傲慢王子は廃嫡されて幽閉されてはじめて愛を知る~そして、王国は瓦解した。

ひよこ麺

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01.傲慢王子の日常

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それはとても晴れた日だった。空気もとても澄んでいてどうしようもないもやもやとした痛みを全て呼吸すれば吐き出せるように錯覚するような冬の日だった。

僕は、常に分刻みのスケジュールをこなしていた。

これは仕方ない。おじい様が築いた絶対王政のこの国の王になる以上は、民を守るために、仕事をし続ける必要があるのだから。

「クーサー殿下、こちらの税率の件は……」

「今から1時間と5分前にも言っただろう!!税率は変えない」

「クーサー殿下、こちらの書類へのサインを……」

「……この書類の第6項26に記載がある内容に誤りがある。これでは何かの天災が発生した時に一方的に我が国が損害を被ることになる。再度先方に戻すように」

次の会議への移動のために、廊下を歩いている際も気を抜くことなどできない。僕は気高い王になるためになにひとつ取りこぼしてはいけない。だから……。

「フローラ、君にプレゼントがあるんだ」

「カイニス様、これは……」

例え目の前の王城のガセボで、ゆったりと僕の婚約者が弟の第3王子と優雅に茶を明らかに恋人のような距離感ですすっていても足を止める暇もないのだ。

弟のカイニスは、王にならないから僕のように仕事をする必要もない。

年相応の勉強をすればいいだけだ。だから時間がある。

その時間が僕にあったならもっと学びたいことがあるが、彼には兄の婚約者と話す方がそれより有意義なのだろう。本来なら僕が彼女と話したりして意思疎通すべきだが、どう優先順位を整えても婚約者と会話する時間は1か月で1時間程度しか捻出できない。

手紙は寝る前にかけるので頻繁に書いているが、いつの頃からかこちらから一方的に送り付けるだけで返事が返ってくることも無くなっている。つまりほぼ没交渉である。

「……殿下、またあのふたりはあのように堂々と逢瀬をしているようです」

そんな、ふたりの様子に一番側にいる最側近のモウカが、その端正な顔を歪めている。

モウカは僕から見たら従兄弟に当たる公爵家の次男である。

真っ赤な髪にモスグリーンの鋭い瞳をした精悍な男で、何も言わなければ護衛騎士に見えるほどに長身で逞しい体つきをしている。

彼は、公爵家こそ継がないが、その優秀さ故に母方の伯父の跡取りとして指名されており、隣国の公国家を継いで大公となる予定だという。

国同士が親しくあるために、幼い頃からの付き合いで、僕にとって唯一無二の存在であり、4歳年上の彼は実の兄よりずっと僕のことを理解してくれている。

「それなら何度も書簡をフローラの家にも送っているし、陛下と妃殿下にも伝えているが、「婚約者に一方的な手紙ばかりをおくり、茶のひとつもする時間がとれないお前が悪い」と何故か全く見当違いのことを言われたのだ。一応、形ばかりでも抗議はし続けているが、仕事も忙しいので不貞の証拠だけ一旦影に押さえさせている。そう遠くない未来この婚約はフローラの有責で破棄されるだろう。……ただ、弟が相手だから結局なにも対応されないだろうがな」

陛下と妃殿下は、僕以外の兄弟に甘い。しかし、王族たるものが身内に甘いのは本来とても問題である。その弱点を突かれた時に弱みが生まれてしまう。

しかし、今は陛下がこの国の王であるから従うよりほかないが、いずれこの歪みは正さねばならない。

陛下は兄と弟は子として扱うが、僕は常に臣下として扱われている。ふたりをあたたかい目で見つめる陛下が、僕には常に冷えたような目を向けられる。

『王位を継がれるクーサー殿下だからこそ、厳しくされているのでしょう』と宰相は言ってくれた。

僕は、幼い頃から先王であったおじい様から帝王学を学び家族とはほとんど接することができなかったが、それは全て僕が王位を継ぐのに必要な教養を身に着けるためだ。

だからそんな些事を気にしてはいけない。例えよくわからない胸の痛みが起きても、それを表に出してはいけない。

そのような弱みをは抱くべきではない。

(クーサーよ、お前は愚かな父のようになるな。お前は偉大なる余の血を最も受け継いだ誇り高き青い血の継承者なのだから)

先王であるおじい様はひとりぼっちで帝王学を学んでいた幼い日の僕の頭を撫でてそう言ってくださった。

そして、兄よりも弟よりも僕に期待してくださっていた。

僕は誰よりもこの国で王に近い存在だ。だから、例え兄が趣味に自由に興じていても、弟が僕の婚約者と愛を育んでいても彼等とは違うのだから悲しむ必要などない

(おじい様、僕は偉大なる王になる子です。だから、こんなことで傷付くような軟弱な心などありません、僕はおじい様の、太陽王と呼ばれた偉大なる絶対王である貴方の孫であり後継者なのですから)

そう考えれば、僕はいつだって前を向ける。そんな僕の姿にモウカは何故かとても辛そうな顔をしていた。

「殿下。私は……」

モウカは何かを言おうとしたけれど、一際大きな風が吹きつけてその先を僕が聞き取ることはできなかった。
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