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05.傲慢王子と元従者の穏やかな日々
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あの日からモウカにとても大切にされている。
甘やかなゆりかごの中に居るような、そんな日常がはじまったのだ。
朝はモウカが僕を車椅子に乗せて館の庭を散歩することからはじまる。今はベゴニアが美しく咲いているのをふたりで眺めては他愛ない話をする。
「こんな風に花を眺めて話をする日が来るなんて信じられないな」
息を吸い込めば、風の中にほのかに花の香りがする。そういうささやかな変化を今まで感じる余裕はなかった。どんな時も僕は王になるためになにひとつ余裕がなかった。
(なにひとつだって取りこぼすことはできなかった、誰に見てもらえなくても努力し続ける必要があった。全ては王になるために必要だった……必要だと信じていた)
そんな僕の髪をモウカの無骨な指先がびっくりするほど繊細に撫でた。まるで壊れ物でも扱うように大切に触れられるとよくわからないけれど鼓動が早くなる。
「これからはずっとゆっくりふたりで花をみましょう。今までできなかったことを沢山体験していきましょうね」
「……でも、モウカは忙しいし、僕はこの体だ、無理は……」
モウカは忙しいので申し訳なくなりそう口にした時、背後から急に抱きすくめられた。強く抱きしめられて驚いて振り返ろうとしたがモウカの顔は見えない。
「モウカ」
「貴方は何も気にしないで良いです。ただ私だけを頼ればいいのです」
そう優しく甘い声で囁かれた時、なんだかとても恥ずかしいのと同時にとても怖い気がした。その感情がなぜ生まれたのかその時の僕には分からなかった。
そして、その後は部屋に戻ればモウカに服を着せられる。
前はささやかな小物などのプレゼントが贈られていたが、ここに来てからのモウカの贈り物はそれらよりずっと高価なものだとひと目で分かる物ばかりひっきりなしに贈られるようになったのだが、特に衣服の類は毎日、違う服をモウカが選んで僕に着せた。
下半身が動かないので立てない僕に毎日毎日丁寧に服を彼は着せた。その瞳は甘く蕩けていて、そうすることが楽しくて仕方ないとでもいうような感じがした。
けれど、それは大変だと思うので手は動くし自分で服くらい着れると何度か言ったが、
「貴方は、ほんの幼い頃から本来なら他者に頼るべきことをしてもらってきていないのですから、ここでは私に甘えてくださいね」
と言って聞く耳を持たない。
しかし、服を着せる時の体中を優しく撫でられるような感覚で、自然現象で勃起してしまうと特にいたたまれないが、モウカはただそういう場合何も言わずにとても甘さを含んだ眼差しでそれをただ眺めている。その意図が分からない。
さらに食事も、栄養バランスは考えられつつも僕が好き好むものが中心で出された。
僕は元々食が細くしかも偏食だったので、ほぼパンと野菜しか口にしていなかったのだが、今はそれに加えて鶏肉も食べれるようになったし、デザートも果物以外も口にできるようになった。
食事内容は十分すぎるのだが、それをモウカはいつも僕にひとくちひとくち食べさせる。これについても手は動くので自分で食べたいが、
「モウカ、僕はこれくらいひとりで食べられるから……」
「この行為は私にとってとても幸せなのです。なので出来れば続けさせて頂きたいのですが」
などと言われてしまうと、居候の身であるので文句は言えなかった。しかし、食べさせるたびに「はい、あーんしてください」などと言われるとなんだか体がむず痒い感じがする。
そうやって僕はほとんどなにもさせてもらえなくなった。
けれど、今までの報われない激務の日々から比べたらあまりにも穏やかで僕は、モウカには悪いが案外この日々が気に入ってしまってきていた。
だから、僕を廃嫡して幽閉しようとしていた国のことも家族のことも一時的に思い出すことを避けるようになっていたが、それを思い出さざる得ない出来事が起きてしまった。
甘やかなゆりかごの中に居るような、そんな日常がはじまったのだ。
朝はモウカが僕を車椅子に乗せて館の庭を散歩することからはじまる。今はベゴニアが美しく咲いているのをふたりで眺めては他愛ない話をする。
「こんな風に花を眺めて話をする日が来るなんて信じられないな」
息を吸い込めば、風の中にほのかに花の香りがする。そういうささやかな変化を今まで感じる余裕はなかった。どんな時も僕は王になるためになにひとつ余裕がなかった。
(なにひとつだって取りこぼすことはできなかった、誰に見てもらえなくても努力し続ける必要があった。全ては王になるために必要だった……必要だと信じていた)
そんな僕の髪をモウカの無骨な指先がびっくりするほど繊細に撫でた。まるで壊れ物でも扱うように大切に触れられるとよくわからないけれど鼓動が早くなる。
「これからはずっとゆっくりふたりで花をみましょう。今までできなかったことを沢山体験していきましょうね」
「……でも、モウカは忙しいし、僕はこの体だ、無理は……」
モウカは忙しいので申し訳なくなりそう口にした時、背後から急に抱きすくめられた。強く抱きしめられて驚いて振り返ろうとしたがモウカの顔は見えない。
「モウカ」
「貴方は何も気にしないで良いです。ただ私だけを頼ればいいのです」
そう優しく甘い声で囁かれた時、なんだかとても恥ずかしいのと同時にとても怖い気がした。その感情がなぜ生まれたのかその時の僕には分からなかった。
そして、その後は部屋に戻ればモウカに服を着せられる。
前はささやかな小物などのプレゼントが贈られていたが、ここに来てからのモウカの贈り物はそれらよりずっと高価なものだとひと目で分かる物ばかりひっきりなしに贈られるようになったのだが、特に衣服の類は毎日、違う服をモウカが選んで僕に着せた。
下半身が動かないので立てない僕に毎日毎日丁寧に服を彼は着せた。その瞳は甘く蕩けていて、そうすることが楽しくて仕方ないとでもいうような感じがした。
けれど、それは大変だと思うので手は動くし自分で服くらい着れると何度か言ったが、
「貴方は、ほんの幼い頃から本来なら他者に頼るべきことをしてもらってきていないのですから、ここでは私に甘えてくださいね」
と言って聞く耳を持たない。
しかし、服を着せる時の体中を優しく撫でられるような感覚で、自然現象で勃起してしまうと特にいたたまれないが、モウカはただそういう場合何も言わずにとても甘さを含んだ眼差しでそれをただ眺めている。その意図が分からない。
さらに食事も、栄養バランスは考えられつつも僕が好き好むものが中心で出された。
僕は元々食が細くしかも偏食だったので、ほぼパンと野菜しか口にしていなかったのだが、今はそれに加えて鶏肉も食べれるようになったし、デザートも果物以外も口にできるようになった。
食事内容は十分すぎるのだが、それをモウカはいつも僕にひとくちひとくち食べさせる。これについても手は動くので自分で食べたいが、
「モウカ、僕はこれくらいひとりで食べられるから……」
「この行為は私にとってとても幸せなのです。なので出来れば続けさせて頂きたいのですが」
などと言われてしまうと、居候の身であるので文句は言えなかった。しかし、食べさせるたびに「はい、あーんしてください」などと言われるとなんだか体がむず痒い感じがする。
そうやって僕はほとんどなにもさせてもらえなくなった。
けれど、今までの報われない激務の日々から比べたらあまりにも穏やかで僕は、モウカには悪いが案外この日々が気に入ってしまってきていた。
だから、僕を廃嫡して幽閉しようとしていた国のことも家族のことも一時的に思い出すことを避けるようになっていたが、それを思い出さざる得ない出来事が起きてしまった。
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