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プロローグ

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「殺せ!!殺せ!!」

観衆は叫ぶ。そして、悪の公爵令息と称された僕、ルドルフ・ザグレウス・ベガはボロボロの汚れた服を着せられて縛られた状態で断頭台に連れてこられた。

(ああ、また殺されるんだ……)

断頭台の露として消えるのも何度目だろう。普通は頭と胴体が離れる回数は1回だろうけど、某菓子パンのヒーローのように僕の頭と胴体は10回は離れている。

しかし、当然、新しい顔はないのでそこで一度終わって時が戻る。

観衆から外れた高台の処刑を見るための悪趣味な貴族用の物見やぐらから強い視線を感じた。

その突き刺すような背筋をザラザラさせた視線が気になって見て後悔した。

彼がいたから。

(イヴァン殿下……)

僕と目が合うとまるで、まるでごみクズ、いや、ごみクズを見た時だってあんな目をしないだろうというくらいの目で僕を見ていた。

具体的には下水口から這いよる混沌でも出てきましたくらいのもう多分世界で一番冷めた目で僕を見返した。

(ずっと好きだったんだけどな……)

胸がちくりと痛むのがわかる。

僕は彼、元婚約者のイヴァン殿下が幼い頃からずっと好きだった。

婚約者に選ばれたのに、一度しか優しくされたことがないけれど、その一度にしがみついて一方的にただただ好きだった。

だから10回以上もその一度の優しさのために、繰り返したけれど、悲しいことにあまり賢くない僕は、その都度、最後には冤罪で首がさよならバイバイしてしまうようだ。

これはもう某菓子パンヒーローみたいに首挿げ替えられる存在にレべルアップしてもよさそうなレベルで外れている。

首とれ世界記録保持者になるのも夢ではないかも知れない、永遠に夢であってほしいけど。

本当に菓子パンヒーローみたいな存在になれないだろうか、「ルドルフ新しい顔だよ」みたいに、新しい顔面が切れた首に結合する。

……うん、怖いねだめだわ。

首が外れても、外れても諦められないくらい僕は、彼が好きで好きすぎてちょっと人より愛が重かったかもしれないけれどそれくらい本気で愛して、けれどあの一度以外はむしろ這いよる混沌を見るような目で見られて、その繰り返しの中で一度も殺されなかったことはない。

それもこれも、彼の隣に今もいるピンクの髪に緑のタレ目の可愛らしい少年、ジョバンニがいるからだ。

首が外れる全ての原因であり、イヴァン殿下の寵愛を何回繰り返しても受け続ける少年。僕の実家のベガ公爵家と敵対しているデネブ公爵家の令息だ。

ちなみに、ベガ公爵家は闇と称されるのに対して、デネブ公爵家は光と称されていて実に対比も鮮やかだ。なんかのゲームとか小説の設定みたいだ。

イヴァン殿下の腕にしがみついて不安そうな顔でこちらを眺めていた彼だが、僕と目があった時、一瞬その愛らしい顔を歪めたのが分かった。そして、その動作だけで確信する。

(ああ、やっぱり彼に、ジョバンニが僕を嵌めたんだな……)

僕が今殺されるのは、国王陛下を毒殺しようしたというまさに荒唐無稽な罪である。

けれどそれが冤罪だということをいくら訴えても聞き入れられず、さらにはあったはずの冤罪の証拠はいつの間にか消されてしまった。

そして、僕の家族や、我が家の使用人、学校の同級生、最愛の婚約者だったイヴァン殿下もほとんど全ての人から僕は嫌われて糾弾された。

本当にあんまり賢くないせいか、何度繰り返してもどんなにうまくいって見えてもあるタイミングから僕は今までどんなに親しい間柄だった相手でもほぼ全員から嫌われてしまい、結果首がもげとれるのだ。

けれど、そんな僕を唯一最後まで庇ってくれたのが親友であり、騎士団長の息子のマイケルだった。マイケルだけは僕が犯人であるはずはないと証言したり必死に救おうとしてくれた。

気が良くてちょっと脳筋であまり頭は良くないけれど、正義感がとても強く間違ったことにはちゃんと間違っているといえる好漢だ。それだけで推せるタイプだ。

今回は、彼の婚約者の賢いリオン殿下と協力して僕が犯行が不可能であるというアリバイの証言者まで見つけてくれた。

(マイケル。でも僕のせいで……)

しかし、アリバイの証言者は法廷で語る前に消されてしまい、マイケルまで僕の罪に加担したとみなされて、彼の最愛の婚約者であった、第2王子リオン殿下との婚約を破談にされた挙句に僻地に飛ばされた。

さらに、その僻地で急に起こった魔物の暴走スタンピードにより命を落としてしまった。

だから、今この場には、マイケルはいない。ただ、リオン殿下はとても悲し気に僕を見ている。

その瞳には他の貴族や観衆から向けられているような殺意はない。あるのは憐憫の情だけだ。

(僕を最期まで信じてくれたのはふたりだけだったね。それなのに不幸にしたなんて)

「罪人、ルドルフ・ザグレウス・ベガ。国家転覆を企てたこの邪悪な毒婦を処す」

何度繰り返しても慣れないその器具に頭を入れる。もうすぐ首が外れて死を迎えるなら、せめてと僕はイヴァン殿下とジョバンニを見て曖昧に微笑む。今回の生で僕は学んだ。

(もし次にこの世界を繰り返せたのならば、僕はもうあのたった一度の優しさのために、君たちの邪魔はしない。その代わり……)

脳内に僻地に送られる前日、別れを告げにきたマイケルの顔が浮かぶ。

「助けられなくてすまない」

違う、君を不幸にした僕こそが謝らないといけない、それなのに……。その時にはしゃべれないようにと舌を切られていたから何も言えなかった。

けれど、どんな時も信じてくれた親友とその想い人の恋を次は応援する。もう自分の恋なんてこりごりだ。ましてやいくら願っても想っても顧みられることのない恋なんて捨ててしまおう。

そうすれば……。

ガチャン!!

金属音が響いた。

そうして、僕の意識は痛みとともに暗転した。もう何回目の首もげとれタイムだ。何回体験しても本当に恐ろしいし嫌な体験だ。

そのまま全てが終わる、そう思った時、いままでと違い誰かのはっきりした声が聞こえた。

『クソ、好き勝手しやがって……許せん!!』

と明らかに何かに切れている声がした。

それは僕を罵倒する民衆の声かなと思ったがまさかあの声が僕の運命を変えるとは夢にも思わなかった。
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