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19.密談(皇太子殿下視点)
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「リシュリュー公爵、其方はフレデリックをマティアスから取り戻したいだろう??私も従兄弟が父の横暴で無理やり嫁がされるのはおかしいと考えている」
アルフレッドにセッティングさせたことで不安はあったが無事にリシュリュー公爵と秘密裏に話す機会を作ることができた。
今は、皇族がお忍びで使用する料理店のVIPルームで向き合って話をしている。しかし、こちらの言葉を聞いてもリシュリュー公爵は無言のままだった。
私から見たリシュリュー公爵はあまり口が回るタイプではなく、無口で無骨な男というイメージだった。そもそも、辺境伯の親類であり、近衛騎士団の団長であるのだからその印象に間違いはないだろう。
「違憲として父を皇帝陛下を訴えることだって可能だ。其方が望むなら私も全力を尽くそう」
私の計画は、フレデリックの父であるリシュリュー公爵の訴えとして皇帝陛下を訴えてこの度の辺境伯とフレデリックの婚姻を無効にし、その後、私の小鳥としてフレデリックを迎えるというものだった。
リシュリュー公爵はフレデリックの父親なのだから、その父親が望まないままに婚姻がなされたことを無効だと訴えること自体は問題ない行為であるし、そもそもフレデリックは小公爵なのだから辺境伯家に嫁に出すなどおかしいと訴えることも世間的に見ても正しい反応だ。
しかし、その言葉の後もリシュリュー公爵は無言を貫いている。リシュリュー公爵の表情は何かを思案しているというよりはむしろ何か言うタイミングを見計らっているような少し緊迫感のあるものに感じた。
「其方はどう考えている??」
「……皇太子殿下、貴方の言う通り、我がリシュリュー公爵家はフレデリックを失えば後継者はおりません。ただ、フレデリックが継げないのなら最早自分の代でその名が失われることは仕方がないことだとも思っております」
予想とは異なる反応だった。
父からはリシュリュー公爵はイライジャ叔父上と婚姻することで子爵から公爵に爵位が上がるという出世をした人物であるから、てっきり権威欲も高いと思っていた。
「……それは其方は辺境伯にフレデリックが嫁いでも構わないと思っているということか??私は、其方がフレデリックを取り戻したいと思っていると聞いたのだが……」
「はい、もちろん大切なフレデリックをあの『黒い血』の辺境伯家の花嫁になどする気はありません。しかし、私が裁判をしたとて時間が掛かるだけでフレデリックを確実に取り戻すことは難しいのです。それに……」
ずっとどこか遠くを見ているようだったリシュリュー公爵の目がハッキリと私を捉えた。
「仮に裁判で皇太子殿下の手を借りて勝利したとしたら、皇太子殿下、貴方もフレデリックをロイヤルブルーの特別な子を欲しているのでしょう??」
底の見えない昏い瞳でそう言ったリシュリュー公爵に、私は心の中で舌打ちをした。
(……私の考えが少し違っていたようだ。リシュリュー公爵、この男はフレデリックを息子として見ていない)
リシュリュー公爵はフレデリックを取り戻したらそのまま自身の館に閉じ込めるはずだ。そして、もし想像通りすでにリシュリュー公爵の気が触れているならば『騎士契約』は仮契約以外はどちらかの死でのみ解消されるものだから、現在の『姫』であるアルフレッドの母親を殺して、フレデリックを実の子を自身の『姫』にする可能性すらありうる。
「……フレデリックは唯一無二の存在だからな。私も当然欲している」
最早、共同戦線は引けないと判断しリシュリュー公爵に挑発するような視線を向ける。昏い瞳はまるで虚無のようになにも映し出さない。
しかし、リシュリュー公爵は急に声をあげて笑う。
「ハハハ、皇太子殿下、貴方は皇帝陛下とよく似ている。欲しいもののためなら手段を選ばないだろう」
「ああ、そのつもりだ」
意図の読めない言葉に静かに答えれば、再びリシュリュー公爵が今度はけたたましく笑う。
「なら、辺境伯から奪い取って見せてください。そうして貴方のものにすればいい。もちろんそれが出来ればですがね。私はそれに手を貸すつもりも邪魔をするつもりもありませんのでご安心ください」
後半、早口でまくし立てるように話したリシュリュー公爵は目の前に何気なく置かれていた赤ワインを一気に飲み干した。
それは交渉が完全に決裂した合図だった。
「そうか。わかった。其方からの言質はとった。私は私でフレデリックを取り返させてもらう」
席を乱暴に立つとそのまま私は後ろを振り向かずその場を後にした。そして、いよいよ血なまぐさいことをしてでもフレデリックを私の可愛い小鳥を取り戻す決意をした。
アルフレッドにセッティングさせたことで不安はあったが無事にリシュリュー公爵と秘密裏に話す機会を作ることができた。
今は、皇族がお忍びで使用する料理店のVIPルームで向き合って話をしている。しかし、こちらの言葉を聞いてもリシュリュー公爵は無言のままだった。
私から見たリシュリュー公爵はあまり口が回るタイプではなく、無口で無骨な男というイメージだった。そもそも、辺境伯の親類であり、近衛騎士団の団長であるのだからその印象に間違いはないだろう。
「違憲として父を皇帝陛下を訴えることだって可能だ。其方が望むなら私も全力を尽くそう」
私の計画は、フレデリックの父であるリシュリュー公爵の訴えとして皇帝陛下を訴えてこの度の辺境伯とフレデリックの婚姻を無効にし、その後、私の小鳥としてフレデリックを迎えるというものだった。
リシュリュー公爵はフレデリックの父親なのだから、その父親が望まないままに婚姻がなされたことを無効だと訴えること自体は問題ない行為であるし、そもそもフレデリックは小公爵なのだから辺境伯家に嫁に出すなどおかしいと訴えることも世間的に見ても正しい反応だ。
しかし、その言葉の後もリシュリュー公爵は無言を貫いている。リシュリュー公爵の表情は何かを思案しているというよりはむしろ何か言うタイミングを見計らっているような少し緊迫感のあるものに感じた。
「其方はどう考えている??」
「……皇太子殿下、貴方の言う通り、我がリシュリュー公爵家はフレデリックを失えば後継者はおりません。ただ、フレデリックが継げないのなら最早自分の代でその名が失われることは仕方がないことだとも思っております」
予想とは異なる反応だった。
父からはリシュリュー公爵はイライジャ叔父上と婚姻することで子爵から公爵に爵位が上がるという出世をした人物であるから、てっきり権威欲も高いと思っていた。
「……それは其方は辺境伯にフレデリックが嫁いでも構わないと思っているということか??私は、其方がフレデリックを取り戻したいと思っていると聞いたのだが……」
「はい、もちろん大切なフレデリックをあの『黒い血』の辺境伯家の花嫁になどする気はありません。しかし、私が裁判をしたとて時間が掛かるだけでフレデリックを確実に取り戻すことは難しいのです。それに……」
ずっとどこか遠くを見ているようだったリシュリュー公爵の目がハッキリと私を捉えた。
「仮に裁判で皇太子殿下の手を借りて勝利したとしたら、皇太子殿下、貴方もフレデリックをロイヤルブルーの特別な子を欲しているのでしょう??」
底の見えない昏い瞳でそう言ったリシュリュー公爵に、私は心の中で舌打ちをした。
(……私の考えが少し違っていたようだ。リシュリュー公爵、この男はフレデリックを息子として見ていない)
リシュリュー公爵はフレデリックを取り戻したらそのまま自身の館に閉じ込めるはずだ。そして、もし想像通りすでにリシュリュー公爵の気が触れているならば『騎士契約』は仮契約以外はどちらかの死でのみ解消されるものだから、現在の『姫』であるアルフレッドの母親を殺して、フレデリックを実の子を自身の『姫』にする可能性すらありうる。
「……フレデリックは唯一無二の存在だからな。私も当然欲している」
最早、共同戦線は引けないと判断しリシュリュー公爵に挑発するような視線を向ける。昏い瞳はまるで虚無のようになにも映し出さない。
しかし、リシュリュー公爵は急に声をあげて笑う。
「ハハハ、皇太子殿下、貴方は皇帝陛下とよく似ている。欲しいもののためなら手段を選ばないだろう」
「ああ、そのつもりだ」
意図の読めない言葉に静かに答えれば、再びリシュリュー公爵が今度はけたたましく笑う。
「なら、辺境伯から奪い取って見せてください。そうして貴方のものにすればいい。もちろんそれが出来ればですがね。私はそれに手を貸すつもりも邪魔をするつもりもありませんのでご安心ください」
後半、早口でまくし立てるように話したリシュリュー公爵は目の前に何気なく置かれていた赤ワインを一気に飲み干した。
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席を乱暴に立つとそのまま私は後ろを振り向かずその場を後にした。そして、いよいよ血なまぐさいことをしてでもフレデリックを私の可愛い小鳥を取り戻す決意をした。
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