上 下
22 / 143
第二章:海の国と呪われた血筋

19.アトラス王国と不幸令嬢

しおりを挟む
そして、おひめさまをうばわれたつきのおうじさまはかなしみのあまりつきのくにをとざしました

たいようのくにへはのろいはかけませんでしたが、そのかわりにつきのおうじさまはあるやくそくをしました
それはかのたいようのひめがまたたいようのくににうまれたときはかならずむかえにいくのでひきわたすようにというものでした

それをたいようのおうさまはうけいれました

そのご、うみのくにではのろわれたこどもがかならずおうけにうまれました
のろいをときたいとねがったうみのくにはつきのくににつかいをおくりますがすべておいかえされました

あきらめずにつかいをおくりつづけたあるひつきのくにからへんじがきました

のろいはたいようにしかとくことはできない

それがこたえでした。

うみのくにはそのことばをしんじ、たいようのくにとこんいんをくりかえしました。おんなのこならこしいれをすればのろいはかんたんにとけましたが、もんだいはおとこのこ。たいようのくにのおうけはほとんどおんなのこがうまれなかったからです。

だからうみのくにでのろいをうけたおとこのこはほぼれいがいなくくるしみぬいてしんでしまいました

それこそ、さいあいのたいようをうばわれて、こいしさでくるってしまったつきのおうじさまのふくしゅうだったのです


「陛下、私をサンソレイユ帝国へ行かせてください」
「だめだ。クリストファー、今の状態のお前を行かせる訳にはいかない」

アトラス王国の国王は、感情のない昏い瞳をしてここ数日懇願する息子の姿に胸を痛めていた。あの日、クリストファーが半狂乱になりながら、意識を失ったレミリアを連れてきた時は心臓が飛び出すかと思うほどの衝撃だった。

レミリアはアトラス王国にとってとても大切な存在だった。国王自身、彼女はサンソレイユ帝国との協力関係を確固たるものにするために必要な存在であり、息子であり呪いを受けているクリストファーとともにこの国の未来を支えてくれるはずだった。

しかし、きっと国王は自身の言葉のせいでこうなったということを悟ってもいた。

クリストファーはレミリアに完全に惚れ込んでいた。これは歴代の呪われた人間がみな「太陽の娘」を目の前にすると狂うことがわかっていたからだ。クリストファーははじめてレミリアに会うまではほとんど感情のない無表情な子供だったが、レミリアに出会ってからは少しずつ表情に変化が見られた。けれどそれが親から見てであり、臣下やその他からは笑わない王子として認識されたいたことも知っていた。

当然、レミリアにもその気持ちが伝わっていなかったのだが、国王から見れば露骨にクリストファーは時間さえあればレミリアに会いたがったり、実際会いにいってしまうので流石にある程度は彼が抱く想いは伝わっていると考えていた。

また、王宮でも彼女をなるべく丁重に扱ったし、ドレスや宝石はクリストファーがレミリアを自分の色に染めたくて何も言わなくても送っていることも理解していた。

ただ、なぜか彼女付の使用人はあまり長く勤めるものがいなかった。これについては後ほど調べたところどうやら王子の婚約者の座を狙う上流階級の令嬢の言いつけで、彼女に嫌がらせをするものが多々入り込み、それをレミリア自身が追い払ったり、裏でクリストファーが手を下したりしていだことが分かり、騒ぎとなるのだがそれは別の話しだ。

国王の目から見て、クリストファーの行動は少し目に余るものがあった。けっして何かをおろそかにしていはいないのだが、四六時中レミリアを監視しているその行動が行き過ぎだとある日諫めたのだ。

「婚約者と親しくしたいと考えるのはいいが、お前は少し度が過ぎている。もうすぐ結婚するのだ、少しだけレミリア公女にも自由にできる時間を与えてあげなさい」

何気ない言葉だった。しかし、国王は気づかなかった。これを口下手で表情の乏しいクリストファーが正しい意図でレミリアに伝えることが難しいということを。

結果、レミリアはクリストファーの足りない言葉で婚約を破棄されると勘違いし、自殺を図ってしまった。ただ、クリストファーが様子がおかしいレミリアをつけていたため彼女が毒を煽った時、咄嗟にクリストファーがその毒を吐かせ解毒剤を飲ませたため一命はとりとめたのだが、それっきり彼女が意識を取り戻すことがなかった。

意識不明の人間の体を保てるだけの知識も技能もアトラス王国にはない。そのため、サンソレイユ帝国に事態を伝えたところ、レミリアの祖父である皇帝が彼女の身柄を引き取り、現在サンソレイユ帝国で療養をしている。

サンソレイユ帝国は昔、太陽の国と呼ばれていた頃に輿入れした月の国の姫君が与えた3つの魔法の加護がある。

ひとつめは皇帝の血を引くものはみな黒髪に金色の目を持つこと、ふたつめは皇帝ならびに皇帝となるものは20歳以降年をとらなくなること。不死ではないが不老であり死ぬまでその外見である。そして最後のみっつめが今回レミリアを預けた理由である、太陽の皇帝には大変強い治癒魔法が使える。それは傷を治すことなどには特化していないが、体の生命力を保つことが出来るため意識不明のレミリアの体を保つことができるのだ。

しかし、クリストファーはレミリアと離れた日からおかしくなり始めた。まるで落ち着きがなく急に泣き叫んだりするようになってしまった。

そうして、事あるごとに国王のところにやってきてサンソレイユ帝国に行かせてくれだの、レミリアの看病がしたいだのと繰り返すのだ。クリストファーの気持ちは分からなくもないが、明らかに様子がおかしい息子をサンソレイユ帝国へ行かせるわけにはいかず監視をさせておとなしくさせているのが現状だ。

今もフラフラした足取りで自身の元を去る息子の後ろ姿を見つめながら、国王は心配でしかたなかった。しかし、国王はこの時クリストファーのレミリアへの狂気に気づくべきだったのだ。それが暴走すればどのような結果になるかも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

あなたの一番になれないことは分かっていました

りこりー
恋愛
公爵令嬢であるヘレナは、幼馴染であり従兄妹の王太子ランベルトにずっと恋心を抱いていた。 しかし、彼女は内気であるため、自分の気持ちを伝えることはできない。 自分が妹のような存在にしか思われていないことも分かっていた。 それでも、ヘレナはランベルトの傍に居られるだけで幸せだった。この時までは――。 ある日突然、ランベルトの婚約が決まった。 それと同時に、ヘレナは第二王子であるブルーノとの婚約が決まってしまう。 ヘレナの親友であるカタリーナはずっとブルーノのことが好きだった。 ※R15は一応保険です。 ※一部暴力的表現があります。

間違った方法で幸せになろうとする人の犠牲になるのはお断りします。

ひづき
恋愛
濡れ衣を着せられて婚約破棄されるという未来を見た公爵令嬢ユーリエ。 ───王子との婚約そのものを回避すれば婚約破棄など起こらない。 ───冤罪も継母も嫌なので家出しよう。 婚約を回避したのに、何故か家出した先で王子に懐かれました。 今度は異母妹の様子がおかしい? 助けてというなら助けましょう! ※2021年5月15日 完結 ※2021年5月16日  お気に入り100超えΣ(゚ロ゚;)  ありがとうございます! ※残酷な表現を含みます、ご注意ください

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

美形軍人に連行された少女の末路 ~辿り着く先は見知らぬ夫の元か、投獄か!?~

当麻月菜
恋愛
『アルベルティナ・クラース。悪いが何も聞かずに、俺たちに付いてきてもらおうか』  パン屋で店主を泣かせるほど値切った帰り道、アルベルティナことベルは、突然軍人に囲まれてしまった。  そして訳がわからないまま、鉄格子付きの馬車に押し込まれどこかに連行されてしまった。  ベルを連行した責任者は美形軍人のレンブラント・エイケン。  人攫い同然でベルを連行した彼は人相が悪くて、口が悪くて、いささか乱暴だった。  けれど、どうやらそうしたのは事情があるようで。  そして向かう先は牢屋ではなく、とある人の元らしくて。  過酷な境遇で性格が歪み切ってしまった毒舌少女(ベル)と、それに翻弄されながらも毒舌少女を溺愛する他称ロリコン軍人(レン)がいつしか恋に発展する……かもしれない物語です。 ※他のサイトでも重複投稿しています。 ※2020.09.07から投稿を始めていた作品を加筆修正の為取り下げ、再投稿しています。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

皇太子に愛されない正妃

天災
恋愛
 皇太子に愛されない正妃……

処理中です...