【第1部終了】断罪されて廃嫡された元王子に転生した僕は救国の英雄の叔父に監禁されえげつない目にあうようです

ひよこ麺

文字の大きさ
上 下
34 / 126

31.不名誉な称号が増え続けるという無情 ※

しおりを挟む
「……オレは凌空くんが羨ましい。やりたいように生きて、ありのままの姿で菫にも晴陽ちゃんにも愛されて。……オレには何もない。将来の夢もないし、好きな女の子もいない。きっとこの先ずっと、菫を失った悲しみと臓器移植に反対しなかった後悔だけを抱えたまま、無意味な日々を生きていく。……そう考えると堪えられなくなってくるんだ」

 自虐的に心情を吐露する蓮がいたたまれなくて、晴陽は拳を握り締めた。

 悩み、苦しんでいる蓮に手を差し伸べてあげたい。何か力になれることがあれば、助けになってあげたい。

 だけど凌空という彼氏がいながら中途半端に手を貸すような行為は、凌空にも蓮にも無礼になる。

 どうすればいいのだろう。歯噛みする晴陽の横で、凌空は大きな溜息を吐いた。

「俺がやりたいように生きているって決めつけんなよ。お前は一体、俺の何を知ってそんなことを言ってんだよ。お前の行動こそ自分勝手で周りに迷惑をかけまくっているって自覚はないのか?」

 容赦のない物言いも凌空の魅力の一つだが、今の蓮の立場になれば酷だろう。

 もうこれ以上蓮を追い詰めるのはやめてあげてほしいと晴陽が間に入ろうとしたとき、

「とにかく、晴陽は渡せない。だから俺が、蓮さんと友達になるよ」

 凌空の口からは、あまりにも予想していなかった提案が発せられた。

 晴陽と蓮は同じような、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているはずだ。

「……凌空くん、それってどういう……?」

 戸惑う蓮に対して、凌空は淡々と続ける。

「晴陽も蓮さんもそして菫も、俺が三人まとめて大事にするって言っている。俺が晴陽と一緒にいる限り菫のことを忘れることは絶対にないし、俺と蓮さんが友達になれば、晴陽を介さなくても気軽に連絡を取り合ったり、遊んだりできる。悪くない提案だと思うけど」

 話が飛躍しすぎているので困惑するが、凌空の意図はなんとなくわかる。

 伝わりにくい凌空の優しさに胸が温かくなり、彼女として誇らしい気持ちになる。

「……どうして、オレの嫉妬の話が凌空くんと友達になることに繋がんの? 理解できないのはオレだけ?」

 蓮に助けを求められた晴陽は、優しく微笑んだ。

「わたしは蓮さんの嫉妬に向き合ってあげることも、寂しさを紛らわすために付き合ってあげることもできません。だけど凌空先輩なら、それができるってことですよ」

 晴陽の説明を聞いて、蓮は唖然としながら再び凌空の方を見た。

 疑念を含んだ視線を向けられても、凌空は不機嫌な様子を見せることもなく、ふっと表情を緩めた。

「……俺は今まで、愛なんて信じられなかった。好きだの愛しているだのどれだけ口にしていても人は簡単に浮気するって、心を閉ざしていた。だけど……」

 目が合った凌空は、少しだけ照れくさそうな表情を浮かべていた。

「晴陽に愛されたことで……そして俺が晴陽を愛したことで、人を信じられるようになった。肩の力が抜けて、生きるのが楽になった。俺は蓮さんにも、今の俺と同じように自分を肯定できるようになってほしいって、思うから」

 凌空に望んでいた「自分を肯定してほしい」という、晴陽の願い。

 それはいつの間にか叶っていたようだ。こんなに嬉しいことはない。

「晴陽、ごめん。晴陽には愛の証明をしろって喚いたくせに、いざ自分がやるとなったら気持ちの証明ってとても困難なんだって知った」

「いえ……わたしも結局は何一つ証明できなかったので、凌空先輩に『ほれ見ろ』だなんて口が裂けても言えないですよ」

 そう、晴陽は自分の力では証明を成し得なかった。

 だけど凌空なら、あらゆる理屈を無視してでも強引にやり遂げてしまうのではないかと期待してしまうのは、惚れた相手への贔屓目だろうか。

「晴陽は過去のことを話してくれたり絵を描いてくれたりして、精一杯の努力をしてくれた。……だけど、蓮さんのことをほとんど何も知らない俺は、それができない」

 そう言って蓮に近づいていった凌空は、そっと右手を差し出した。

「思い出を語って説得することも、あなたの心を動かすものを差し出して情に訴えることも、俺にはできない。俺はただ、晴陽がずっと俺にし続けてくれたように、目を見て強く伝えることしかできない。……蓮さん、頼む。俺を信じてくれないか?」

 想像以上に単純で、予想よりはるかに力業。そんな凌空のことが改めて大好きだなと、晴陽は再確認する。

 だが今大事なのは晴陽の心じゃない。蓮の気持ちだ。

 凌空の一風変わった愛情に、蓮は応えてくれるだろうか。晴陽は緊張しながら、ふたりの様子を見守っていた。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...