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閑話:崩れ落ちた日常09(ヴィンター視点)
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アルムの言葉を聞いてから、怖くて仕方なかった。
だから早めにその日はベッドに入ったのに眠れなくて僕はぼんやりと木でできた古い天井を見つめていた。
あの特徴もあまりなく見えた黒髪、黒目の男が今では化け物のように思えて、『迎えに来る』って言葉も嫌だった。
(このまま、ここでアルムと暮らしたらどうなのかな……)
今は、アルムの役に全く立ててないけど、もし頑張って彼とふたりで静かに暮らすことが出来たら、そう考えた時、何故か脳内にもうひとつ声が響いた。
(本当にそれでいいの??)
酷く冷たい自分の声に、驚いた。そして、その声は続けた。
(叔父上に全てを奪われたのに復讐しないでいいの??)
『違う、叔父上じゃなく、あの人は、彼こそが王太子殿下だったんだ』
(本当にそうなの??それでも一番国王陛下に愛されていたのは僕だよ??それに、次期国王の座だって僕が手に入れるはずだった)
『けれど、僕は父上の血を引いていない。だから……』
(でも、そのことを国王陛下も知らない。それにイクリスも叔父上が奪った)
『それは、そもそもイクリスは僕も叔父上も愛していない。地位にしか興味がない男だったんだ』
そう言葉にした時、胸に刃が刺さるような気がした。イクリスに置いて行かれてからもう吹っ切れたはずだったのに……。
(それはちがうよ。イクリスは確かに君を愛していて、叔父上を嫌ってた。だけど……ねぇ、イクリスはこの旅の中で叔父上に会いにいったのを知ってる??その時にあの狡猾な人に誘惑されたんだ。どちらにしろ全て叔父上のせいで今僕は苦しんでいるんだよ)
『叔父上のせい……』
そう考えた瞬間、脳内に黒い霧のようなものが湧くのが分かった。それが湧いた瞬間憎しみだけが沸き上がってきていままで自分が悪いと思っていた感情すら消えていくのが分かった。
『そうだ、全部全部、叔父上のせいだ。叔父上が、イクリスも父上も母上も全てすばてうばった、奪ったんだ!!』
(そう、だから復讐しよう。そのために君はおじ様について行くんだ。彼が迎えにきたらそのまま馬車に乗れ、そうすれば叔父上を殺せる)
『叔父上を殺せる』
その言葉に体が歓喜するように震えた。
(そうすれば、全て元に戻るんだ。君は王太子になってこの国の国王になれるよ)
『そうだ、全て元に戻すんだ』
全てが元に戻るならアルムと暮らす必要もない、だから……。
そう思った時、不思議なことが起こった。全ての時が止まったのだ。暖炉の前に座っているアルムは目を開けたままたじろぎもせず、暖炉の火も完全に動きを止めている。
「迎えにきたよ」
微笑んだおじ様に、僕はまるで操り人形にでもなったようについていった。するとそこには見たことにない馬車があった。
確か辻馬車という、平民が使う馬車だったはずだ。
「さぁ、叔父上を殺すためにこの馬車に乗るんだ」
おじ様のその言葉に僕はコクリと頷く。
なんの疑いもなく、僕がそれに乗り込むとすぐに扉が閉められた。おじ様は入ってこなかった。
けれど、突然急発進した馬車はそのまま加速していった。そして、何故かこの馬車に乗っていれば叔父上が殺せるとそう思えた、だから……。
「叔父上をころす、殺してやる!!」
『……罪なき子。そのままであれば幸せになれたのに自ら業を背負いにいくのか……哀れなり』
誰もいない馬車の中で慟哭した僕のその耳にとても遠くから澄んだ声が聞こえた気がした。けれどもう、そんなものを気にすることがないくらいに僕は憎しみの炎に燃やし尽くされていった。
だから早めにその日はベッドに入ったのに眠れなくて僕はぼんやりと木でできた古い天井を見つめていた。
あの特徴もあまりなく見えた黒髪、黒目の男が今では化け物のように思えて、『迎えに来る』って言葉も嫌だった。
(このまま、ここでアルムと暮らしたらどうなのかな……)
今は、アルムの役に全く立ててないけど、もし頑張って彼とふたりで静かに暮らすことが出来たら、そう考えた時、何故か脳内にもうひとつ声が響いた。
(本当にそれでいいの??)
酷く冷たい自分の声に、驚いた。そして、その声は続けた。
(叔父上に全てを奪われたのに復讐しないでいいの??)
『違う、叔父上じゃなく、あの人は、彼こそが王太子殿下だったんだ』
(本当にそうなの??それでも一番国王陛下に愛されていたのは僕だよ??それに、次期国王の座だって僕が手に入れるはずだった)
『けれど、僕は父上の血を引いていない。だから……』
(でも、そのことを国王陛下も知らない。それにイクリスも叔父上が奪った)
『それは、そもそもイクリスは僕も叔父上も愛していない。地位にしか興味がない男だったんだ』
そう言葉にした時、胸に刃が刺さるような気がした。イクリスに置いて行かれてからもう吹っ切れたはずだったのに……。
(それはちがうよ。イクリスは確かに君を愛していて、叔父上を嫌ってた。だけど……ねぇ、イクリスはこの旅の中で叔父上に会いにいったのを知ってる??その時にあの狡猾な人に誘惑されたんだ。どちらにしろ全て叔父上のせいで今僕は苦しんでいるんだよ)
『叔父上のせい……』
そう考えた瞬間、脳内に黒い霧のようなものが湧くのが分かった。それが湧いた瞬間憎しみだけが沸き上がってきていままで自分が悪いと思っていた感情すら消えていくのが分かった。
『そうだ、全部全部、叔父上のせいだ。叔父上が、イクリスも父上も母上も全てすばてうばった、奪ったんだ!!』
(そう、だから復讐しよう。そのために君はおじ様について行くんだ。彼が迎えにきたらそのまま馬車に乗れ、そうすれば叔父上を殺せる)
『叔父上を殺せる』
その言葉に体が歓喜するように震えた。
(そうすれば、全て元に戻るんだ。君は王太子になってこの国の国王になれるよ)
『そうだ、全て元に戻すんだ』
全てが元に戻るならアルムと暮らす必要もない、だから……。
そう思った時、不思議なことが起こった。全ての時が止まったのだ。暖炉の前に座っているアルムは目を開けたままたじろぎもせず、暖炉の火も完全に動きを止めている。
「迎えにきたよ」
微笑んだおじ様に、僕はまるで操り人形にでもなったようについていった。するとそこには見たことにない馬車があった。
確か辻馬車という、平民が使う馬車だったはずだ。
「さぁ、叔父上を殺すためにこの馬車に乗るんだ」
おじ様のその言葉に僕はコクリと頷く。
なんの疑いもなく、僕がそれに乗り込むとすぐに扉が閉められた。おじ様は入ってこなかった。
けれど、突然急発進した馬車はそのまま加速していった。そして、何故かこの馬車に乗っていれば叔父上が殺せるとそう思えた、だから……。
「叔父上をころす、殺してやる!!」
『……罪なき子。そのままであれば幸せになれたのに自ら業を背負いにいくのか……哀れなり』
誰もいない馬車の中で慟哭した僕のその耳にとても遠くから澄んだ声が聞こえた気がした。けれどもう、そんなものを気にすることがないくらいに僕は憎しみの炎に燃やし尽くされていった。
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