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56.永遠にそれは変らないのか?(レイズ(兄上)視点)

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ルークのところへ向かうために乗った馬車の中で、叔父上とふたりきりになる。それ自体とても珍しいことだった。

ルークが生まれる前には、もう少し距離感が近かった気もするが、お互いルークが誕生してからは、疎遠がちな関係になっている。

正確には叔父上が私を避けることはないけれど、素直にルークへの好意を表現し続けている叔父上に対してのうらやましさと、また、自分も甥なのに対応の差がなぜか寂しいという矛盾した気持ちを抱いて、あまり近づかなかったというのが正しいかもしれない。

向かい合わせに座っていたが、お互い無言のままだ。けれど別に気まずいというものではない。ルークがいればふたりの間に入って話してくれるが、私と叔父上では話す話題もない。

そういう微妙に同族的な部分があるのも疎遠になった原因かもしれない。

「レイズ」

ぼんやりと叔父上との関係について考えていた時、突然名前を呼ばれた。

「叔父上、何か?」

「君とふたりきりになるのは本当に久しぶりだな。王太子になり真面目なレイズはとても大変だろう」

「……やりがいがありますから」

他愛ない会話。まるで思春期の子供に何を話せば良いか分からない、口下手な親みたいだ。しかも振ってきた会話もすぐ終わるタイプだった。

ルークが居ればふたりの間を取り持ってくれるだろうが今は居ない。ルークが居ない。

(大切なものが足りない)

その不安感を思い出して、気持ちが落ち込む。暗い顔をしていたからかもしれない。叔父上が再び口火をきる。

「必ず、ルークは救い出せる。それに今もルークは無事だから安心しなさい」

「なぜ、そんなことが言えるのですか?」

思わず声を荒げていた。ルークが無事でいて欲しいがそれでも、それが分からない状況に苛立っていたからだ。しかし、叔父上はまるで落ち着かせるように優しく告げる。

「ルークには今も、防衛魔法と位置特定魔法を適宜かけている。だからもし異常があればすぐにわかる」

その言葉にこの人をずっと規格外だとは思っていたが、魔法が使用できない森でも魔法をかけられるなど、最早、それは神の領域か何かではないだろうか。

そんな私の気持ちを感じているかいないか分からないが、叔父上は幼子でもあやすように、

「だから、そんなに不安になることはない」

と微笑む。その余裕に満ちている姿が、やはりとても気に入らない。私はプイっと視線をそらした。しかし、それと同時に叔父上が居るならばやはり問題ないという安心感も同時に湧くのがさらに悔しい気持ちになる。

そんな私を見て、叔父上が耐え切れないように吹き出したので、尚更イライラする。

「何がおかしいのですか?」

「いや、昔からレイズは全く僕に懐いてくれないなと思ってね」

「はっ?叔父上はルークにしか興味がないではありませんか」

そう答えると叔父上はきょとんとしたように顔をする。なんだろう、この答えはまるで僕が駄々っ子みたいだ恥ずかしい。気まずくなり視線を逸らせば、叔父上はその空気を全く読まないで、

「確かに、心から愛しているのはルークだけだが、レイズのことは家族として昔から大切に思っているよ。特に君はずっと不憫な目に遭うことがことが多かったからね」

などと言う。

「……何をいまさら……」

「レイズ、君は君のままで十分優れていて素晴らしい。だから、僕は君を信じている」

真っすぐ曇りのない眼差しだった。それがとても居心地が悪く、私は目を再び逸らした。その瞳が私の胸の裡まで全てを見透かしているように思えたからだ。

(呪いでルークを手に入れても結局は、私が欲しいルークは手に入らない、知っている、知っているでも……)

そう考えた時、何故か屈託のない笑顔のルークが浮かんだ。

「兄上」

と呼ばれると嬉しかった。ルークが私に話しかけて頼ってくれるだけで嬉しかった。きっと私はルークをただ愛していた。それなのに……

(どこで歪んだのだろう、どこで私はこんなに壊れてしまったのか……。)

いつかは分からないが、ルークが叔父上をおじたんと呼んでいたのを聞いた時、私は嫉妬したのは覚えている。自分のことは兄上とした呼ばないルークが全力で甘えている叔父上。

(私だってルークを甘やかせる、誰よりも一番に……)

でも、ルークは私のことは兄としか見ていない。こんなに縛り続けられているのに……。そして、ルークが断罪されて、私の呪いはとけた。こうしてルークからこの呪わしい愛から解放されるはずだった。それなのに今も……。

窓から見える日が傾いて真っ赤な夕日に変わる。

(ああ、そうだ、こんな夕日の日に私はルークに誓った「永遠にそれは変らない」とけれど、もしかしたら……私はルークにこの愛が変わらないと告げた。けれどきっと私の愛こそが変質していったのかもしれない。ルークはずっと……)

この答えを探すためにも、ルークにもう一度とにかく会いたい、会いたくて仕方なかった。
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