70 / 73
52.トラウマは根強いまま……
しおりを挟む
この世界はとても幸福な世界だ。
あれから落ち込んで寝込んでしまった僕を、ずっと欲しかった父親以上の愛で包み込んでくれる国王陛下も、生前会うことが叶わなかった母上も、そして、自分を一番に考えて側に居てくれるレクリフも。
そして、食事だって以前僕が何の疑いもなく食べていた物が粗食だったと分かるほどに素晴らしいものが毎日出された。
周りの家臣たちも、無表情で冷たい人はいなくて誰しもが心から僕を大切にしてくれていると分かっている。
分かっているけれど、だからこそ僕は前の世界を思い返してしまう。
前の世界では、レフ以外は僕に対して真に向き合おうとしてくれた人はいなかった。国王陛下はもちろんだけれど、今、僕に笑顔で尽くしてくれる使用人が、あの世界で僕に冷たい顔をして陰で悪口を言っていたし、僕をどんなことがあっても守るといっている護衛騎士がヴィンターの側に前の世界ではいていつもまるで敵でも見ているみたいな目で僕を見つめていたこともこの世界ではなかったことになるのだろうけど魂がハッキリと覚えていた。
だから、どんなに、あたたかい手で触れられてもそれらがすべて偽物のように思えて怖くて仕方なかった。そんな中で心を許せたのは母上とレクリフ、そして母上の護衛騎士であるあちらの世界では辺境伯だったレフの父親だけだった。
しかし、そんな僕の元へ一番足繫く通ってきたのは僕からするとトラウマの温床である国王陛下だった。
(この世界の国王は大切な人を間違うこともなく、ルティを大切にしてくれていますよ)
そう、イクリスに似た声が囁くこともあったけれど、僕にはすぐには受け入れられないことだった。成人の儀式の前なら喜んで受け入れることができたかもしれないが、死を望まれて、さらに結果的に殺さなければいけなかった人が心配そうに毎日訪れるなんて心が受け止めきれないでいる。
その日も、国王陛下がやってきたので僕は寝たふりをする。そんな僕の顔を眺めている気配がしているので必死に強く瞳を閉じた。
「ルル……甘えん坊だったルルがパパをこんなに避けるなんて……パパはルルに何かしてしまったのかな??」
そう言いながら、国王陛下の手が僕の頭に触れた。初めて触れた手から伝わるぬくもりにブルりと体が震えると同時に幼い日に、庭でヴィンターがいつもこの手で撫でられているのが羨ましいと思っていた憧憬の記憶が蘇ってきた。
(うらやましくて仕方なかった……いつかこの手で撫でてほしいと、大切にしてほしいとずっと願っていた。けれどその願いが叶わないまま僕は……)
気付いたら涙が頬を伝うのが分かった。その涙をまた、その手が拭うのが分かった。
「ルル、泣いても構わない。どんなルルでも必ず受けとめる、何がルルをこんなに悲しませているのか言葉に今はできないかもしれない、ならばいくらでも待っているよ」
そう言って再び頭を撫でると部屋を出て行く音がした。
完全にドアが閉まった音を確認して目を開いた。そうして状態を起こしてぼんやりと先ほど国王陛下が立ち去ったドアを見つめる。
どこか現実味がないと思ってしまう。
今のあたたかい言葉も優しい国王陛下も全て夢だと、そう思おうとした時……。
「……ルル」
部屋を出て行ったはずの国王陛下がベッドの脇に立っていた。
あれから落ち込んで寝込んでしまった僕を、ずっと欲しかった父親以上の愛で包み込んでくれる国王陛下も、生前会うことが叶わなかった母上も、そして、自分を一番に考えて側に居てくれるレクリフも。
そして、食事だって以前僕が何の疑いもなく食べていた物が粗食だったと分かるほどに素晴らしいものが毎日出された。
周りの家臣たちも、無表情で冷たい人はいなくて誰しもが心から僕を大切にしてくれていると分かっている。
分かっているけれど、だからこそ僕は前の世界を思い返してしまう。
前の世界では、レフ以外は僕に対して真に向き合おうとしてくれた人はいなかった。国王陛下はもちろんだけれど、今、僕に笑顔で尽くしてくれる使用人が、あの世界で僕に冷たい顔をして陰で悪口を言っていたし、僕をどんなことがあっても守るといっている護衛騎士がヴィンターの側に前の世界ではいていつもまるで敵でも見ているみたいな目で僕を見つめていたこともこの世界ではなかったことになるのだろうけど魂がハッキリと覚えていた。
だから、どんなに、あたたかい手で触れられてもそれらがすべて偽物のように思えて怖くて仕方なかった。そんな中で心を許せたのは母上とレクリフ、そして母上の護衛騎士であるあちらの世界では辺境伯だったレフの父親だけだった。
しかし、そんな僕の元へ一番足繫く通ってきたのは僕からするとトラウマの温床である国王陛下だった。
(この世界の国王は大切な人を間違うこともなく、ルティを大切にしてくれていますよ)
そう、イクリスに似た声が囁くこともあったけれど、僕にはすぐには受け入れられないことだった。成人の儀式の前なら喜んで受け入れることができたかもしれないが、死を望まれて、さらに結果的に殺さなければいけなかった人が心配そうに毎日訪れるなんて心が受け止めきれないでいる。
その日も、国王陛下がやってきたので僕は寝たふりをする。そんな僕の顔を眺めている気配がしているので必死に強く瞳を閉じた。
「ルル……甘えん坊だったルルがパパをこんなに避けるなんて……パパはルルに何かしてしまったのかな??」
そう言いながら、国王陛下の手が僕の頭に触れた。初めて触れた手から伝わるぬくもりにブルりと体が震えると同時に幼い日に、庭でヴィンターがいつもこの手で撫でられているのが羨ましいと思っていた憧憬の記憶が蘇ってきた。
(うらやましくて仕方なかった……いつかこの手で撫でてほしいと、大切にしてほしいとずっと願っていた。けれどその願いが叶わないまま僕は……)
気付いたら涙が頬を伝うのが分かった。その涙をまた、その手が拭うのが分かった。
「ルル、泣いても構わない。どんなルルでも必ず受けとめる、何がルルをこんなに悲しませているのか言葉に今はできないかもしれない、ならばいくらでも待っているよ」
そう言って再び頭を撫でると部屋を出て行く音がした。
完全にドアが閉まった音を確認して目を開いた。そうして状態を起こしてぼんやりと先ほど国王陛下が立ち去ったドアを見つめる。
どこか現実味がないと思ってしまう。
今のあたたかい言葉も優しい国王陛下も全て夢だと、そう思おうとした時……。
「……ルル」
部屋を出て行ったはずの国王陛下がベッドの脇に立っていた。
11
お気に入りに追加
893
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります

藤枝蕗は逃げている
木村木下
BL
七歳の誕生日を目前に控えたある日、蕗は異世界へ迷い込んでしまった。十五まで生き延びたものの、育ててくれた貴族の家が襲撃され、一人息子である赤ん坊を抱えて逃げることに。なんとか子供を守りつつ王都で暮らしていた。が、守った主人、ローランは年を経るごとに美しくなり、十六で成人を迎えるころには春の女神もかくやという美しさに育ってしまった。しかも、王家から「末姫さまの忘れ形見」と迎えまで来る。
美形王子ローラン×育て親異世界人蕗
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる