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04.傲慢王子と元側近と現在
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兄のことを思い出して微妙な気持ちになった時、現実の部屋の扉が開いた。
「クーサー殿下、目が覚めたのですね」
そこにはモウカが立っていた。ただ、側近として側にいた時とは違い派手ではないがそれが上質だとすぐにわかる服を着ていた。
「モウカ……その僕は、あの時川に飛び込んだあ……」
「思い出さないで良いです。殿下はとても苦しんだのです。もう何も考えずただここにいらっしゃればよいのです」
言葉を遮って、モウカは僕のすぐ側にやってきた。
そう言えばいまだに僕はベッドから出ていないという事実に気付いて急いでそこから出ようとしたが、何かがおかしいことに気付いた。
「……っ」
「クーサー殿下。無理はしてはいけない。殿下は歩くことはできません」
その言葉に、確信した。どうやら僕はあの日飛び降りた際に足を骨折してしまったか何かで現在歩くことが困難であるらしいということを。だから、今立ち上がろうとしたときに全く下半身が動かなかったのだろう。
「そうか、あれだけ高い場所から落ちたのだ。骨折していても仕方ないむしろ生きていることが不思議なくらいだ」
思った感想を口にして笑った僕を見て、モウカが何故か泣いてしまった。びっくりする僕にモウカは続けた。
「本当は、目覚めたばかりの殿下には話したくなかったのですが、あの日殿下は川に飛び込んだ際に腰の骨を骨折してしまったのです。結果この先、歩けるようになる確率は大変低いかと。どうして、貴方ばかりこんなに酷い目にあうのでしょうか」
「腰の骨か。でも首の骨じゃなくてよかった。ほら手はちゃんと動くから……」
手をうごかして見せるとモウカが僕を強く抱きしめた。
「いいのです。もう無理はしないで。殿下を縛っていた全ては無くなりました」
そのあたたかい体温は不思議と心地よいのだけれどモウカは明かにとても恐ろしいことを口走った。先に読んでいた手紙もとても不穏なものだった。
「モウカ、国が滅んだと書いてあったが、何故滅んだんだ??」
モウカに抱きしめられているため表情はまるで見えない。しかし、モウカはきっと侮蔑するような表情をしているのだろう、吐き捨てるように答えた。
「自業自得ですよ。貴方を罪なき罪で葬った後、その穴が大きすぎてあの国は勝手に瓦解したのです」
「……僕が居なくなっても王子はふたりいた。陛下もご病気などがあった訳でもないのに何故……」
理解ができなかった。僕が抜けたからと言って壊れるほどあの国は軟弱ではない。あくまで僕がいなくなることで王太子候補がひとり減った程度だ。
しかし、その穴だけで国が滅んだとしたらその原因はなんだろう。考え込む僕の髪をモウカはひと房ほど手にとる。職務にかまけて世話こそしてもらっていたが長くのびたその髪は今はまとめてないので肩より下まであるのだが、それはそれはいとおしそうにその毛先に口づけた。
「クーサー殿下。今は忘れてください。貴方がもう少し回復したら全てお話します。しかし今の貴方は身も心モボロボロです。けれど必ず私が回復させますのでその後でも遅くはありません。時間は豊富にあるのですから」
「モウカ……でも、国が滅んだなら君に世話になるわけにはいかない。だって僕は平民だろう??」
「いいえ。貴方は今も昔もずっと私のただひとりの大切な人ですので、平民になることはありませんし、今までの苦労の分これからはこの幸せな籠の中で永遠に甘やかされて幸せになって頂きます」
まるで砂糖漬けの果実より甘い蕩けるような顔でモウカが笑った。その表情に何故か感覚のないはずの尾骨がじんわりと疼いた気がしたがその理由がわからない。
ただ、彼の側にいることで僕は何かを取り戻せるかもしれない、そんな漠然とした思いが湧いた。
「……ありがとう。よくわからない部分もあるが今の僕は歩くこともできないならひとりで生きることも難しいだろう。そんな中、なんの価値も持っていないだろう僕を助けてくれたこと、何か出来る訳ではないが感謝する」
「なんの価値もない??まさか、その体が同量の黄金であるよりはるかに価値がありますのでご心配なく」
「クーサー殿下、目が覚めたのですね」
そこにはモウカが立っていた。ただ、側近として側にいた時とは違い派手ではないがそれが上質だとすぐにわかる服を着ていた。
「モウカ……その僕は、あの時川に飛び込んだあ……」
「思い出さないで良いです。殿下はとても苦しんだのです。もう何も考えずただここにいらっしゃればよいのです」
言葉を遮って、モウカは僕のすぐ側にやってきた。
そう言えばいまだに僕はベッドから出ていないという事実に気付いて急いでそこから出ようとしたが、何かがおかしいことに気付いた。
「……っ」
「クーサー殿下。無理はしてはいけない。殿下は歩くことはできません」
その言葉に、確信した。どうやら僕はあの日飛び降りた際に足を骨折してしまったか何かで現在歩くことが困難であるらしいということを。だから、今立ち上がろうとしたときに全く下半身が動かなかったのだろう。
「そうか、あれだけ高い場所から落ちたのだ。骨折していても仕方ないむしろ生きていることが不思議なくらいだ」
思った感想を口にして笑った僕を見て、モウカが何故か泣いてしまった。びっくりする僕にモウカは続けた。
「本当は、目覚めたばかりの殿下には話したくなかったのですが、あの日殿下は川に飛び込んだ際に腰の骨を骨折してしまったのです。結果この先、歩けるようになる確率は大変低いかと。どうして、貴方ばかりこんなに酷い目にあうのでしょうか」
「腰の骨か。でも首の骨じゃなくてよかった。ほら手はちゃんと動くから……」
手をうごかして見せるとモウカが僕を強く抱きしめた。
「いいのです。もう無理はしないで。殿下を縛っていた全ては無くなりました」
そのあたたかい体温は不思議と心地よいのだけれどモウカは明かにとても恐ろしいことを口走った。先に読んでいた手紙もとても不穏なものだった。
「モウカ、国が滅んだと書いてあったが、何故滅んだんだ??」
モウカに抱きしめられているため表情はまるで見えない。しかし、モウカはきっと侮蔑するような表情をしているのだろう、吐き捨てるように答えた。
「自業自得ですよ。貴方を罪なき罪で葬った後、その穴が大きすぎてあの国は勝手に瓦解したのです」
「……僕が居なくなっても王子はふたりいた。陛下もご病気などがあった訳でもないのに何故……」
理解ができなかった。僕が抜けたからと言って壊れるほどあの国は軟弱ではない。あくまで僕がいなくなることで王太子候補がひとり減った程度だ。
しかし、その穴だけで国が滅んだとしたらその原因はなんだろう。考え込む僕の髪をモウカはひと房ほど手にとる。職務にかまけて世話こそしてもらっていたが長くのびたその髪は今はまとめてないので肩より下まであるのだが、それはそれはいとおしそうにその毛先に口づけた。
「クーサー殿下。今は忘れてください。貴方がもう少し回復したら全てお話します。しかし今の貴方は身も心モボロボロです。けれど必ず私が回復させますのでその後でも遅くはありません。時間は豊富にあるのですから」
「モウカ……でも、国が滅んだなら君に世話になるわけにはいかない。だって僕は平民だろう??」
「いいえ。貴方は今も昔もずっと私のただひとりの大切な人ですので、平民になることはありませんし、今までの苦労の分これからはこの幸せな籠の中で永遠に甘やかされて幸せになって頂きます」
まるで砂糖漬けの果実より甘い蕩けるような顔でモウカが笑った。その表情に何故か感覚のないはずの尾骨がじんわりと疼いた気がしたがその理由がわからない。
ただ、彼の側にいることで僕は何かを取り戻せるかもしれない、そんな漠然とした思いが湧いた。
「……ありがとう。よくわからない部分もあるが今の僕は歩くこともできないならひとりで生きることも難しいだろう。そんな中、なんの価値も持っていないだろう僕を助けてくれたこと、何か出来る訳ではないが感謝する」
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