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16.手に入るはずだったもの2(アルフレッド視点(フレデリックの義弟))
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※グロテスクな描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
家令に言われるがまま訪れた父さんの執務室の扉は閉じられている。いつもなら気にしなかったその扉が今は窒息するほど重いものに思えた。
この先にいる父さんの表情がどんなものか見るのが怖かった。けれど、永遠に逃げることはできない。だから必死に唱える。
(……大丈夫、俺は皇太子殿下には気に入られているはずだ。ならあの方が父さんをうまく言いくるめたはずだ……)
緊張のあまり早くなる鼓動を一度深呼吸で落ち着かせて、扉をノックする。
「入れ」
「失礼します……」
部屋に入った瞬間その異様さに気付いた。父さんが座る執務室の机の足元に何かが転がっているのだ。それが何かに気付いた時、俺は『ヒッ』と情けない声が漏れてしまった。
「アルフレッド、お前には失望したよ」
「あっ……あっ……」
あの日見たのと同じ昏い目をした父さん、いや公爵様は口元だけ歪ませている。それは笑顔を作っているのかもしれないがそれが笑顔だとしたら世の中の度の表情だって笑顔といえるくらい恐ろしい表情だった。
そして、何より恐ろしいのが公爵様の足元に転がっているものの存在だ。それは、見間違え出なければ俺の良く知る人物だ。しかし、それがその人物だと確認することがどうしても今このタイミングで出来ない理由があった。
「お前にもお前の母親にもあの日に伝えたはずだ。次に、問題を起こしたらこの家から追い出すと。それが何を意味するか当然分かっているものだとおもったのだが……」
「ごめんなさい……」
謝る以外の選択肢がなかった。必死に「ごめんなさい」と謝罪して頭を下げる。
「アルフレッド、謝罪はやめなさい」
酷く穏やかな声に許されたのかと一瞬誤解したが、顔を上げた瞬間いつの間にか立ち上がった公爵様が俺の髪を引っ張る様に無理やりに持ち上げた。
ブチブチ
何本かの髪が引き抜かれて、宙を舞ったのが分かる。しかし、それを気にする余裕などないほど狂気に満ちた瞳が眼前にある。
あまりの恐怖に言葉がでず、ただただ涙が零れる。
「あっ……あっ……」
「謝ってもすまないことをしたんだ。フレデリックが辺境伯にあの野蛮な男のところに嫁に行くなんて、悪夢だ。世界で一番美しく可憐な姫であったイーリー姫が遺したたったひとつの薔薇を、ロイヤルブルーの瞳をした最後の天使を……お前は汚す手伝いをしたんだ」
その声はどこまでも温度のない冷たいもので、自分がどうしても目の前の人が自分を許すことがないと悟った時足元に転がるそれと同じ運命をたどるだろう想像がされて震えが止まらなくなる。
足元に転がるそれ、見慣れた公爵夫人のための豪華な服を身にまとっているがそれには大切なある部分が欠けている。
「アルフレッド、お前もお前の母親にも私はなに不自由がない生活をさせたはずだ。そして、あのゴールド伯爵家令息にもゴールド伯爵家にも多くの見返りを与えた。それなのに、なぜお前たちはフレデリックを傷つけた??どうして??どうして、あの子が『騎士』でいることを妨害した!!」
完全に狂っていると思ったがそれを口にすることができない。しかし、嘘をついたらもっとひどい目にあうと思った俺は素直に思っていたことを伝えることにした。
「俺は、公爵家を継ぎたかったのです。だから、兄貴が邪魔だと思ってしまったのです」
「公爵家をお前が継ぐ??それはありえない。お前はイーリー姫の尊い血を一切引いていないからな。ただ、私が持っている子爵家の爵位はゴールド伯爵家との約束でお前に与える約束だったよ」
その答えに胸の奧が冷えるのが分かった。そして、公爵家の次男として扱われることで忘れていたがそもそも子爵家の主になれること自体がただの没落した男爵家の息子に過ぎなかった自分には破格の条件だったということを理解する。
「しかし、お前たちもゴールド伯爵家もその約束を違えたのだ。それも最悪の形で……」
「許してください、許してください」
必死に地面に頭をこすりつける。そうして絨毯に顔を突ければ鉄臭いにおいがした。それが今すぐ側に転がっている母さんの服を着た首のない遺体が流すものだとわかって吐き気がしたが必死に我慢する。
「ああ、そんなに許されたいか??」
「……は、はいっ」
チャンスかもしれないと思った。しかし、そんなものは存在しなかった。その証拠に血に濡れた剣がなんの躊躇もなく俺の利き腕を切り落としたのだから。
「あっ……あああああ!!!」
あまりの痛みに地面を転がる俺をこれ以上ない笑顔の公爵様が見下ろしているのがわかった。その口から残酷な言葉が紡がれた。
「『姫』であるお前の母にとって顔が大切だった。だからこの通りボロボロにしてやった」
その手には、見る影もなく切り刻まれた母の生首があった。
「そして、『騎士』であるお前にとって剣を握れなくなるのは絶望的なはずだ。お前に選ばせてやろう。そのまま無様にいきるか、それともここで死ぬか。ちなみにお前の母は死を選んだよ」
激痛の中で、俺は公爵様の問いかけに答えた。
「……生きたいです」
それがどのような結果になるかは分からない。しかし、どうしても死を選ぶことはできなかった。
家令に言われるがまま訪れた父さんの執務室の扉は閉じられている。いつもなら気にしなかったその扉が今は窒息するほど重いものに思えた。
この先にいる父さんの表情がどんなものか見るのが怖かった。けれど、永遠に逃げることはできない。だから必死に唱える。
(……大丈夫、俺は皇太子殿下には気に入られているはずだ。ならあの方が父さんをうまく言いくるめたはずだ……)
緊張のあまり早くなる鼓動を一度深呼吸で落ち着かせて、扉をノックする。
「入れ」
「失礼します……」
部屋に入った瞬間その異様さに気付いた。父さんが座る執務室の机の足元に何かが転がっているのだ。それが何かに気付いた時、俺は『ヒッ』と情けない声が漏れてしまった。
「アルフレッド、お前には失望したよ」
「あっ……あっ……」
あの日見たのと同じ昏い目をした父さん、いや公爵様は口元だけ歪ませている。それは笑顔を作っているのかもしれないがそれが笑顔だとしたら世の中の度の表情だって笑顔といえるくらい恐ろしい表情だった。
そして、何より恐ろしいのが公爵様の足元に転がっているものの存在だ。それは、見間違え出なければ俺の良く知る人物だ。しかし、それがその人物だと確認することがどうしても今このタイミングで出来ない理由があった。
「お前にもお前の母親にもあの日に伝えたはずだ。次に、問題を起こしたらこの家から追い出すと。それが何を意味するか当然分かっているものだとおもったのだが……」
「ごめんなさい……」
謝る以外の選択肢がなかった。必死に「ごめんなさい」と謝罪して頭を下げる。
「アルフレッド、謝罪はやめなさい」
酷く穏やかな声に許されたのかと一瞬誤解したが、顔を上げた瞬間いつの間にか立ち上がった公爵様が俺の髪を引っ張る様に無理やりに持ち上げた。
ブチブチ
何本かの髪が引き抜かれて、宙を舞ったのが分かる。しかし、それを気にする余裕などないほど狂気に満ちた瞳が眼前にある。
あまりの恐怖に言葉がでず、ただただ涙が零れる。
「あっ……あっ……」
「謝ってもすまないことをしたんだ。フレデリックが辺境伯にあの野蛮な男のところに嫁に行くなんて、悪夢だ。世界で一番美しく可憐な姫であったイーリー姫が遺したたったひとつの薔薇を、ロイヤルブルーの瞳をした最後の天使を……お前は汚す手伝いをしたんだ」
その声はどこまでも温度のない冷たいもので、自分がどうしても目の前の人が自分を許すことがないと悟った時足元に転がるそれと同じ運命をたどるだろう想像がされて震えが止まらなくなる。
足元に転がるそれ、見慣れた公爵夫人のための豪華な服を身にまとっているがそれには大切なある部分が欠けている。
「アルフレッド、お前もお前の母親にも私はなに不自由がない生活をさせたはずだ。そして、あのゴールド伯爵家令息にもゴールド伯爵家にも多くの見返りを与えた。それなのに、なぜお前たちはフレデリックを傷つけた??どうして??どうして、あの子が『騎士』でいることを妨害した!!」
完全に狂っていると思ったがそれを口にすることができない。しかし、嘘をついたらもっとひどい目にあうと思った俺は素直に思っていたことを伝えることにした。
「俺は、公爵家を継ぎたかったのです。だから、兄貴が邪魔だと思ってしまったのです」
「公爵家をお前が継ぐ??それはありえない。お前はイーリー姫の尊い血を一切引いていないからな。ただ、私が持っている子爵家の爵位はゴールド伯爵家との約束でお前に与える約束だったよ」
その答えに胸の奧が冷えるのが分かった。そして、公爵家の次男として扱われることで忘れていたがそもそも子爵家の主になれること自体がただの没落した男爵家の息子に過ぎなかった自分には破格の条件だったということを理解する。
「しかし、お前たちもゴールド伯爵家もその約束を違えたのだ。それも最悪の形で……」
「許してください、許してください」
必死に地面に頭をこすりつける。そうして絨毯に顔を突ければ鉄臭いにおいがした。それが今すぐ側に転がっている母さんの服を着た首のない遺体が流すものだとわかって吐き気がしたが必死に我慢する。
「ああ、そんなに許されたいか??」
「……は、はいっ」
チャンスかもしれないと思った。しかし、そんなものは存在しなかった。その証拠に血に濡れた剣がなんの躊躇もなく俺の利き腕を切り落としたのだから。
「あっ……あああああ!!!」
あまりの痛みに地面を転がる俺をこれ以上ない笑顔の公爵様が見下ろしているのがわかった。その口から残酷な言葉が紡がれた。
「『姫』であるお前の母にとって顔が大切だった。だからこの通りボロボロにしてやった」
その手には、見る影もなく切り刻まれた母の生首があった。
「そして、『騎士』であるお前にとって剣を握れなくなるのは絶望的なはずだ。お前に選ばせてやろう。そのまま無様にいきるか、それともここで死ぬか。ちなみにお前の母は死を選んだよ」
激痛の中で、俺は公爵様の問いかけに答えた。
「……生きたいです」
それがどのような結果になるかは分からない。しかし、どうしても死を選ぶことはできなかった。
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