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61:雨と誓いと蛇(???視点)
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「クソ、殺し損ねた」
私は、裏路地に入ったところで地団駄を踏んだ。間違いなく今度こそあの憎い女を殺せたと思った。それなのに……。
「まさか、殿下が庇うなんて想定外だったわ」
火球の威力があれば死ぬか、死ななくても酷い火傷を負って番から傷物として外されると踏んでいた。けれど、まさかしくじるなんて。そして、まさかアレクサンドル殿下に怪我を負わせてしまうなんて大失態だ。
あの感じでは顔に火傷を負ったかもしれない。なにひとつあの女に復讐できなかったばっかりか、美しい顔を焼いてしまったかもしれないと考えると気が滅入った。
そんな時だった。
「君は随分なことをしたようだな」
「!!」
気配もなく、ひとりの男が立っていた。その男はまるで蛇のような冷たい目をしていた。
「……イグニス」
蛇のようなではなくこの男は蛇だ。獣人の血を引く国において侯爵家の嫡男で、蛇神の血をひくものだと言われている。その冷たい双眸に思わず目を逸らしたが彼はニィっといやな笑みを浮かべた。
その金色の瞳が私はとても苦手だった。あの事件から、彼の元で魔法を習いあの女への復讐を望んでいた。そのためにこの男から禁断魔法である火の攻撃魔法を習った。
「君がまさか、殿下のお気に入りに攻撃するなんて、これが知れたら殿下は怒り狂って君を殺すだろうね」
まるで歌うように残酷なことを平気で口にした。この男には血も涙もない。もっというと心があるのかも怪しい。リアルな爬虫類のような感情の読めない男は残酷な言葉をさらに続けた。
「それよりも問題は、君は隣国の殿下に怪我を負わせた。今も君はお尋ねものとしてさがされているようだよ。ハハハ自業自得だね」
「失敗をした私を笑いにきたの??」
「まさか、そんな暇なことしないよ、ただ、僕にも願いがある。その願いのためにここにいて君のようなお荷物とも仕事をしているんだよ」
この男の意図がなんなのか私にはわからない。ただひとつ確かなのは、この男は決してファハド王子の味方というわけではないということ。むしろ……。
「ああ。僕はそろそろ返してもらわないといけないものがあるのさ。けれどあの子は巧妙に素性を隠して姿を変えたり隠したり身分も変えたりしてしまってるから見つけるのが大変でね。でも、今回ファハド殿下のおかげですぐ見つかったけど……」
「……貴方が嬉しそうにするなんて、その人はそんなに大事なの??」
「ははは、大事なんてもんじゃないよ。彼は唯一の家族だ。僕のね。大切な人なんだ。それなのに可哀そうにずっと地獄を這いずって無間地獄に落とされて、存在すら消されて、それでもただ番への愛を捧げている……可哀そうな僕の家族だよ。けど今回が最後だからね迎えに来たんだ……」
空寒いものを感じた。『家族』と言っているが、この男の家族は全員謎の死を遂げて死んでいる。それなのにまるで生き別れの兄弟か何かがいるみたいにこの男は恍惚に似た表情をしていた。
「家族って、兄弟か何か??」
「兄弟??違うよ、もっとね、深いんだ。彼は僕と同じものだ、そして彼は僕の元へ還るんだ、可愛い可愛い家族……」
意味がわからないが、この狂った男と話すのはあまり良いことはない。そうこうしているうちに雨が打ち付けるように振り出した。ローブが多少防水できるとはいえ長時間は持たない。
「雨ね、どこか屋内に……」
「ああ、こっちにいいものがある」
そう言うとイグニスは路地裏の奧にある明らかな廃屋を指さした。本当ならあんな汚いところ行くのはいやだった、けれど今は仕方ない。
私とイグニスはその小屋に退避した。奇しくも大雨となり憲兵も思うように動けていないようでありがたい。きっとこれはこの世界の神の思し召しだろう。
(なんとしても、私はあの女をベアトリーチェに復讐してみせる、私の居場所を取り戻すんだ)
恵の雨を眺めながら、そう誓った。
私は、裏路地に入ったところで地団駄を踏んだ。間違いなく今度こそあの憎い女を殺せたと思った。それなのに……。
「まさか、殿下が庇うなんて想定外だったわ」
火球の威力があれば死ぬか、死ななくても酷い火傷を負って番から傷物として外されると踏んでいた。けれど、まさかしくじるなんて。そして、まさかアレクサンドル殿下に怪我を負わせてしまうなんて大失態だ。
あの感じでは顔に火傷を負ったかもしれない。なにひとつあの女に復讐できなかったばっかりか、美しい顔を焼いてしまったかもしれないと考えると気が滅入った。
そんな時だった。
「君は随分なことをしたようだな」
「!!」
気配もなく、ひとりの男が立っていた。その男はまるで蛇のような冷たい目をしていた。
「……イグニス」
蛇のようなではなくこの男は蛇だ。獣人の血を引く国において侯爵家の嫡男で、蛇神の血をひくものだと言われている。その冷たい双眸に思わず目を逸らしたが彼はニィっといやな笑みを浮かべた。
その金色の瞳が私はとても苦手だった。あの事件から、彼の元で魔法を習いあの女への復讐を望んでいた。そのためにこの男から禁断魔法である火の攻撃魔法を習った。
「君がまさか、殿下のお気に入りに攻撃するなんて、これが知れたら殿下は怒り狂って君を殺すだろうね」
まるで歌うように残酷なことを平気で口にした。この男には血も涙もない。もっというと心があるのかも怪しい。リアルな爬虫類のような感情の読めない男は残酷な言葉をさらに続けた。
「それよりも問題は、君は隣国の殿下に怪我を負わせた。今も君はお尋ねものとしてさがされているようだよ。ハハハ自業自得だね」
「失敗をした私を笑いにきたの??」
「まさか、そんな暇なことしないよ、ただ、僕にも願いがある。その願いのためにここにいて君のようなお荷物とも仕事をしているんだよ」
この男の意図がなんなのか私にはわからない。ただひとつ確かなのは、この男は決してファハド王子の味方というわけではないということ。むしろ……。
「ああ。僕はそろそろ返してもらわないといけないものがあるのさ。けれどあの子は巧妙に素性を隠して姿を変えたり隠したり身分も変えたりしてしまってるから見つけるのが大変でね。でも、今回ファハド殿下のおかげですぐ見つかったけど……」
「……貴方が嬉しそうにするなんて、その人はそんなに大事なの??」
「ははは、大事なんてもんじゃないよ。彼は唯一の家族だ。僕のね。大切な人なんだ。それなのに可哀そうにずっと地獄を這いずって無間地獄に落とされて、存在すら消されて、それでもただ番への愛を捧げている……可哀そうな僕の家族だよ。けど今回が最後だからね迎えに来たんだ……」
空寒いものを感じた。『家族』と言っているが、この男の家族は全員謎の死を遂げて死んでいる。それなのにまるで生き別れの兄弟か何かがいるみたいにこの男は恍惚に似た表情をしていた。
「家族って、兄弟か何か??」
「兄弟??違うよ、もっとね、深いんだ。彼は僕と同じものだ、そして彼は僕の元へ還るんだ、可愛い可愛い家族……」
意味がわからないが、この狂った男と話すのはあまり良いことはない。そうこうしているうちに雨が打ち付けるように振り出した。ローブが多少防水できるとはいえ長時間は持たない。
「雨ね、どこか屋内に……」
「ああ、こっちにいいものがある」
そう言うとイグニスは路地裏の奧にある明らかな廃屋を指さした。本当ならあんな汚いところ行くのはいやだった、けれど今は仕方ない。
私とイグニスはその小屋に退避した。奇しくも大雨となり憲兵も思うように動けていないようでありがたい。きっとこれはこの世界の神の思し召しだろう。
(なんとしても、私はあの女をベアトリーチェに復讐してみせる、私の居場所を取り戻すんだ)
恵の雨を眺めながら、そう誓った。
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