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18.冷血小公爵と穏やかな日02
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目の前に広がる光景は一面の銀世界だった。
「……これは」
「雪です。姫君が昔みたいとおっしゃっていたので」
マティアスの言葉に確かに昔、辺境伯領では冬に雪が降ると聞いた時に、それを羨ましいと言った記憶を思い出した。王都は、雪が降らないので本でしか知らないそれを見たいと思ったのだ。
(……そんな昔のことを覚えてくれていたのか)
「寒いので、お体に触るとよくないので外にはお連れできませんが……」
そう言って、マティアスが後ろから抱きしめる。外のひんやりとした空気と背中から伝わる体温に不思議な気持ちになる。
空から音もなく降り積もる雪の影響なのか周りの音が聞こえず、まるで世界にマティアスとふたりっきりのような錯覚に陥る。
「……ありがとう」
自然と口から感謝の言葉が出ていた。思い返せば素直に感情を出したり言葉にすることが長い間できていなかったのにここに来てからはマティアスの影響もありそれらが少しずつ氷解していっている自覚がある。
心の奥底にずっと閉じこめてきた鎧のようなものが1枚1枚マティアスによって剥がされていく。前だったら怖くて仕方なかっただろうその感覚が今はどこか幸せな気がしてきていた。
「姫君、フリッカ姫。貴方の望みは全て叶えて差し上げたいのです。それが神に背くことであろうと……」
耳元でささやかれた言葉は背徳的であるのに、同時に耳触りが良く感じてしまう。
「マティアス……」
自分でも驚くような甘えた響きの声色だった。そのまま、後ろを振り向けば飢えた獣のような物騒な瞳をした男が立っている。
「フリッカ姫……」
お互いの唇が合わさるなり、マティアスはいつものように貪るように口腔内を犯していく。歯列をなぞられ、舌を吸われて呼吸を奪われる。
「っ……」
顎のラインを飲み下せなかった唾液が零れ落ちていく。
(……このまま、溶けてしまいたい)
しかし、無情にも唇が離れる。名残の糸だけを残して。
ぼんやりとしたまま、その先を強請りそうになった時、何の前触れもなくヒラヒラとまるで蝶のように舞うように動いたそれは少し離れた館の内部に落ちた。
「……あれは、なんだ??」
僕は気になってマティアスから離れてそれを掬い上げていた。最初は雪か何かと思ったがそれが紙片であることに気付いて裏返してみると、何かの書類の一部だった。
『フレデリック・コルヌイエ・リシュリューの返還要求について……』
辛うじて読めたのはその部分だけでそれ以外はどうやら炎に焼かれたようで読むことができなかった。
「これは……僕の返還要求と書いてあるみたいだが」
「姫君は、何も心配する必要はありません」
きっぱりと言いきったマティアスだったが、何か酷い胸騒ぎを覚えた。
「マティアス……これは父上から来たものじゃないのか??だとしたら正式な書類のはずだ、それを破くのは……」
良いことではない。
僕としては、王都に戻り『落伍騎士』として蔑まれながら生きて心をすり減らすことになるのは、辺境伯領での生活を知ってしまった今は難しいと感じる。
けれど、だからこそ正式に返還要求があったならそれは裁判などでしっかりと争い問題をクリアにすべきだと思ったのだ。
その言葉にマティアスの表情が笑顔に変わる。しかし、その笑顔は狂気に満ちたもので本能的に寒気に襲われる。そもそもよく考えたら春にここに来て冬までの間に返還要求をしたのなら誰も訪れていないことがおかしい。
(いや、本当に誰も訪れていないのだろうか)
急に嫌な予感がしてマティアスに尋ねていた。
「マティアス、何を隠している??」
「……これは」
「雪です。姫君が昔みたいとおっしゃっていたので」
マティアスの言葉に確かに昔、辺境伯領では冬に雪が降ると聞いた時に、それを羨ましいと言った記憶を思い出した。王都は、雪が降らないので本でしか知らないそれを見たいと思ったのだ。
(……そんな昔のことを覚えてくれていたのか)
「寒いので、お体に触るとよくないので外にはお連れできませんが……」
そう言って、マティアスが後ろから抱きしめる。外のひんやりとした空気と背中から伝わる体温に不思議な気持ちになる。
空から音もなく降り積もる雪の影響なのか周りの音が聞こえず、まるで世界にマティアスとふたりっきりのような錯覚に陥る。
「……ありがとう」
自然と口から感謝の言葉が出ていた。思い返せば素直に感情を出したり言葉にすることが長い間できていなかったのにここに来てからはマティアスの影響もありそれらが少しずつ氷解していっている自覚がある。
心の奥底にずっと閉じこめてきた鎧のようなものが1枚1枚マティアスによって剥がされていく。前だったら怖くて仕方なかっただろうその感覚が今はどこか幸せな気がしてきていた。
「姫君、フリッカ姫。貴方の望みは全て叶えて差し上げたいのです。それが神に背くことであろうと……」
耳元でささやかれた言葉は背徳的であるのに、同時に耳触りが良く感じてしまう。
「マティアス……」
自分でも驚くような甘えた響きの声色だった。そのまま、後ろを振り向けば飢えた獣のような物騒な瞳をした男が立っている。
「フリッカ姫……」
お互いの唇が合わさるなり、マティアスはいつものように貪るように口腔内を犯していく。歯列をなぞられ、舌を吸われて呼吸を奪われる。
「っ……」
顎のラインを飲み下せなかった唾液が零れ落ちていく。
(……このまま、溶けてしまいたい)
しかし、無情にも唇が離れる。名残の糸だけを残して。
ぼんやりとしたまま、その先を強請りそうになった時、何の前触れもなくヒラヒラとまるで蝶のように舞うように動いたそれは少し離れた館の内部に落ちた。
「……あれは、なんだ??」
僕は気になってマティアスから離れてそれを掬い上げていた。最初は雪か何かと思ったがそれが紙片であることに気付いて裏返してみると、何かの書類の一部だった。
『フレデリック・コルヌイエ・リシュリューの返還要求について……』
辛うじて読めたのはその部分だけでそれ以外はどうやら炎に焼かれたようで読むことができなかった。
「これは……僕の返還要求と書いてあるみたいだが」
「姫君は、何も心配する必要はありません」
きっぱりと言いきったマティアスだったが、何か酷い胸騒ぎを覚えた。
「マティアス……これは父上から来たものじゃないのか??だとしたら正式な書類のはずだ、それを破くのは……」
良いことではない。
僕としては、王都に戻り『落伍騎士』として蔑まれながら生きて心をすり減らすことになるのは、辺境伯領での生活を知ってしまった今は難しいと感じる。
けれど、だからこそ正式に返還要求があったならそれは裁判などでしっかりと争い問題をクリアにすべきだと思ったのだ。
その言葉にマティアスの表情が笑顔に変わる。しかし、その笑顔は狂気に満ちたもので本能的に寒気に襲われる。そもそもよく考えたら春にここに来て冬までの間に返還要求をしたのなら誰も訪れていないことがおかしい。
(いや、本当に誰も訪れていないのだろうか)
急に嫌な予感がしてマティアスに尋ねていた。
「マティアス、何を隠している??」
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