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23.トイレの扉の先にいたのは……

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そうあっさり答えたヴァンさんの声が聞こえたのがトイレの真上の天井だったのでそれはそれで気持ち悪いし怖いのですが、本当に天井に張り付いていただろうヴァンさんには、トイレのドアを開けるのは不可能だったでしょう。

(じゃあ、誰がこんなことを??)

そう考えた時でした。

ドン!!

ガチャガチャ

いきなり扉を誰かが大きく叩きました。そして、さらに閉まっているトイレのドアノブをガチャガチャと誰かが回そうとしているのです。

その想像とは全くことなる事態に震えが止まりません。正直トイレにいるのに漏らしそうです。まぁ漏らしそうになったら用を足せば良いので漏らすことは回避できそうですが。

「……誰がルドルフを脅かしているんだ……、許せん」

トイレの天井からヴァンさんの怒りの声が聞こえてきます。これがトイレの天井から聞こえなければ胸が熱くなるところですが、トイレの天井から言われているのでとても心がスンとしてますし、後でヴァンさんとは色々してはいけないことについて確認しなければいけないと心に固く誓いつつ一旦ドアに耳をつけてみました。

一応、ドアをカチャカチャしたりドンドンしているのはおさまったので、きっと大丈夫という油断もありました。

ドアに耳を当てて外の音を拾おうとした時……。

カチャリ

再び、ドアの鍵が開く音がしました。そして、急いで鍵を閉めようとしましたが体勢のせいで間に合わず、扉がそのままギーっと音を立てて開いてしまいました。

(まずい!!)

ドアに寄りかかっていたせいもあり、そのまま僕は外に飛び出してしまいました。そのため、ドアの鍵を開けたりガチャガチャした存在にもたれかかる形になってしまいました。

(これは首コロリ以外の斬新な死に方をしてしまうかもしれません)

心の中で思ったのですが、その寄りかかっている相手は一向に動こうとしません。

「……どうしましたか??あの……」

そう思って顔をあげるとそこには……。

「ルドルフ……、だいぶ長い間籠っていたようだな」

不機嫌な顔をしている、兄上が立っていました。想像と違う事態に思わずその顔を何度か見てしまいました。兄上は公爵家の嫡男のためこのおんぼろ、もとい古めかしいタイプのタウンハウスには住んでいません。

そのため、兄上がこの時間にここにいるということがかなり不自然です。

大体、僕と兄上の仲は良くありません。正確には僕は兄上や、父上とも仲良くしたいですが父上が母上の死の原因である僕を忌み嫌っていてその父上に感化される形で兄上も僕を突き放しているはずです。

実際、今日もエスコートしてくれませんでしたし、以前に渾身の太陽神柄のハンカチを送った時もすごい眉間にしわを寄せていて、受け取りはしてましたがハンカチを使う姿はみませんでした。

「兄上、なぜここに??それにどうしてトイレの鍵を開いたのですか??」

「その……お前が倒れているのではないかと思って……」

そう言われて、僕は納得しました。この屋敷には実質ほとんど人が夜間居ないのでもし僕がトイレで倒れた場合、見つかるまで時間が掛かりそこで孤独に死んでしまう可能性もなきにしもあらずです。

どうして、家に来たかはおいておいて孤独死されると流石に公爵家としては外聞が悪いのでそれを阻止すべく鍵をあける判断にいたったのかもしれません。

「なるほど、孤独死の防止のためですか」

「……違う。その……」

何か意を決したように兄上が言いかけた時でした。

ゴトリ

何かが、落ちるような音が背後からしました。なぜホラー展開が続くのかと怯えていましたが……。

「ルドルフ、心配するな。必ず俺が守る」

何事もなかったように背後から抱き着いてきたへんた、もといヴァンさんに思わず僕の心が凪のように静まり返ります。

「ヴァンさん、天井の裏で何していたのですか??」

「……気にするな、ちょっと心配で見守っていただけだから」

すごい当たり前みたいな顔をしている、ヴァンさんに切々として良いこと悪いことについて諭したのは言うまでもありませんが、何故かその日から兄上が僕の家に一緒に暮らすようになるという今までと違う展開がありました。

そのことがまた今までと違う運命に導かれていく要因となったことをこの時の僕はもちろん知りませんでした。
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