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06.食事とそういう行為を結びつけるのはどうかと思います

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この絶望的な世界に来て唯一楽しいことといえば、そう食事です。しかしすごく気になることがある。

「あの、マクスおじたん。なんで僕の食事は大半がこう棒状のものなのですか?」

一応王太子だった僕は当然この世界の色々高級な料理を食べたことがある。この国は元の世界でいうところのフランスに近いのか宮廷はコース料理が主体であったが、学生時代のブュッフェスタイルでの食事も別に棒状のもの中心ではなかった。

しかし、ドキッ危険だらけの監禁生活になってからというもの、僕の食事はなんだか棒状のもの、具体的に肉を串に刺したつくねのようなものや、バナナっぽいフルーツを串に刺したデザート、チョコバナナみたいなヤツとか、色々とりあえず棒状のメニューが多い気がしている。

「それは、ルークが一生懸命長くて太い棒状のものを咥えたり、可愛いピンク色の舌を出して舐めている姿を見ているのが幸せだからだよ」

「長くて太い……」

ふっとついこの間遭遇した、叔父様の下半身に生息している恐ろしいケダモノのことを思い出し思わず震えた。

(そういえばとっても長くて太かった……)

「ルーク。そんなに見つめられると流石に照れてしまうよ」

無意識に叔父様の下半身を凝視してしまうという大失態を犯してしまった。これは地雷原を全裸で駆けていくくらいの大失敗だ。

しかし、それに対してギラつく獣ではなくまるで無垢な少年のように恥ずかしがっている叔父様はちょっと可愛い。

いや、男相手に可愛いはないよなと思ったけど、今の僕は19歳だけど都内在住の時は35歳で、確か叔父様も今35歳。もっと正確にいうと僕の精神年齢は35+19歳な訳で……やめよう、これはすごく悲しいことになる。

大体悔しいけど美しい麗人で英雄である叔父様はこの世界の強制力とやらで25歳くらいで止まっている気すらする外観をしている。

(いいな。主人公補正、僕も欲しかった)

主人公補正と言えば一応僕も主人公だ。なんらかの恩恵を受けたいところだが、「ヤンデレ職人」とかいうすごい不名誉な力しか持っていなかったはずだ。

(でもそういう割にヤンデレなの叔父様だけだよね。そこは神に感謝しかない)

「ルーク、呼び方は叔父様ではなくマクスおじたんだ。それにルークを狙っている輩は君が思うより沢山いる」

「えっ、マクスおじたん。その中に可愛い女の子とか女の人とか熟女とか老女は含まれますか??」

とりあえず女性なら今僕はなんでもいける。全ての女性を愛せるオールマイティたらし王に僕はなる。

「全員男だな」

さようなら、僕の平穏。さようなら僕の夢。そして、どうあがいても絶望。

「いやいや、おかしくないですか?ルー……僕って女たらしですよね?」

「わがままな王子様は英雄様の虜」の設定ではルークはとにかく無類の女好きで、女とあらば口説きまくり、遊びまくり結果、男爵令嬢を身ごもらせたから、その男爵令嬢と婚約者を断罪してざまぁされるクソ男のはずなんだよな。どう考えても女の敵であり、男からも好かれる要素は0に等しいはずだ。

(あの男爵令嬢のマリアンヌ元気にしてるかな……僕の子供どうしてるかな?)

「マリアンヌ……あの忌々しい娘は今は地下牢にいると聞いているな。それにあの女は妊娠なんてしていなかった。可愛いルークをだました邪悪な魔女に過ぎないから今すぐ記憶からキレイキレイしてしまおうね」

「ええええええええええええええええええ。嘘、嘘だ」

僕の中のルークの記憶が叫ぶ。最終的に離れ離れにされたがお互いを愛し合っていると思っていた女の子に嘘つかれて結婚迫られてたの?まぁそれでもルークは罪もない婚約者を裁いたクソ野郎だから天罰をくらうべき……あ、この状況がそれか。

「可哀そうに。ルーク、お前を傷つける全ては僕が取り除いてあげるからね」

そう言って、叔父様の逞しい腕に抱きしめられる。さらにそのまま膝の上にのせられた。首の後ろからかかる熱い吐息に背筋がゾクゾクする。耳元は弱いので狙われるとまずい。

しかし、そんな気持ちを知ってか知らずか、叔父様は甘く低音のベルベットボイスで耳元に囁く。

「しかし、ルークは本当に自分の魅力に気付いていないようだね。その美しい黒髪とまるで極上のルビーのような美しい赤い瞳。薔薇のような唇が動くたびにどれだけの男が君に魅了されてきたことか……君は生まれながらの財宝に等しい」

BL小説の強制力が怖い。普通そういう容姿の同性を見ても「イケメンシスベシ!!」とか「顔面挿げ替えてぇな」とかくらいしか僕は思わない、あくまで僕基準なので異論は認めます。

しかし、叔父様が超チートという主人公スキル持ちのように僕は超チート(ただし男のアレにダイレクトアタック)というBL小説でしかお目見えしないいやなスキル持ちなのだと突きつけられている。

「まさか。それはマクスおじたんがそう思っていただけで……」

「ルークの御付きだった護衛騎士は、お前に会いたくってこの屋敷まで追ってきて今はこの屋敷で護衛をしている。王宮の庭師のガタイの良い寡黙な男はルークへ捧げるために今も薔薇を毎日丹精込めて育てて手紙と共にこの館へ毎日送ってきている。側近だった公爵令息はお前を失った悲しみから修道士となり生涯の純潔と純愛をお前に捧げると言っていた。さらにお前の兄の……」

「もういいです!!お腹いっぱいです!!」

(おかしい、おかしいだろう。えっ、軒並み男キャラ制覇してるだろう。これが強制力……)

「それだけ、お前をみんな狙っていた。彼らを排除して可愛いルークが穢されないようにするのは本当に大変だったのだよ」

「ありがとうございます……」

「お礼はいらない。僕が好きでやってきたことだから。可愛いルークを守ることができるのも甘やかすことができるのも……愛してあげることができるのも全て僕だけだから……」

そう言って首筋に軽いキスが落ちる。何度も何度も。

「くすぐったいです……」

「顔を赤くして照れているルークは天使のようだね。ああ、その可愛い顔をもっと僕に見せて」

真正面に方向を変えられた僕の唇を優しくふさがれる。最初はノックをするように優しく、そしてそれに応じるように開いた唇を割くように舌が入り込む。

僅かな呼吸すらも飲み込むような口づけに頭がぼんやりとしてしびれていく。

(これ、まずいな……)

生理的な涙が頬を一粒こぼれる。うっかりキスはきらいじゃないと思い始め始めている自分に気づいてしまう。
唇が一度離れたが、何故か僕は叔父のワイシャツの襟を掴み。

「……もっと……っ」

と催促をした。その仕草にとても柔らかく微笑んで、また優しくキスを落とされる。

(絆されちゃだめだ……でも……)

逃げさえしなければ叔父様は優しく、そして止めれば一応いまのところ酷いこともあまりしない。このまま暮らしても良いのではないかと思い始めている自分を必死に押さえつける。

その時の僕はまだ完璧に思い出していなかった。この小説がただの叔父様と僕のラブラブ監禁溺愛小説ではなく、とんでもないヤンデレの恋敵がいることやその恋敵が平穏を乱しにくることも……。
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