世にも不幸なレミリア令嬢は失踪しました

第六章:集う運命

124.月の王子と側近と海の皇太子と不幸令嬢

『どうか聞こえてくれ……』

ルーファスは必死に願った。そうしてやっとのことでクレメントを見つける。現場は凄惨だった。黒い怨霊によりその場にいた多くの人命が失われていた。

その中でも魔力が強いクレメントと、生命の強さを持つ太陽の神の血筋であるカールは辛うじて立っていた。それでもまるで生命力そのものを吸い上げるような瘴気の中で次第に青ざめていくのが分かった。

『クレメント殿下、僕の声が聞こえるだろうか？？』

（ええ、聞こえます。ただ、貴方にも見えている通り、怨霊は強大で……私もカール殿下も立っているのがやっとの状態だ。それも長くはもたないだろう）

『こちらから、魔力を送ろう。そうして……』

その言葉にしばらくクレメントは思案したようだったがすぐにこう返した。

『やめた方が良いかと思います。今、ここに渦巻いている力はとても強い、ルーファス殿下、貴方のボロボロに傷付いた魂でこの状態で魔法を送るのは危険です、それに……』

クレメントは何かを研ぎ澄ますように一旦黙り込んだ。そしてしばらくしてそれは聞こえだした。

「ルーファス、俺のルーファス、どこにいる？？」

その声にルーファスの体が反射的に震えた。間違いない、それは彼のトラウマにもなっているトリスだった。

（……トリスはもう何百年も前に死んでいるはずだ、それなのになぜ？？）

ルーファスが疑問に思うのと同時に、クレメントは答える。

（クリストファーが彼の生まれ変わりです。ただ、その魂は歪んでいたのでクリストファーの中に居ながら分離して怨霊となってしまいました。それが今解き放たれて呪詛を放ち我々は足止めされている。ここに貴方の今の状態の魔法を放つのは逆効果です。彼は貴方を見つけてしまうかもしれない）

『見つける？？』

あまりに恐ろしい言葉だった。クレメントはさらに続ける。

（お分かりかと思いますが、霊体は場所移動が肉体があるよりはるかに楽なのです。今は貴方の気配が掴めないのでここにいますが、もしつかめたら彼の執念から考えて確実に貴方の元に行くでしょう。そこまでの危険を侵すのは得策ではありません）

『しかし、このままでは……』

クレメントはあくまでこちらを気遣ってくれているが、このままではまずいことはルーファスにもヨミにも分かっていた。

（……一応方法は考えております。怨霊は「死」のような存在です。故に真逆の「生命」に弱い。カール殿下のお力が使えれば解決するやもしれませんが……）

ただ、あまりにも強い怨念で、カールも身動きが今は取れていない。そんな時だった。

「あの。それについて、私がお力になれると思います」

今まで、黙っていたレミリアが名乗りを上げた。