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20.絡み合う(皇太子殿下視点)

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「どうかお助け下さい」

私が、リシュリュー公爵と別れてから、ちょっとした野暮用をすませて帰ろうとした時、その場所にいるはずのない人物のしかし、聞き慣れた声がしたので思わず振り返った。

そこには、アルフレッドが居たが、その姿はみすぼらしく汚れさらには明らかにおかしな部分があった。

アルフレッドの利き腕の部分に膨らみがないのだ。

(なるほど、リシュリュー公爵はアルフレッドを切り捨てたんだな、しかし……)

それは、正しい判断ではない。

帝国には法律がある。当然、どんな罪人でも私刑を行うことは特例を除いて許されてはいない。

「……こちらにこい」

私はアルフレッドを準備していた馬車に乗せた。

間抜けで救いようがないヤツだが、まだ私の役に立つなら保護してやる必要があった。

「ありがとうございます、どなたか存じ上げませんが、本当にありがとうございます」

泣きながら馬車の床に頭を擦り寄せる姿をぼんやりと眺める。どうやら私だとは気づいていないようだ。

「アルフレッド、随分な姿にされたみたいだな」

いまだに頭を下げているアルフレッドのつむじを眺めながらそういうと、気付いたのか急いでアルフレッドが顔を上げた。

「ああ、皇太子殿下……。俺、あの……腕が……」

「見れば分かる。リシュリュー公爵に切り落とされたのだろう。そして最下層街に捨てられた訳だな。全く。リシュリュー公爵は中々に恐ろしい男だ」

「腕、なくなって、俺、どうすれば良いかわからなくて……。それに、あの、母さんも死んでしまって、親類にも頼れないし、どうすればいいか分からなくて……」

鼻をぐずぐずさせながらアルフレッドが話した内容からどうやら母親はリシュリュー公爵がすでに殺害済みであるという最悪な情報も入手できた。

つまり、今、リシュリュー公爵は『姫』がいない状態だ。ならば、フレデリックを『姫』にすることもできてしまう。

それは、阻止しないといけない。

そのために、アルフレッドに私はある取引を持ちかけた。

「もし、アルフレッド、お前がリシュリュー公爵のしたことを話すと約束すれば、今後の生活を保障してやろう」

「……皇太子殿下、そうしたいのは山々ですが……俺……」

アルフレッドは口を開けて私にそれを見せた。ソレは舌に刻まれた紋様だった。

(……なるほど。リシュリュー公爵が何もせずこいつを捨て置きはしないか……)

その紋様は特定の事柄を口にできなくする魔術で、見た感じかなり強いもののようだった。

「なるほどな。まぁいい。その魔術を解く方法は探そう。後は……」

アルフレッドを私が拾ったとしればリシュリュー公爵は何かしてくるだろう。

その面倒はなるべく避けたい。

城についてまず最初にしたことは、アルフレッドに仮面と義手を準備して装着させた。

「今日から外出時はこれを被ること、後、お前のことは、そうだなしばらくはフレディと呼んで側におこう」

「あ、ありがとうございます」

そして、城のあまり目立たない部屋をアルフレッドに与えた。

「私の許可がない時はここにいるように」

「は、はい!!」

元気に返事をしたアルフレッドを置いて、私は執務室へ向かった。正義の皇太子として、皇帝陛下により無理やりマティアスの花嫁にされたフレデリックの解放と返還を求める書状を作成し、伝令に送らせるためだ。

「皇太子殿下、ゴールド伯爵よりマリーノを除籍するとの連絡がございました」

「ああ、そうか」

心底、興味のない連絡に適当に相槌を打つ。それを伝えた男は近衛騎士にしてはかなりガッチリしたキツネ目の男だったが、特に気にしはしなかった。

しかし、それが間違いだった。

「殿下、お疲れではありませんか??先ほど殿下の徒従よりこちらを受け取りました」

そう言って渡されたのはミルクだった。

はちみつの溶けた香りのするそれに自身が空腹だと思い出し、ひと口飲みこむ。

しかし、なんとも奇妙な味がしてキツネ目の男を見た瞬間、視界が歪んだ。

「皇太子殿下、申し訳ございませんが、あなたに主人様の邪魔はさせません」

「主人??一体……」

私はそのままなぜか耐え難い眠気に襲われて意識を手放した。
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