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22.冷血小公爵と辺境伯一族の秘密
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マティアスの言葉の意味が分からなかったが、それが良くない意味であることはすぐに理解できた。
「……どういう意味だ」
聞き返すと僕の両頬をマティアスの大きな手が包み込んだ。
「こんなに冷たくなって……。姫君に風邪を引かせるわけにはいきません。一度部屋に戻りましょう」
必死だったため気付かなかったが、マティアスの発言でその部屋がとても寒いことに気付いた。厚手のローブを纏っているのに冷たい空気が入り込むのを感じた。
しかし、何故かこのまま部屋に戻ったら僕はマティアスが隠していることを聞くことが出来なくなる気がした。それは、この辺境伯領に来てからずっとぼやけていた思考回路がはっきりとしている今じゃないといけないという奇妙な確信があったからかもしれない。
「だめだ、僕は風邪を引いても構わない。ここで教えろ」
マティアスを睨みつけるように見つめ返すが、その表情は真顔のままでそこから何を考えているのかを伺うことはできなかった。
ただ、いつものような狂気に満ちた眼差しというよりは叱られるのを恐れている子供のようで少し不思議な気持ちになる。
「ここではだめです。ちゃんと話すのであたたかい部屋に移りましょう」
懇願するように言われると心が揺らぐのが分かった。僕にとってマティアスがどういう存在なのかは今もはっきりしない。
けれど、懇願された時にそれを断る気にはなれなかった。
「……わかった、ただしいつもの寝室以外の……机があるような部屋がいい」
「ええ、この話の説明をするのにふさわしい部屋にご案内いたします」
意を決したようにマティアスは僕を抱き上げてどこかの部屋へ向かった。
思えば、今日までこの城の中を歩き回るような機会はなかった。だから分からなかったが、城の中は驚くほどの静寂に満たされていた。
人の気配はしないのに人の形跡はあるような奇妙な感覚に襲われながら、マティアスがある部屋の前で足を止めた。
その部屋は、僕のための部屋と同じぐらい異質な雰囲気のする部屋だった。
まず扉がまるでクリスタルでできているかのような透明で淡く光を放っていた。しかし、不思議なことに中の様子は見えない。
その奇妙な扉はマティアスが触れると簡単に開いた。
中も変わっているのかと思ったが、思っていたより異常なところはなく、部屋の広さは通常の来客用のサロンくらいの大きさで、中央に立派な年代物の机と椅子が置かれていた。
唯一目を引くのが1枚のとても古い時代のものと思われる肖像画で、それだけがこの部屋の中で異質な存在だった。
肖像画に描かれている人物は、髪の色こそ金髪だが青い瞳も顔の造形も僕にそっくりだった。
「この人物は……」
「……遠い昔の帝国の皇帝陛下で『青薔薇の君』だと辺境伯領では言い伝わっています」
その名を聞いた時、この間、思い出したおとぎ話、『雪の王国』を手に入れた時の皇帝陛下が確かそんな異名の持ち主だったことを思い出す。
(……やはりあのおとぎ話は遠い昔にあった実話なのか)
「姫君はもう気付いているようですが、ここは昔、『雪の王』が支配する『雪の王国』と呼ばれていた場所で、この城は『雪の王』の居城だったと言われています。そして、『雪の王』の血を引いている一族が辺境伯の一族なのですが、我々はその見た目から『太陽の一族』などと真逆のあだ名がついていますね……。けれど我々は『雪の王』の一族であり、『青薔薇の君』とある約束をすることにより我々は帝国の属国となる道を選びました。その約束は『『青薔薇』を継ぐ者がいる限りは従い、命をとす騎士として帝国を守ろう』というものでした」
「『青薔薇』とは……」
マティアスがしきりに僕のことを『青薔薇の姫君』などと呼ぶことや、皇太子殿下も僕の瞳を『ロイヤルブルー』と呼んでいたことを思い出した。
絶世の美姫だった母上も僕と同じ瞳をしていた。
「貴方の瞳です。全てを魅了して離さない美しい色だ。なぜ『雪の王』が自身が帝国の駒になる道を選んだのか記載された資料は残っていませんが俺には『雪の王』が『青薔薇の君』に恋焦がれていてその望みを叶えるために約束とともに『雪の国』の封印を解いたのだと思っています」
そこまでの話を聞いて、僕はぼんやりとマティアスが言わんとすることが見えてきていた。
もし、『雪の王』の末裔であるならばおとぎ話のようにこの辺境伯領を『雪の王国』に変貌させるような魔法などを知っている可能性があるのではないかと思ったのだ。
「つまり、マティアスは『雪の王』の末裔で辺境伯領を雪の魔法で覆って隔絶させたということか??」
「……どういう意味だ」
聞き返すと僕の両頬をマティアスの大きな手が包み込んだ。
「こんなに冷たくなって……。姫君に風邪を引かせるわけにはいきません。一度部屋に戻りましょう」
必死だったため気付かなかったが、マティアスの発言でその部屋がとても寒いことに気付いた。厚手のローブを纏っているのに冷たい空気が入り込むのを感じた。
しかし、何故かこのまま部屋に戻ったら僕はマティアスが隠していることを聞くことが出来なくなる気がした。それは、この辺境伯領に来てからずっとぼやけていた思考回路がはっきりとしている今じゃないといけないという奇妙な確信があったからかもしれない。
「だめだ、僕は風邪を引いても構わない。ここで教えろ」
マティアスを睨みつけるように見つめ返すが、その表情は真顔のままでそこから何を考えているのかを伺うことはできなかった。
ただ、いつものような狂気に満ちた眼差しというよりは叱られるのを恐れている子供のようで少し不思議な気持ちになる。
「ここではだめです。ちゃんと話すのであたたかい部屋に移りましょう」
懇願するように言われると心が揺らぐのが分かった。僕にとってマティアスがどういう存在なのかは今もはっきりしない。
けれど、懇願された時にそれを断る気にはなれなかった。
「……わかった、ただしいつもの寝室以外の……机があるような部屋がいい」
「ええ、この話の説明をするのにふさわしい部屋にご案内いたします」
意を決したようにマティアスは僕を抱き上げてどこかの部屋へ向かった。
思えば、今日までこの城の中を歩き回るような機会はなかった。だから分からなかったが、城の中は驚くほどの静寂に満たされていた。
人の気配はしないのに人の形跡はあるような奇妙な感覚に襲われながら、マティアスがある部屋の前で足を止めた。
その部屋は、僕のための部屋と同じぐらい異質な雰囲気のする部屋だった。
まず扉がまるでクリスタルでできているかのような透明で淡く光を放っていた。しかし、不思議なことに中の様子は見えない。
その奇妙な扉はマティアスが触れると簡単に開いた。
中も変わっているのかと思ったが、思っていたより異常なところはなく、部屋の広さは通常の来客用のサロンくらいの大きさで、中央に立派な年代物の机と椅子が置かれていた。
唯一目を引くのが1枚のとても古い時代のものと思われる肖像画で、それだけがこの部屋の中で異質な存在だった。
肖像画に描かれている人物は、髪の色こそ金髪だが青い瞳も顔の造形も僕にそっくりだった。
「この人物は……」
「……遠い昔の帝国の皇帝陛下で『青薔薇の君』だと辺境伯領では言い伝わっています」
その名を聞いた時、この間、思い出したおとぎ話、『雪の王国』を手に入れた時の皇帝陛下が確かそんな異名の持ち主だったことを思い出す。
(……やはりあのおとぎ話は遠い昔にあった実話なのか)
「姫君はもう気付いているようですが、ここは昔、『雪の王』が支配する『雪の王国』と呼ばれていた場所で、この城は『雪の王』の居城だったと言われています。そして、『雪の王』の血を引いている一族が辺境伯の一族なのですが、我々はその見た目から『太陽の一族』などと真逆のあだ名がついていますね……。けれど我々は『雪の王』の一族であり、『青薔薇の君』とある約束をすることにより我々は帝国の属国となる道を選びました。その約束は『『青薔薇』を継ぐ者がいる限りは従い、命をとす騎士として帝国を守ろう』というものでした」
「『青薔薇』とは……」
マティアスがしきりに僕のことを『青薔薇の姫君』などと呼ぶことや、皇太子殿下も僕の瞳を『ロイヤルブルー』と呼んでいたことを思い出した。
絶世の美姫だった母上も僕と同じ瞳をしていた。
「貴方の瞳です。全てを魅了して離さない美しい色だ。なぜ『雪の王』が自身が帝国の駒になる道を選んだのか記載された資料は残っていませんが俺には『雪の王』が『青薔薇の君』に恋焦がれていてその望みを叶えるために約束とともに『雪の国』の封印を解いたのだと思っています」
そこまでの話を聞いて、僕はぼんやりとマティアスが言わんとすることが見えてきていた。
もし、『雪の王』の末裔であるならばおとぎ話のようにこの辺境伯領を『雪の王国』に変貌させるような魔法などを知っている可能性があるのではないかと思ったのだ。
「つまり、マティアスは『雪の王』の末裔で辺境伯領を雪の魔法で覆って隔絶させたということか??」
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