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03.賢竜帝様が思いもよらない行動をとり始めた(???視点)
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「何故いまさら……」
私は、想定外の事態に震えていた。何故今更になって竜帝様は私の国の事件の調書など取り始めたのだろうか。所詮属国で起きた事件。
数多の属国を従えている帝国にとって些事に過ぎないはずだ。
(あの事件を、あまり掘り返されるとまずいのよ……、もしあのことがバレたら私は……)
「バビロン殿」
久しく聞いていなかった名前を呼ばれた。
以前、本名を隠匿するために使用していたあだ名。バビロンは古代都市を模した名ではない。私に相応しいある悪魔の名を模したものだ。
音もなく部屋の中に訪れた男は、黒いローブを纏って顔が見えない。しかし、ローブの下からわずかにのぞく黄金色の瞳に思わず背筋が寒くなる。間違いなく彼は使者だ。
「……その名で呼ぶということは……貴方は『ヴェリテ』を知るものね」
敢えて母国語でそう告げると、男はまるで金属の擦れるような人間らしくない声で笑う。
「そう、『ヴェリテ』を知るもの、使者だ。バビロン殿に今回は忠告をしにきた」
なんの忖度もなく言い放たれる言葉に背筋が冷たくなっていく。
「しばらくは、貴方は存在を隠す必要がある。帝国に貴方のことがバレれば計画はすべて水泡にきしてしまうからね」
それは暗にもし逆らうことがあれば、私を簡単に殺すという宣言だった。
当たり前だろう。私はあの方のように『選ばれた存在』でもなければ、ただの駒であることくらいは分かっている。
「わかったわ。いつまで潜伏していればよいかしら??」
「とりあえず1年程。その間の生活費用は一旦コレを使ってくれ」
差し出されたのはずっしりと重い金貨が入れられている袋。
それを見ながら一応まだ利用価値があり殺されずにすむという事実に安堵する。
「ありがとう。連絡手段はいつものもので構わないかしら??」
「ああ、もしそれを変える場合はまた連絡しよう」
そう言って僅かに顔をあげた時、ほのかに見えた男の顔にゾクりと背筋が冷えた。男の舌は二つにまるで蛇のように割れていた。使者がどのようなものか理解はしていたが実際にその姿をわずかながらにでも見てしまったのは初めてで、その未知なるものへの恐怖を必死に押し殺して私はなんとか笑顔を作った。
「わかったわ。では私はこの後すぐここを去る。また潜伏先が決まり次第連絡するわね」
「承知した」
男はそう答えるなりまるで煙のように消えていた。
(化け物。逆らえば間違いなく始末される。そうならないように私は彼等に従うほかない)
全ては、私が選んだ道だ。
しかし、冷えた殺風景な部屋にひとりでいると不意に泣きたい気持ちになる。
『大丈夫??』
何故か、あの人の声が聞こえた気がした。その資格などないことは分かっているのに。そして目を閉じた瞬間私の瞳から涙が零れ落ちていく。
「もう、私は戻れないのね」
戻ることはできない、止まることも。ならば進むしかない、私は震える体を自身で抱きしめながらこの場所を去る準備をはじめた。
私は、想定外の事態に震えていた。何故今更になって竜帝様は私の国の事件の調書など取り始めたのだろうか。所詮属国で起きた事件。
数多の属国を従えている帝国にとって些事に過ぎないはずだ。
(あの事件を、あまり掘り返されるとまずいのよ……、もしあのことがバレたら私は……)
「バビロン殿」
久しく聞いていなかった名前を呼ばれた。
以前、本名を隠匿するために使用していたあだ名。バビロンは古代都市を模した名ではない。私に相応しいある悪魔の名を模したものだ。
音もなく部屋の中に訪れた男は、黒いローブを纏って顔が見えない。しかし、ローブの下からわずかにのぞく黄金色の瞳に思わず背筋が寒くなる。間違いなく彼は使者だ。
「……その名で呼ぶということは……貴方は『ヴェリテ』を知るものね」
敢えて母国語でそう告げると、男はまるで金属の擦れるような人間らしくない声で笑う。
「そう、『ヴェリテ』を知るもの、使者だ。バビロン殿に今回は忠告をしにきた」
なんの忖度もなく言い放たれる言葉に背筋が冷たくなっていく。
「しばらくは、貴方は存在を隠す必要がある。帝国に貴方のことがバレれば計画はすべて水泡にきしてしまうからね」
それは暗にもし逆らうことがあれば、私を簡単に殺すという宣言だった。
当たり前だろう。私はあの方のように『選ばれた存在』でもなければ、ただの駒であることくらいは分かっている。
「わかったわ。いつまで潜伏していればよいかしら??」
「とりあえず1年程。その間の生活費用は一旦コレを使ってくれ」
差し出されたのはずっしりと重い金貨が入れられている袋。
それを見ながら一応まだ利用価値があり殺されずにすむという事実に安堵する。
「ありがとう。連絡手段はいつものもので構わないかしら??」
「ああ、もしそれを変える場合はまた連絡しよう」
そう言って僅かに顔をあげた時、ほのかに見えた男の顔にゾクりと背筋が冷えた。男の舌は二つにまるで蛇のように割れていた。使者がどのようなものか理解はしていたが実際にその姿をわずかながらにでも見てしまったのは初めてで、その未知なるものへの恐怖を必死に押し殺して私はなんとか笑顔を作った。
「わかったわ。では私はこの後すぐここを去る。また潜伏先が決まり次第連絡するわね」
「承知した」
男はそう答えるなりまるで煙のように消えていた。
(化け物。逆らえば間違いなく始末される。そうならないように私は彼等に従うほかない)
全ては、私が選んだ道だ。
しかし、冷えた殺風景な部屋にひとりでいると不意に泣きたい気持ちになる。
『大丈夫??』
何故か、あの人の声が聞こえた気がした。その資格などないことは分かっているのに。そして目を閉じた瞬間私の瞳から涙が零れ落ちていく。
「もう、私は戻れないのね」
戻ることはできない、止まることも。ならば進むしかない、私は震える体を自身で抱きしめながらこの場所を去る準備をはじめた。
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