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第二章:海の国と呪われた血筋
19.アトラス王国と不幸令嬢
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そして、おひめさまをうばわれたつきのおうじさまはかなしみのあまりつきのくにをとざしました
たいようのくにへはのろいはかけませんでしたが、そのかわりにつきのおうじさまはあるやくそくをしました
それはかのたいようのひめがまたたいようのくににうまれたときはかならずむかえにいくのでひきわたすようにというものでした
それをたいようのおうさまはうけいれました
そのご、うみのくにではのろわれたこどもがかならずおうけにうまれました
のろいをときたいとねがったうみのくにはつきのくににつかいをおくりますがすべておいかえされました
あきらめずにつかいをおくりつづけたあるひつきのくにからへんじがきました
のろいはたいようにしかとくことはできない
それがこたえでした。
うみのくにはそのことばをしんじ、たいようのくにとこんいんをくりかえしました。おんなのこならこしいれをすればのろいはかんたんにとけましたが、もんだいはおとこのこ。たいようのくにのおうけはほとんどおんなのこがうまれなかったからです。
だからうみのくにでのろいをうけたおとこのこはほぼれいがいなくくるしみぬいてしんでしまいました
それこそ、さいあいのたいようをうばわれて、こいしさでくるってしまったつきのおうじさまのふくしゅうだったのです
「陛下、私をサンソレイユ帝国へ行かせてください」
「だめだ。クリストファー、今の状態のお前を行かせる訳にはいかない」
アトラス王国の国王は、感情のない昏い瞳をしてここ数日懇願する息子の姿に胸を痛めていた。あの日、クリストファーが半狂乱になりながら、意識を失ったレミリアを連れてきた時は心臓が飛び出すかと思うほどの衝撃だった。
レミリアはアトラス王国にとってとても大切な存在だった。国王自身、彼女はサンソレイユ帝国との協力関係を確固たるものにするために必要な存在であり、息子であり呪いを受けているクリストファーとともにこの国の未来を支えてくれるはずだった。
しかし、きっと国王は自身の言葉のせいでこうなったということを悟ってもいた。
クリストファーはレミリアに完全に惚れ込んでいた。これは歴代の呪われた人間がみな「太陽の娘」を目の前にすると狂うことがわかっていたからだ。クリストファーははじめてレミリアに会うまではほとんど感情のない無表情な子供だったが、レミリアに出会ってからは少しずつ表情に変化が見られた。けれどそれが親から見てであり、臣下やその他からは笑わない王子として認識されたいたことも知っていた。
当然、レミリアにもその気持ちが伝わっていなかったのだが、国王から見れば露骨にクリストファーは時間さえあればレミリアに会いたがったり、実際会いにいってしまうので流石にある程度は彼が抱く想いは伝わっていると考えていた。
また、王宮でも彼女をなるべく丁重に扱ったし、ドレスや宝石はクリストファーがレミリアを自分の色に染めたくて何も言わなくても送っていることも理解していた。
ただ、なぜか彼女付の使用人はあまり長く勤めるものがいなかった。これについては後ほど調べたところどうやら王子の婚約者の座を狙う上流階級の令嬢の言いつけで、彼女に嫌がらせをするものが多々入り込み、それをレミリア自身が追い払ったり、裏でクリストファーが手を下したりしていだことが分かり、騒ぎとなるのだがそれは別の話しだ。
国王の目から見て、クリストファーの行動は少し目に余るものがあった。けっして何かをおろそかにしていはいないのだが、四六時中レミリアを監視しているその行動が行き過ぎだとある日諫めたのだ。
「婚約者と親しくしたいと考えるのはいいが、お前は少し度が過ぎている。もうすぐ結婚するのだ、少しだけレミリア公女にも自由にできる時間を与えてあげなさい」
何気ない言葉だった。しかし、国王は気づかなかった。これを口下手で表情の乏しいクリストファーが正しい意図でレミリアに伝えることが難しいということを。
結果、レミリアはクリストファーの足りない言葉で婚約を破棄されると勘違いし、自殺を図ってしまった。ただ、クリストファーが様子がおかしいレミリアをつけていたため彼女が毒を煽った時、咄嗟にクリストファーがその毒を吐かせ解毒剤を飲ませたため一命はとりとめたのだが、それっきり彼女が意識を取り戻すことがなかった。
意識不明の人間の体を保てるだけの知識も技能もアトラス王国にはない。そのため、サンソレイユ帝国に事態を伝えたところ、レミリアの祖父である皇帝が彼女の身柄を引き取り、現在サンソレイユ帝国で療養をしている。
サンソレイユ帝国は昔、太陽の国と呼ばれていた頃に輿入れした月の国の姫君が与えた3つの魔法の加護がある。
ひとつめは皇帝の血を引くものはみな黒髪に金色の目を持つこと、ふたつめは皇帝ならびに皇帝となるものは20歳以降年をとらなくなること。不死ではないが不老であり死ぬまでその外見である。そして最後のみっつめが今回レミリアを預けた理由である、太陽の皇帝には大変強い治癒魔法が使える。それは傷を治すことなどには特化していないが、体の生命力を保つことが出来るため意識不明のレミリアの体を保つことができるのだ。
しかし、クリストファーはレミリアと離れた日からおかしくなり始めた。まるで落ち着きがなく急に泣き叫んだりするようになってしまった。
そうして、事あるごとに国王のところにやってきてサンソレイユ帝国に行かせてくれだの、レミリアの看病がしたいだのと繰り返すのだ。クリストファーの気持ちは分からなくもないが、明らかに様子がおかしい息子をサンソレイユ帝国へ行かせるわけにはいかず監視をさせておとなしくさせているのが現状だ。
今もフラフラした足取りで自身の元を去る息子の後ろ姿を見つめながら、国王は心配でしかたなかった。しかし、国王はこの時クリストファーのレミリアへの狂気に気づくべきだったのだ。それが暴走すればどのような結果になるかも。
たいようのくにへはのろいはかけませんでしたが、そのかわりにつきのおうじさまはあるやくそくをしました
それはかのたいようのひめがまたたいようのくににうまれたときはかならずむかえにいくのでひきわたすようにというものでした
それをたいようのおうさまはうけいれました
そのご、うみのくにではのろわれたこどもがかならずおうけにうまれました
のろいをときたいとねがったうみのくにはつきのくににつかいをおくりますがすべておいかえされました
あきらめずにつかいをおくりつづけたあるひつきのくにからへんじがきました
のろいはたいようにしかとくことはできない
それがこたえでした。
うみのくにはそのことばをしんじ、たいようのくにとこんいんをくりかえしました。おんなのこならこしいれをすればのろいはかんたんにとけましたが、もんだいはおとこのこ。たいようのくにのおうけはほとんどおんなのこがうまれなかったからです。
だからうみのくにでのろいをうけたおとこのこはほぼれいがいなくくるしみぬいてしんでしまいました
それこそ、さいあいのたいようをうばわれて、こいしさでくるってしまったつきのおうじさまのふくしゅうだったのです
「陛下、私をサンソレイユ帝国へ行かせてください」
「だめだ。クリストファー、今の状態のお前を行かせる訳にはいかない」
アトラス王国の国王は、感情のない昏い瞳をしてここ数日懇願する息子の姿に胸を痛めていた。あの日、クリストファーが半狂乱になりながら、意識を失ったレミリアを連れてきた時は心臓が飛び出すかと思うほどの衝撃だった。
レミリアはアトラス王国にとってとても大切な存在だった。国王自身、彼女はサンソレイユ帝国との協力関係を確固たるものにするために必要な存在であり、息子であり呪いを受けているクリストファーとともにこの国の未来を支えてくれるはずだった。
しかし、きっと国王は自身の言葉のせいでこうなったということを悟ってもいた。
クリストファーはレミリアに完全に惚れ込んでいた。これは歴代の呪われた人間がみな「太陽の娘」を目の前にすると狂うことがわかっていたからだ。クリストファーははじめてレミリアに会うまではほとんど感情のない無表情な子供だったが、レミリアに出会ってからは少しずつ表情に変化が見られた。けれどそれが親から見てであり、臣下やその他からは笑わない王子として認識されたいたことも知っていた。
当然、レミリアにもその気持ちが伝わっていなかったのだが、国王から見れば露骨にクリストファーは時間さえあればレミリアに会いたがったり、実際会いにいってしまうので流石にある程度は彼が抱く想いは伝わっていると考えていた。
また、王宮でも彼女をなるべく丁重に扱ったし、ドレスや宝石はクリストファーがレミリアを自分の色に染めたくて何も言わなくても送っていることも理解していた。
ただ、なぜか彼女付の使用人はあまり長く勤めるものがいなかった。これについては後ほど調べたところどうやら王子の婚約者の座を狙う上流階級の令嬢の言いつけで、彼女に嫌がらせをするものが多々入り込み、それをレミリア自身が追い払ったり、裏でクリストファーが手を下したりしていだことが分かり、騒ぎとなるのだがそれは別の話しだ。
国王の目から見て、クリストファーの行動は少し目に余るものがあった。けっして何かをおろそかにしていはいないのだが、四六時中レミリアを監視しているその行動が行き過ぎだとある日諫めたのだ。
「婚約者と親しくしたいと考えるのはいいが、お前は少し度が過ぎている。もうすぐ結婚するのだ、少しだけレミリア公女にも自由にできる時間を与えてあげなさい」
何気ない言葉だった。しかし、国王は気づかなかった。これを口下手で表情の乏しいクリストファーが正しい意図でレミリアに伝えることが難しいということを。
結果、レミリアはクリストファーの足りない言葉で婚約を破棄されると勘違いし、自殺を図ってしまった。ただ、クリストファーが様子がおかしいレミリアをつけていたため彼女が毒を煽った時、咄嗟にクリストファーがその毒を吐かせ解毒剤を飲ませたため一命はとりとめたのだが、それっきり彼女が意識を取り戻すことがなかった。
意識不明の人間の体を保てるだけの知識も技能もアトラス王国にはない。そのため、サンソレイユ帝国に事態を伝えたところ、レミリアの祖父である皇帝が彼女の身柄を引き取り、現在サンソレイユ帝国で療養をしている。
サンソレイユ帝国は昔、太陽の国と呼ばれていた頃に輿入れした月の国の姫君が与えた3つの魔法の加護がある。
ひとつめは皇帝の血を引くものはみな黒髪に金色の目を持つこと、ふたつめは皇帝ならびに皇帝となるものは20歳以降年をとらなくなること。不死ではないが不老であり死ぬまでその外見である。そして最後のみっつめが今回レミリアを預けた理由である、太陽の皇帝には大変強い治癒魔法が使える。それは傷を治すことなどには特化していないが、体の生命力を保つことが出来るため意識不明のレミリアの体を保つことができるのだ。
しかし、クリストファーはレミリアと離れた日からおかしくなり始めた。まるで落ち着きがなく急に泣き叫んだりするようになってしまった。
そうして、事あるごとに国王のところにやってきてサンソレイユ帝国に行かせてくれだの、レミリアの看病がしたいだのと繰り返すのだ。クリストファーの気持ちは分からなくもないが、明らかに様子がおかしい息子をサンソレイユ帝国へ行かせるわけにはいかず監視をさせておとなしくさせているのが現状だ。
今もフラフラした足取りで自身の元を去る息子の後ろ姿を見つめながら、国王は心配でしかたなかった。しかし、国王はこの時クリストファーのレミリアへの狂気に気づくべきだったのだ。それが暴走すればどのような結果になるかも。
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