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52.トラウマは根強いまま……
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この世界はとても幸福な世界だ。
あれから落ち込んで寝込んでしまった僕を、ずっと欲しかった父親以上の愛で包み込んでくれる国王陛下も、生前会うことが叶わなかった母上も、そして、自分を一番に考えて側に居てくれるレクリフも。
そして、食事だって以前僕が何の疑いもなく食べていた物が粗食だったと分かるほどに素晴らしいものが毎日出された。
周りの家臣たちも、無表情で冷たい人はいなくて誰しもが心から僕を大切にしてくれていると分かっている。
分かっているけれど、だからこそ僕は前の世界を思い返してしまう。
前の世界では、レフ以外は僕に対して真に向き合おうとしてくれた人はいなかった。国王陛下はもちろんだけれど、今、僕に笑顔で尽くしてくれる使用人が、あの世界で僕に冷たい顔をして陰で悪口を言っていたし、僕をどんなことがあっても守るといっている護衛騎士がヴィンターの側に前の世界ではいていつもまるで敵でも見ているみたいな目で僕を見つめていたこともこの世界ではなかったことになるのだろうけど魂がハッキリと覚えていた。
だから、どんなに、あたたかい手で触れられてもそれらがすべて偽物のように思えて怖くて仕方なかった。そんな中で心を許せたのは母上とレクリフ、そして母上の護衛騎士であるあちらの世界では辺境伯だったレフの父親だけだった。
しかし、そんな僕の元へ一番足繫く通ってきたのは僕からするとトラウマの温床である国王陛下だった。
(この世界の国王は大切な人を間違うこともなく、ルティを大切にしてくれていますよ)
そう、イクリスに似た声が囁くこともあったけれど、僕にはすぐには受け入れられないことだった。成人の儀式の前なら喜んで受け入れることができたかもしれないが、死を望まれて、さらに結果的に殺さなければいけなかった人が心配そうに毎日訪れるなんて心が受け止めきれないでいる。
その日も、国王陛下がやってきたので僕は寝たふりをする。そんな僕の顔を眺めている気配がしているので必死に強く瞳を閉じた。
「ルル……甘えん坊だったルルがパパをこんなに避けるなんて……パパはルルに何かしてしまったのかな??」
そう言いながら、国王陛下の手が僕の頭に触れた。初めて触れた手から伝わるぬくもりにブルりと体が震えると同時に幼い日に、庭でヴィンターがいつもこの手で撫でられているのが羨ましいと思っていた憧憬の記憶が蘇ってきた。
(うらやましくて仕方なかった……いつかこの手で撫でてほしいと、大切にしてほしいとずっと願っていた。けれどその願いが叶わないまま僕は……)
気付いたら涙が頬を伝うのが分かった。その涙をまた、その手が拭うのが分かった。
「ルル、泣いても構わない。どんなルルでも必ず受けとめる、何がルルをこんなに悲しませているのか言葉に今はできないかもしれない、ならばいくらでも待っているよ」
そう言って再び頭を撫でると部屋を出て行く音がした。
完全にドアが閉まった音を確認して目を開いた。そうして状態を起こしてぼんやりと先ほど国王陛下が立ち去ったドアを見つめる。
どこか現実味がないと思ってしまう。
今のあたたかい言葉も優しい国王陛下も全て夢だと、そう思おうとした時……。
「……ルル」
部屋を出て行ったはずの国王陛下がベッドの脇に立っていた。
あれから落ち込んで寝込んでしまった僕を、ずっと欲しかった父親以上の愛で包み込んでくれる国王陛下も、生前会うことが叶わなかった母上も、そして、自分を一番に考えて側に居てくれるレクリフも。
そして、食事だって以前僕が何の疑いもなく食べていた物が粗食だったと分かるほどに素晴らしいものが毎日出された。
周りの家臣たちも、無表情で冷たい人はいなくて誰しもが心から僕を大切にしてくれていると分かっている。
分かっているけれど、だからこそ僕は前の世界を思い返してしまう。
前の世界では、レフ以外は僕に対して真に向き合おうとしてくれた人はいなかった。国王陛下はもちろんだけれど、今、僕に笑顔で尽くしてくれる使用人が、あの世界で僕に冷たい顔をして陰で悪口を言っていたし、僕をどんなことがあっても守るといっている護衛騎士がヴィンターの側に前の世界ではいていつもまるで敵でも見ているみたいな目で僕を見つめていたこともこの世界ではなかったことになるのだろうけど魂がハッキリと覚えていた。
だから、どんなに、あたたかい手で触れられてもそれらがすべて偽物のように思えて怖くて仕方なかった。そんな中で心を許せたのは母上とレクリフ、そして母上の護衛騎士であるあちらの世界では辺境伯だったレフの父親だけだった。
しかし、そんな僕の元へ一番足繫く通ってきたのは僕からするとトラウマの温床である国王陛下だった。
(この世界の国王は大切な人を間違うこともなく、ルティを大切にしてくれていますよ)
そう、イクリスに似た声が囁くこともあったけれど、僕にはすぐには受け入れられないことだった。成人の儀式の前なら喜んで受け入れることができたかもしれないが、死を望まれて、さらに結果的に殺さなければいけなかった人が心配そうに毎日訪れるなんて心が受け止めきれないでいる。
その日も、国王陛下がやってきたので僕は寝たふりをする。そんな僕の顔を眺めている気配がしているので必死に強く瞳を閉じた。
「ルル……甘えん坊だったルルがパパをこんなに避けるなんて……パパはルルに何かしてしまったのかな??」
そう言いながら、国王陛下の手が僕の頭に触れた。初めて触れた手から伝わるぬくもりにブルりと体が震えると同時に幼い日に、庭でヴィンターがいつもこの手で撫でられているのが羨ましいと思っていた憧憬の記憶が蘇ってきた。
(うらやましくて仕方なかった……いつかこの手で撫でてほしいと、大切にしてほしいとずっと願っていた。けれどその願いが叶わないまま僕は……)
気付いたら涙が頬を伝うのが分かった。その涙をまた、その手が拭うのが分かった。
「ルル、泣いても構わない。どんなルルでも必ず受けとめる、何がルルをこんなに悲しませているのか言葉に今はできないかもしれない、ならばいくらでも待っているよ」
そう言って再び頭を撫でると部屋を出て行く音がした。
完全にドアが閉まった音を確認して目を開いた。そうして状態を起こしてぼんやりと先ほど国王陛下が立ち去ったドアを見つめる。
どこか現実味がないと思ってしまう。
今のあたたかい言葉も優しい国王陛下も全て夢だと、そう思おうとした時……。
「……ルル」
部屋を出て行ったはずの国王陛下がベッドの脇に立っていた。
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