこで知りました」
「そうか。だが今更そんなことはどうでもいい。フレデリックを私の息子を返してもらおう」
マティアスはその言葉に邪悪な笑みをたたえた。その表情に急に背筋が冷たくなるのが分かった。
それはマティアスが怖いなどそう言うことではない。その醜悪な笑みがトマスを陥れた際に自分が浮かべたものに酷似していたからだった。
まるで鏡の前に立つような錯覚に陥りながらもマティアスを睨み続ける。
「叔父上。フレデリック様は、俺の姫君になりました。そして、もう2度と俺以外の誰とも会いたくないとおっしゃっているのです。それは父親である貴方も例外ではありません」
「そんなはずはない。フレデリックは王都へ帰りたいはずだ!!」
少なくともマティアスの、この狂った男の側にフレデリックを置いておいたら危険だと警笛が鳴るのがわかった。しかし、マティアスはただ邪悪な笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「あんなことがあった王都へ帰りたいと思いますか??むしろ貴方ならお分かりかと思いますが『落伍騎士』として王都に居残るなどただの地獄です」
マティアスの言う通り、『落伍騎士』になったフレデリックが『騎士』を続ければ間違いなく性欲を持て余し『姫』を持たない『騎士』の慰み者にされる可能性が高い。
だからこそ、王都に連れ戻したなら公爵家の奥深くにフレデリックを閉じこめるつもりでいた。
その自分の思考を読み取る様にマティアスが言葉を続けた。
「それに叔父上は姫君を連れて帰ったら、もう二度と家から出さないつもりではありませんか??そうして誰にも触れさせないようにして自己満足をするだけ。でもそれは貴方の望みで姫君の望みではない。姫君は愛を欲しているのだから……」
「だとしても、お前のような男に蹂躙されつづけるよりマシだ」
間違いなくフレデリックを犯し続けているだろう自身の鏡のような男に吐き捨てるように告げる。
「ははは、そうです。姫君はもう俺だけの青い薔薇だ。自分に歪んだ愛しか向けない父親など必要ないのです」
そうして、見せつけるように手の甲に刻まれた青い薔薇をかざした。紛れもない、フレデリックがこの男に『姫』にされた証。
もっとショックを受けると思っていたが、心のどこかでもうフレデリックはこの男のものにされていると予測していた。
分かるのだ。嫌になるくらいはっきりとこの男は、どんな手を使ってでも愛おしい姫を手に入れようとすることが……。
「だからもう貴方の元には姫君は帰らない。永遠に俺だけの『姫』だ」
「違う、フレデリックは……」
何かを口に出そうとしたが、出ることはなく沈黙しそのまま気付いたら崩れ落ちるように地べたに足をついていた。
「……そろそろ、寂しがり屋の姫君のところに帰らないときっと泣いているかもしれない……」
いとおしげに目を細めたその顔に、なぜが泣きたくなる。それが遠い日の自身が確かに持っていたものを思い返してのものであることが分かったがそれを形として認識できるほどの力が最早私には残されていなかった。
玄関で座り込む自分にマティアスが狂った満面の笑みで言い放つ。
「永遠にさようなら」
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