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08.冷血小公爵のトラウマ※
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僕は、マティアスの言葉に必死に首を振る。
声が出ないのでそれが嫌だということを伝える方法が他になかったのだ。しかし、まるで幼子が癇癪を起したようなその自分の行動が気恥ずかしく顔が赤くなるのが分かった。
(こんな仕草は、昔、前辺境伯卿に甘えた時にしかしたことがない)
「ああ、そんな顔をしないでください。俺は俺の姫君をドロドロに甘やかしたいだけなのですから」
マティアスはそう言うが、正直、彼が僕を甘やかしているとは思えない。むしろ……、いや深く今は考えてはいけない。
風呂場の清潔な湯気にほんの少し気分が上がるのが分かる。その湯気により自分によく似た像もはっきりとは見えないのも救いである。
そして、いつも通り、髪や体を洗おうとした時、腰への激痛が走る。そこで自身が見動きをとることが難しいことを思い出した。
どうするべきかと固まっていた僕の体が再び持ち上がり洗い場の大きな鏡の前の椅子の上にゆっくりと座らされた。
「姫君、大丈夫。俺が体の隅々まで綺麗にしてあげますから」
鏡に写るマティアスの狂った金色の瞳は煌々としていて何が楽しいのか分からないが幸せそうに髪の毛を洗い始める。
その手は辺境伯であるため剣タコがカチカチになった雄々しいものなのに、今髪を洗う手の動きは優しく繊細でその仕草に遠い夏の日を思い出してしまう。
元々、マティアスとは夏の間、僕がこの領地へ避暑に訪れる時だけ遊ぶことができた友人だった。王都では公爵家の嫡男であり僕より身分が高い人間があまりいなかったため孤立していることが多かったのもありとても楽しい思い出だった。
前辺境伯は、とても明るく気さくな人でいつも僕にも優しくしてくれた。父親からの愛情に飢えていた僕にとって前辺境伯はもし自分に自分を愛してくれる父親がいるのならこういう人なのかと思うような太陽のような人だった。
『ああ、俺に『姫』の子がいたらこんな感じなのかな。辺境伯家にそんな子が生まれる訳ないが本当にフリッカは可愛いな』
と言って髪を撫でたり膝の上にのせたりして甘やかしてくれたことを思い出す。
マティアスが救国の英雄となった今回の戦争で、敵国の罠にハマった自身の部下たちを救うために自らの命を犠牲にしたと聞いているができればもう一度会いたかったと思う人だった。
「何を考えているのですか??」
いきなり耳元でマティアスが囁く。気付けば、髪も体もマティアスにより綺麗に洗われたようだった。
「……!!」
突然のことに驚くが声が出ないので唇が動いただけだった。その様子を見てマティアスの表情が仄暗いものへと変貌したことに下を向いていた僕は気づかなかった。
「姫君は父上が好きでしたか??」
「……」
(……好きだった。一番優しくしてくれた人だから)
心からそう思った。前辺境伯は僕にとってまさに理想の父だった。
「ああ、姫君の一番は俺でないといけません。父上に渡すものか」
低い声色はいつもの色気のあるバリトンではない。地の底を這うような怒気を孕んだようなものでその気迫に僕の体が小さく跳ねてしまった。
僕の様子に気付いたか気付かないか分からないが、マティアスが腕で僕の太腿を抱えて左右に開いた。その結果、鏡の前に昨日の常時で散々弄られて紅く色づいたアナルがハッキリと目視できる状態になってしまった。
「……っ!!」
あまりの恥ずかしさに絞り出すような声が出る。しかし、マティアスは気にもせずアナルに指を挿し込んだ。
ナカにはいまだに注がれた残滓があり淫靡にヒクつきながらマティアスの指に絡むように垂れたのが見えた。
(やめろ……恥ずかしい)
「恥ずかしいですか??どうして??貴方は姫君です。『騎士』に愛されてここに熱い種を植え付けられる宿命だ。ああ、でも確かにフレデリック様はまだ『姫』になっていない。だとしたら……」
マティアスが続けようとした言葉が『怖い』と思った。確かに『姫』のように抱かれたし、僕はマティアスと婚姻したが、『契約』はしていない。つまりは『騎士』のままなのだ。
それなのに、マティアスが姫君と呼ぶと自分が『姫』である気がしてあんな獣のような痴態を晒してマティアスに貫かれることに快感を覚えてしまった。
「あっ……あっ」
その先の言葉が聞きたくなかった。きっと父のように僕を口汚く罵るのだと思ったからだ。
『フレデリック、お前は『騎士』だ、『姫』じゃない。だから甘えるな。誰かに媚びるような表情もやめろ!!どんな時も表情を変えるな、わかったな』
父の言葉が蘇る。いつも厳しい人で僕が『姫』のように甘えることを決して許さなかった。
|
そうだ、僕は『騎士』、たとえ『落伍騎士』になっても『騎士』だ。だから、それなのに僕はマティアスとあんなことをあんなことを……。
「あああああああっ!!!!」
気付いたら枯れた喉を振り絞り叫んでいた。そのせいで喉が切れたのか血の味が口内を満たすがそんなことはどうでもよかった。
「姫君、ああクソ、どうして俺は貴方を傷つけてしまうんだ。こんなに愛しているのに、誰よりも愛しているのに、どうして父上のようにできない……」
恐慌状態の中で、偶然目に入った鏡の中のマティアスが今までで一番昏い目をしていた。それはまるで深い深い井戸の底のような底なしの絶望のようなそんな昏さだった。
声が出ないのでそれが嫌だということを伝える方法が他になかったのだ。しかし、まるで幼子が癇癪を起したようなその自分の行動が気恥ずかしく顔が赤くなるのが分かった。
(こんな仕草は、昔、前辺境伯卿に甘えた時にしかしたことがない)
「ああ、そんな顔をしないでください。俺は俺の姫君をドロドロに甘やかしたいだけなのですから」
マティアスはそう言うが、正直、彼が僕を甘やかしているとは思えない。むしろ……、いや深く今は考えてはいけない。
風呂場の清潔な湯気にほんの少し気分が上がるのが分かる。その湯気により自分によく似た像もはっきりとは見えないのも救いである。
そして、いつも通り、髪や体を洗おうとした時、腰への激痛が走る。そこで自身が見動きをとることが難しいことを思い出した。
どうするべきかと固まっていた僕の体が再び持ち上がり洗い場の大きな鏡の前の椅子の上にゆっくりと座らされた。
「姫君、大丈夫。俺が体の隅々まで綺麗にしてあげますから」
鏡に写るマティアスの狂った金色の瞳は煌々としていて何が楽しいのか分からないが幸せそうに髪の毛を洗い始める。
その手は辺境伯であるため剣タコがカチカチになった雄々しいものなのに、今髪を洗う手の動きは優しく繊細でその仕草に遠い夏の日を思い出してしまう。
元々、マティアスとは夏の間、僕がこの領地へ避暑に訪れる時だけ遊ぶことができた友人だった。王都では公爵家の嫡男であり僕より身分が高い人間があまりいなかったため孤立していることが多かったのもありとても楽しい思い出だった。
前辺境伯は、とても明るく気さくな人でいつも僕にも優しくしてくれた。父親からの愛情に飢えていた僕にとって前辺境伯はもし自分に自分を愛してくれる父親がいるのならこういう人なのかと思うような太陽のような人だった。
『ああ、俺に『姫』の子がいたらこんな感じなのかな。辺境伯家にそんな子が生まれる訳ないが本当にフリッカは可愛いな』
と言って髪を撫でたり膝の上にのせたりして甘やかしてくれたことを思い出す。
マティアスが救国の英雄となった今回の戦争で、敵国の罠にハマった自身の部下たちを救うために自らの命を犠牲にしたと聞いているができればもう一度会いたかったと思う人だった。
「何を考えているのですか??」
いきなり耳元でマティアスが囁く。気付けば、髪も体もマティアスにより綺麗に洗われたようだった。
「……!!」
突然のことに驚くが声が出ないので唇が動いただけだった。その様子を見てマティアスの表情が仄暗いものへと変貌したことに下を向いていた僕は気づかなかった。
「姫君は父上が好きでしたか??」
「……」
(……好きだった。一番優しくしてくれた人だから)
心からそう思った。前辺境伯は僕にとってまさに理想の父だった。
「ああ、姫君の一番は俺でないといけません。父上に渡すものか」
低い声色はいつもの色気のあるバリトンではない。地の底を這うような怒気を孕んだようなものでその気迫に僕の体が小さく跳ねてしまった。
僕の様子に気付いたか気付かないか分からないが、マティアスが腕で僕の太腿を抱えて左右に開いた。その結果、鏡の前に昨日の常時で散々弄られて紅く色づいたアナルがハッキリと目視できる状態になってしまった。
「……っ!!」
あまりの恥ずかしさに絞り出すような声が出る。しかし、マティアスは気にもせずアナルに指を挿し込んだ。
ナカにはいまだに注がれた残滓があり淫靡にヒクつきながらマティアスの指に絡むように垂れたのが見えた。
(やめろ……恥ずかしい)
「恥ずかしいですか??どうして??貴方は姫君です。『騎士』に愛されてここに熱い種を植え付けられる宿命だ。ああ、でも確かにフレデリック様はまだ『姫』になっていない。だとしたら……」
マティアスが続けようとした言葉が『怖い』と思った。確かに『姫』のように抱かれたし、僕はマティアスと婚姻したが、『契約』はしていない。つまりは『騎士』のままなのだ。
それなのに、マティアスが姫君と呼ぶと自分が『姫』である気がしてあんな獣のような痴態を晒してマティアスに貫かれることに快感を覚えてしまった。
「あっ……あっ」
その先の言葉が聞きたくなかった。きっと父のように僕を口汚く罵るのだと思ったからだ。
『フレデリック、お前は『騎士』だ、『姫』じゃない。だから甘えるな。誰かに媚びるような表情もやめろ!!どんな時も表情を変えるな、わかったな』
父の言葉が蘇る。いつも厳しい人で僕が『姫』のように甘えることを決して許さなかった。
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そうだ、僕は『騎士』、たとえ『落伍騎士』になっても『騎士』だ。だから、それなのに僕はマティアスとあんなことをあんなことを……。
「あああああああっ!!!!」
気付いたら枯れた喉を振り絞り叫んでいた。そのせいで喉が切れたのか血の味が口内を満たすがそんなことはどうでもよかった。
「姫君、ああクソ、どうして俺は貴方を傷つけてしまうんだ。こんなに愛しているのに、誰よりも愛しているのに、どうして父上のようにできない……」
恐慌状態の中で、偶然目に入った鏡の中のマティアスが今までで一番昏い目をしていた。それはまるで深い深い井戸の底のような底なしの絶望のようなそんな昏さだった。
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