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01.異世界に召喚された勇者と絶望

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11/2 内容がほぼ内容があたらしくなっていますので、こちらからお読みください。
※プロローグや元のお話にしおりやハート頂いていたのに申し訳ございません。



いつも同じ夢を見る。

「ねむれ ねむれ かわいいわが子 一夜 いねて さめてみよ くれないのバラの花 開くぞよまくらべに」

赤子を腕に抱きながら、何度も同じ歌詞を繰り返す。

腕の中の赤子はプラチナブロンドの髪にルビーのような美しい瞳をした本当にかわいらしく美しい子で、自分との関係は分からないがたまらなくいとおしくて何があっても守りたいという気持ちが沸き上がる。

そうしてあやしているといつもは安心したように赤子は寝てしまうのだが、今日の夢は違った。

「おぎゃ!!おぎゃああああ!!」

どんなにあやしてもあやしても赤子は泣いたままで、少し困りながら声をかける。

「よしよし、良い子だね。どうした??おなかがすいたのかな??それともおむつを換える必要があるのかな??」

そういいながら一度、赤子をベッドに置こうとしたその時、赤子が僕の服を強く握りしめた。

不安そうな赤子に優しく話しかける。

「大丈夫。いつだってそばにいる」

そういって、赤子の髪を優しく撫でる。安心させるように何度も何度も。すると安心したように赤子が泣き止んでうつらうつらと舟をこぎはじめた。

その様子をほほえましく見つめていると、小さな手が僕の手を必死にはつかんでいるのが分かった。

その愛らしい仕草に思わず目を細めていると、ささやくような小さな声でしかしはっきりとした言葉が聞こえた。

「……約束だぞ。⚪︎⚪︎⚪︎、私をにしないでくれ」

今までにない展開に驚きながら目が覚めると、そこはお世辞にも綺麗とは言えない粗末な部屋だった。

そうして今の自身の状況をいやでも思い出す羽目になってしまった。

僕、白鳥レイジは実は勇者らしくこの異世界に召喚されてしまった。

しかし、呼び出したのはいいが伝承と違いなんの力もないことがわかると扱いが途端にひどくなりいつの間にか城の階段下にある物置みたいな場所に軟禁されているような状態になってしまっていた。

「……はぁ」

思わずため息をついて、なんとか固いベッドから体を起こして枕元にあるメガネをかけた。

枕というには粗末な布しかないせいで、背中がバキバキで痛くてつらいが、我慢して傍らに置かれている水盆を手繰り寄せた。

「……」

しかし、その中の水を見て思わず眉間にしわが寄る。

薄汚れたそれは泥水でこれで顔を洗う位なら顔を洗わないほうが清潔を保てるだろう代物だったからだ。

仕方なく、日々の入ったギリギリ姿が見える程度の曇った鏡で最低限の身だしなみを整えようと覗きこむと、黒い襟足が隠れる程度の癖毛と分厚いメガネの自身の顔が見えた。

基本的には日本人顔なのだが、ハーフの母親から受け継いだ瞳の色だけがモスグリーンでよくモルダバイトのようだと過保護な両親からは褒められていたのを思い出した。

「本当に、ここの連中は僕を無理矢理呼び出したくせに最悪な扱いをする。これがラノベならこの後、僕にチートが目覚めてざまぁ展開になるだろうけど……」

しかし、そんな都合よく力は目覚めないことはこの異世界に来て数ヶ月経てば嫌なほどわかってしまった。

現代社会で両親から愛されて大切にされてきた僕には辛すぎる世界だ。

「帰りたい……」

日本では白鳥財閥の跡取り息子として大切にされてきた。

よくお金持ちにありがちな冷めた家庭ではない我が家はとても円満で幸せな家庭だった。

背が高くダンディな父親と、ヨーロッパ系と日本のハーフで美人な母親も大好きで自慢の両親だった。

なにひとつ不自由もなく、この先も幸せが約束されていたはずの人生はいまや消え失せて誰ひとり知る人もいない、頼るべき人もいない世界で冷遇されているというのはあまりにもクルものがある。

幸せを知っているからこそその喪失が大きすぎたのだ。

しかも、元の世界に戻るためには魔王を倒す必要があるのだと腹黒いのがわかる糸目の神官に言われた時は絶望した。

「レイジ、居るか??」

まるで友人のような軽さでノックもなしに扉を開けたのは赤髪に灰色の瞳をした背の高い筋肉質の男だった。

ヤツはこの国では最強の戦士であるアベルだった。

僕が優れた勇者ならパーティーを組む相手だったらしいが、クソ雑魚だったためにパーティーは組んでいない。

しかし、なぜか毎日来ては世話を焼いてくる。

本来なら感謝すべきだがヤツにはひとつ問題があった。

「ああ、顔色最悪だな、大丈夫か??こんなところにいたら魔王を退治する前に身体を壊すぞ」

「……居たくて居るんじゃない。無能勇者にはここで十分だと王子に追いやられたんだ」

今の部屋には3日前から飛ばされた。その前はまだ人の部屋だったが今は埃だらけの酷い場所にいる。

「なんだって!!殿下がそんなことをしたのか??」

「……そうだ」

「大体能力なくてもレイジはこんなに……」

悲しいがそれが現実だった。その言葉に生温かい息遣いをしながらアベルの手が僕の頬に触れながら眼鏡に触れようとした。

その異常な様子に反射的にその手を払う。

「やめろ!!眼鏡がないとよく見えないんだ」

咄嗟に身を翻した。なぜかこの男は僕のメガネを必要に狙ってくる。

珍しいかもしれないが外さで壊されたらそれこそ死活問題になる。

「ああ、悪い。てか、これ汚水じゃねぇか??こんな扱い酷すぎるだろ。良ければ俺の部屋でやらないか、もとい来ないか??そうすれば俺が手取り足取り尻取り世話をするし……」

「結構だ」

「そう言わず、男は度胸!!何でも試してみるものさ」

よくわからないがものすごい恐怖を僕はアベルからは常に感じているため信用はしていない。

そんなやりとりをしていると恥ずかしながら腹の虫が鳴いた。

粗雑にされるようになって3日ほどまともに食事をしていないのだ。

「腹が減っているのか??良ければ俺が満たして……」

「アベル、その必要はない。こんな異世界人にはその辺の草でも食わせておけ!!」

まるで某県民へのヤジのような言葉を言って部屋に入ってきたのは、僕をここに追いやった張本人である王子だった。

「バカ、そんなことしたらレイジが死んじまうだろう。勇者を粗雑に扱うのは良くない。面倒を見ないなら俺がおいしくもとい美味しいものを食べさせてやろう」

良い申し出のはずが寒気がなぜか止まらない。

「なんで、アベルがそこまでこいつを構うんだ。せっかく僕が呼び出してやったのに全く使えないこんな役立たずを!!」

「僕だってこんなところに来たくてきたんじゃない!!邪魔なら家に帰してくれ!!」

空腹による苛立ちから叫ぶと、怒りで真っ赤になった王子が僕の首を絞めた。

「お前さえ死ねば……」

強い力に気道が塞がるのがわかる。こんなところで死にたくない。

「やめろ!!」

アベルが王子を押さえつけようとしたその時、

「殿下、おやめください」

慇懃無礼な言葉と共に魔法で王子が宙に浮いた。それに驚いたのか反射的に僕は離されてそのまま、古い木の床に落とされて腰を強かに打ちつけた。

「いた!!」

「ああ、すいませんね。勇者様」

何にも悪いと思っていない声色でそういった神官服の糸目の人物はこの国の大神官であり僕が1番嫌いな人物でもあるゼファーだった。
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