世にも不幸なレミリア令嬢は失踪しました

ひよこ麺

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第三章:恋獄の国と悲しいおとぎ話

33.前世の物語と不幸令嬢(ルーファス視点)10

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※注意)何かするとかされるではありませんが同性愛的な表現がありますので苦手な方はご注意ください。



目を覚ました時、僕は見覚えのない部屋のベットの上にいた。緑を基調とした調度品に囲まれた豪奢な部屋は少なくとも上流階級の私室であるということが分かる。

(何故こんなところに?)

首を傾げている僕の目に映ったもの。それは僕にそっくりな少女の肖像画だった。

「……誰の絵だ?」

長くサラサラとした銀色の髪に紫の瞳の少女。一瞬母上かとも思ったが、母上の瞳の色は紫ではない。僕にそっくりのその少女はうっすらと微笑みかけている。

何か空寒いものを感じながら、部屋から出ようと立ち上がろうとしたが、体がまるで鉛ででもできているように重く、その場に崩れてしまう。

(どういうことだ?)

その場で固まっていると目の前の扉が開き、そこには……

「目を覚ましましたか

「……トリス王子」

見たくないと思っていた男がそこに立っていた。その顔を睨みつけれるが、何故か彼はとても嬉しそうに微笑んでいる。

「レミーナ姫を……」

「レミーナはもう姫ではありませんよ。レミーナ王子妃になった」

その言葉に目を見開く。意味が分からなかったからだ。しかしトリスはニコニコ薄気味悪い笑みを浮かべながらさらにつづけた。

「私と彼女は結婚した」

「嘘だ、嘘をつくな、彼女が結婚なんて……」

嘘だ、信じられるものか。彼女が何故僕を裏切りはずなどない。そう、これはこの男が嘘をついているはずだ。しかし終始トリスは笑顔のままだ。そして……

「あれから1年近くたっているのですよ。その間ルーファス様、だったことになっている。。レミーナを探して、どこかえ出向いていなくなったしまった、そう言われています。だから失踪から半年後にはレミーナとの婚約は白紙とされ、彼女は私に嫁いだ」

その言葉に体が震えた。嘘だ。そんなこと。しかしこの体の重さが、立ち上がることもできない体が長い時間眠っていたことを表していた。

この眠りの原因は魔法による反動だろう。強い魔法を使用する場合、大きな反動が体に出てしまう場合がある。今回距離を移動する魔法を咄嗟に使用した結果、その反動で眠ってしまった。問題はそれが海の国だったこと。結果どうやら僕はトリス側に捉えられてしまったようだ。

(なんたる失態だ、それにもしこのことが本当だとすれば……)

トリスはレミーナを手に入れるため邪魔な僕を監禁してなきものとしているということだろう。何故眠っている間に殺さなかったのかは疑問が残るが、薄々感じていたあることが頭に浮かぶ。

トリスはなぜか僕に対抗心があるようだった。レミーナをトリスも想っていたのだろう。

(きっとこの男は僕にこの話を聞かせて絶望させるつもりなのだろう)

しかし、絶望より先にレミーナに会いたいと思った。この男がそれを許すわけがないが、それでもなんとしてもレミーナに僕が生きていることを知らせなければ。

「ルーファス様。床になど座っていたら寒いでしょう。駄目だよ、歩けないのだから」

そう言うとトリスは近づいて、僕を抱き上げようとした。

「触るな!!」

予想外の行動にその手を弾く。

「貴殿は、僕を不幸にして嬉しいのだろう。大切なものを奪い、惨めな姿になった僕をあざ笑いたいのだろう?」

思わず叫んでいた。この男が憎いと心から思った。そんな僕を無表情な緑の目が見つめる。その目にうっすらと昏いものを感じた。

そして……

「先に俺を不幸にしたのは君だろうルーファス。君がいなければ……」

「貴殿とはほとんどふたりで話したことも会ったこともないはずだ、呼びつけにされる覚えもない」

「ははは。やはり君が悪い。君は俺を忘れて、俺のことなんか覚えていなかった。俺にこんな想いをさせておきながら」

そういうなりトリスはいきなり僕の首を絞めた。あまりのことに抵抗できなかった僕はそのまま床に頭をぶつけてしまい、また意識が遠のきそうになる。

「華奢で、繊細で、どう見ても少女のようなのに、少女でない。ああ、可哀そうなのにこんなに美しいなんて」

訳の分からないことを早口でしゃべるその姿は「月狂いルナティック」とは違うが十分に狂気的だった。ガンガンする頭に、息が出来なくなり死ぬのだと思った瞬間その手が離される。

その代わりに異常に優しい手つきで動けない僕を抱き上げるとベットに再び戻された。

「君は王子様じゃない。お姫様だよ。美しい月のお姫様……」

「何を言って……」

「ねぇ、知っているかい?月の国の女性のことをこの国では『ファム・ファタール』と呼ぶんだよ。意味は運命の魔性の女。一度手を出したら破滅をいざなう恐ろしい女だと……」

「僕の国を侮辱する気か?」

「でも。女だけじゃなかったよ。月の国は男でも魅了するんだ。美しい君のようにね。幼い日、君はお姫様の恰好をして俺を誘惑したんだ……」

その言葉の意味を理解した時、僕はある思い違いをしていた事実に気づいた。この男の目的は気に入らない僕からいとおしいレミーナを奪うことではなく、僕とレミーナの仲を引き裂いて、そして……。

「美しい俺だけのお姫様。これからはここで幸せに暮らしていこう。誰にも知られないこの部屋で……」

新月の夜のような光のない昏い瞳が僕を見つめていた。
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