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08.可憐なお嬢様とエリザベート様02

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「王宮からの要請では仕方ありませんですわね。折角、もっとエカチェリーナ様と親睦を深めたかったのに」

心にもないことを言いながら残念という仕草をしたエリザベート様。しかし、実際はお嬢様と仲良くなれないから残念なのではなく、お嬢様に意地悪ができなくって残念といっている。

「本当にとても残念ですわ」

お嬢様の冴えわたるアルカイックスマイル。正直、ふたりの間には真冬の冷気が漂っていた。今は春で若干肌寒い日もあるが、今日は比較的暖かい日なのに完全に空気が冷え切っている。

女性同士の戦いって怖い。でもお嬢様のために泣いてはいけない。そんなことを考えていた時だった。

「エカチェリーナ」

背後から低い男の声がした。振り返ればそこにはピョートル殿下が立っていた。何故ここでお嬢様に声をかけたのか分からない。

「ピョートル殿下」

「ピョートル殿下、お会いできて嬉しゅうございます」

エリザベート様が美しいカーテシーをした。その様子を見て、僕はあることに気付いた。そして、それがもしかしたらお嬢様に嫌がらせをしている原因かもしれない。

だとしたら、皇太子の目測は誤りだ。

その理由、それは……。

「エリザベート嬢、久しいな」

相変わらずぶっきらぼうに、しかし最低限の義務というようにエリザベート様に答える、ピョートル殿下。そのあからさまな義理に対して、エリザベート様は頬をわずかに赤らめていた。


間違いない、この人はピョートル殿下が好きなのだ。だから、その婚約者であるお嬢様に嫌がらせをしている。いままで、僕はエリザベート様に近付くことがなかったから分からなかったが、その事実に気付いたことで色々想定していたものの練り直しが必要になりそうだ。

(てっきり、側妃が関係していると思ったけどこれ完全に私怨だもんな……)

しかし、そのエリザベート様の熱い眼差しになど気付く素振りもなく、ピョートル殿下はお嬢様に話しかけた。

「エカチェリーナ、今度の夜会用のドレスについて話がしたい。後ほどまたサロンへ来てくれ」

「承知いたしました」

その部分だけ切り取れば仲が良いようにも見えるやりとり。実際は先ほど「愛せない」とか「婚約破棄」とか話していたこのふたりであるが、公衆の面前でそれを晒すほどの愚かしさはない。

しかし、それこそがエリザベート様の苛立ちを生むのだろう。自身が懸想する相手と愛し合う女。まして、自分と同じ公爵家の令嬢。

(なぜ自分がこの人の婚約者じゃなかったんだっておもっているのだろうな……)
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