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12.エドワードの回想
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だれがさんびか うたうのか?
わたし とつぐみがいいました
こえだのうえから いいました
わたしがさんびか うたいます
昔のことを思い出す。あれはまだ俺が小さかった時の記憶。10歳の俺はいつも彼と遊んでいた。
「おーい、テッド、今日は何する?」
「何でも好きなことをすればいい」
そう言っていつもいつもふたりで勉強したり、剣術を習ったり、彼は俺の親友だった。
「ハリー、そういえば君と僕の妹の婚約が決まったそうだけど……」
「ああ。そりゃあ俺から父上と母上に頼んだからな」
ニィっと悪戯が成功した子供のように笑った。それはとてもとても子供らしい、それもガキ大将みたいな傲慢さを含んだものだったけど不思議と不快感はなかった。
「本当に君は僕の妹を大切にできるの?」
「当たり前だろう。だって僕がビクトリアに恋をしてお願いしたのだから」
あの言葉に嘘も偽りもなかったはずだった。それなのに、12歳の日に全て変わってしまった。文字通り変わってしまったのだ。
◇アルフレッド視点◇
おかしい、こんなはずではなかった。
何故か最有力の容疑者だったはずのビクトリアが行方不明になってしまった。てっきり逃げたのかとも思ったが、どうやら何者かが彼女を攫ったということが周囲の証言から確定した。
(くそ、明日には証人喚問があるというのに……容疑者を連れていけないなんて)
ビクトリアを陥れる算段はもうできている。とても簡単なことだ。
まず、婚約者であるマリアに嫉妬したビクトリアが、自身の家の騎士を使い魔法式ボウガンでマリアを殺害し、その凶器を屋根裏部屋に隠した。証拠として現場にこの「グロスター公爵家」の家紋が描かれたボタンと、発見されたボウガンにも公爵家の紋が入っていたと証拠品を出せばイチコロのはずだ。
「マリア、必ず敵はとってやるからな」
と拳を握りしめて囁く。しかし実際は自分とマリアの計画の失敗でマリアが死んだことを何がなんでも隠し通す必要がある。これについては僕のほかに調査をしているエドワードの情報を潜り込ませたスパイから聞いているが、あちらは特に進展がないようなので問題ないだろう。
(これで、ビクトリアに罪を着せればすべてはうまく戻るはずだ)
「フレッド、調子はどうだ?」
ぼんやりとしていた僕にいきなり声をかけてきたので驚いたが、それは僕の絶対的な味方のヘンリーだった。
「ああ。順調だよ。これで明日の証人喚問もうまくいくはずだ」
「ならよかった。これで私はビクトリアと婚約破棄ができるのだな」
付き物が落ちたようなすっきりした顔の親友に思わず笑みがこぼれる。これで大切な親友を下賤の女から解放することができる。
「そうだ、私から君にひとつ聞きたいことがあるんだ」
「なんです?」
「昔、あるところに王がいた。その王にはふたりの息子がいたが、片方の息子は幽閉されていた。彼の母親が最下層民だったからだ。もうひとりの息子は王太子として何不自由なく暮らしていたが、幽閉されていた王子は最低限の生活を余儀なくされていた。ただ幸運なことに幽閉されていた王子はそれを当たり前だと思っていた。けれどある日、幽閉されていた王子は外に出たんだ。実は自分が本来は王太子だったが入れ替えられて幽閉されたと聞いたんだ」
「それは良いことじゃないか。入れ替えで下賤のものが王太子になるなんて間違いだ」
「しかし、王太子になった彼に匿名で一通の手紙が届いた。それは宛先のない手紙。字すらまともに書けなかったのか誤字だらけの手紙。そこにはこう書かれていた。
『私の愛する息子へ
貴方を私は王太子にしたかった。そのために貴方と本物の王太子を入れ替えたいと願いました。私の命は紙より軽い。けれど貴方のためなら、投げ出せます。
どうか、貴方が王位を継いだなら貴賎で差別してはいけない。必ずその人の内面を見なさい。それを怠ってはいけません。必ず正しいことを考えなさい。それを人に任せてはいけない必ず自分で確認しなさい、そうして貴方はこの国を変えてください』」
「その話が一体なんだと言うんだ?ヘンリー?」
僕はひどい胸騒ぎがしたが、次の瞬間ヘンリーはそんな話がなかったように微笑んでいた。
「ちょっと思いついた物語を話しただけだ。面白かったかな?」
「なんだ、うーん。悪くはないけど君は王太子だし、小説なんて書く必要ないだろう」
「それも、そうだね。さぁ、明日は大切な証人喚問だ。必ずや勝利をおさめよう」
違和感などかなぐり捨てよう、大丈夫。全てはうまくいくと僕は自分に言い聞かせた。
わたし とつぐみがいいました
こえだのうえから いいました
わたしがさんびか うたいます
昔のことを思い出す。あれはまだ俺が小さかった時の記憶。10歳の俺はいつも彼と遊んでいた。
「おーい、テッド、今日は何する?」
「何でも好きなことをすればいい」
そう言っていつもいつもふたりで勉強したり、剣術を習ったり、彼は俺の親友だった。
「ハリー、そういえば君と僕の妹の婚約が決まったそうだけど……」
「ああ。そりゃあ俺から父上と母上に頼んだからな」
ニィっと悪戯が成功した子供のように笑った。それはとてもとても子供らしい、それもガキ大将みたいな傲慢さを含んだものだったけど不思議と不快感はなかった。
「本当に君は僕の妹を大切にできるの?」
「当たり前だろう。だって僕がビクトリアに恋をしてお願いしたのだから」
あの言葉に嘘も偽りもなかったはずだった。それなのに、12歳の日に全て変わってしまった。文字通り変わってしまったのだ。
◇アルフレッド視点◇
おかしい、こんなはずではなかった。
何故か最有力の容疑者だったはずのビクトリアが行方不明になってしまった。てっきり逃げたのかとも思ったが、どうやら何者かが彼女を攫ったということが周囲の証言から確定した。
(くそ、明日には証人喚問があるというのに……容疑者を連れていけないなんて)
ビクトリアを陥れる算段はもうできている。とても簡単なことだ。
まず、婚約者であるマリアに嫉妬したビクトリアが、自身の家の騎士を使い魔法式ボウガンでマリアを殺害し、その凶器を屋根裏部屋に隠した。証拠として現場にこの「グロスター公爵家」の家紋が描かれたボタンと、発見されたボウガンにも公爵家の紋が入っていたと証拠品を出せばイチコロのはずだ。
「マリア、必ず敵はとってやるからな」
と拳を握りしめて囁く。しかし実際は自分とマリアの計画の失敗でマリアが死んだことを何がなんでも隠し通す必要がある。これについては僕のほかに調査をしているエドワードの情報を潜り込ませたスパイから聞いているが、あちらは特に進展がないようなので問題ないだろう。
(これで、ビクトリアに罪を着せればすべてはうまく戻るはずだ)
「フレッド、調子はどうだ?」
ぼんやりとしていた僕にいきなり声をかけてきたので驚いたが、それは僕の絶対的な味方のヘンリーだった。
「ああ。順調だよ。これで明日の証人喚問もうまくいくはずだ」
「ならよかった。これで私はビクトリアと婚約破棄ができるのだな」
付き物が落ちたようなすっきりした顔の親友に思わず笑みがこぼれる。これで大切な親友を下賤の女から解放することができる。
「そうだ、私から君にひとつ聞きたいことがあるんだ」
「なんです?」
「昔、あるところに王がいた。その王にはふたりの息子がいたが、片方の息子は幽閉されていた。彼の母親が最下層民だったからだ。もうひとりの息子は王太子として何不自由なく暮らしていたが、幽閉されていた王子は最低限の生活を余儀なくされていた。ただ幸運なことに幽閉されていた王子はそれを当たり前だと思っていた。けれどある日、幽閉されていた王子は外に出たんだ。実は自分が本来は王太子だったが入れ替えられて幽閉されたと聞いたんだ」
「それは良いことじゃないか。入れ替えで下賤のものが王太子になるなんて間違いだ」
「しかし、王太子になった彼に匿名で一通の手紙が届いた。それは宛先のない手紙。字すらまともに書けなかったのか誤字だらけの手紙。そこにはこう書かれていた。
『私の愛する息子へ
貴方を私は王太子にしたかった。そのために貴方と本物の王太子を入れ替えたいと願いました。私の命は紙より軽い。けれど貴方のためなら、投げ出せます。
どうか、貴方が王位を継いだなら貴賎で差別してはいけない。必ずその人の内面を見なさい。それを怠ってはいけません。必ず正しいことを考えなさい。それを人に任せてはいけない必ず自分で確認しなさい、そうして貴方はこの国を変えてください』」
「その話が一体なんだと言うんだ?ヘンリー?」
僕はひどい胸騒ぎがしたが、次の瞬間ヘンリーはそんな話がなかったように微笑んでいた。
「ちょっと思いついた物語を話しただけだ。面白かったかな?」
「なんだ、うーん。悪くはないけど君は王太子だし、小説なんて書く必要ないだろう」
「それも、そうだね。さぁ、明日は大切な証人喚問だ。必ずや勝利をおさめよう」
違和感などかなぐり捨てよう、大丈夫。全てはうまくいくと僕は自分に言い聞かせた。
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