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41.追いかけるモノ06(イクリス視点)
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(この扉の先にルティが……)
トントン
心臓の鼓動が驚くほど速くなる。しかし、ルティの返事は……。
「レフか??」
(ああ、そうだ、当たり前だ)
明るい声で、小辺境伯の名を呼んだルティに胸が痛むのが分かる。しかし、誰よりもその胸の痛みの原因が自業自得であるとも理解している。
ヴィンター様とふたりきりになって気付いていた。ルティは確かに気難しい部分はあったかもしれないけれど傲慢でもわがままでもなかったということを……。
むしろ、いつも誰かを信じることもできない場所で必死に私だけは信じていた。その信頼を踏みにじったのだ。それなのにその手を、信頼を失ってから大切さに気付くなんて我ながら酷い男だと自嘲する。
(自分が、ルティを傷つけてその信頼も愛も捨ててヴィンター様を選んだじゃないか。それなのに……。いや、それでもどうしても……)
もう一度、あの美しい蒼い瞳を真正面から見つめられたい、話がしたいと、自身の過ちを打ち明けたいと思った。だから、いつも持ち歩いていた羊皮紙の破り急いでメッセージを書いた。
『話がある、もし聞いてくれるならば今夜館の庭園まで来てほしい』
そう書いた1枚の手紙を、扉に差し込む。
(この手紙をみたら、ルティは私だと気付いてくれるだろうか……)
そんな都合の良い妄想をしてすぐに気付いてしまった。ルティに手紙の1枚も最近は自分で書いていなかった。
徒従に代筆させて内容すら確認していなかった。だからもしこの手紙を読んでもルティは私が書いたとは気づかない。
あまりに自業自得な顛末。けれど逆にルティは来てくれるかもしれない。そう考えたが、警戒心の強いルティは差出人が分からない手紙などはそのまま何も反応されないかもしれない。
そんなことを考えていた時、廊下の向こうから慌ただしい足音がすることに気付く、小辺境伯が戻ってきたのかもしれない。
私は後ろ髪を引かれる気持ちを押さえながらその場を後にして部屋に戻った。
部屋に戻ると、ヴィンター様は出て行った時のまま、ベッドで寝息を立てていた。馬車以外で眠ることができたのが久しぶりだったのでとても疲れていたのだろう。
しかし、私はその安らかな寝顔を眺めるよりもずっと、ルティのことばかり考えてしまった。
手紙は出したが、ルティがその手紙を読んでも差出人も分からない手紙に来てくれないかもしれない。そんなことを考えているうちに時間が経ち、外は暗くなり始めてきた。
黒に染まっていく空を眺めていた時、突然扉を控え目にノックする音がした。
「誰だ??」
扉の外に問いかけるが、反応がない。
それはまるで先ほど、私がルティにしたことのようで少しだけ笑いそうになる。けれど、もしかしたらこの先にいるのは領主や、その刺客かもしれない。
私は扉を開かずにそれに耳を当てて物音を確認する。そこまで厚いとは言い難い扉なので誰かがそこに居れば何か聞こえるかもしれないと考えたが、物音ひとつしない。
(なるほど、ここまで気配を殺すことができるのは暗殺者の可能性が高いか??)
その場合、眠っているヴィンター様を起こしたいが扉から離れるのも危険だと判断してしばらく扉を隔てた膠着状態が続いたが……。
なんと、先ほどルティにしたように扉の隙間から羊皮紙の紙が差し込まれたのだ。
それはパラパラと待って地面に文字側を上にして落ちた。そこには血のような赤いインクと無骨な文字でひとこと書かれていた。
『ルティアに会うな。もし、会うならばお前らを殺す』
その瞬間、血が冷めるような恐怖と頭が沸騰するような怒りを両方感じた。間違いない。この手紙は小辺境伯が我々に警告するために入れたのだ。
彼が温情をかけてやるうちに立ち去れと言うことだろう。
「ははははは」
思わず力のない笑いが漏れていた。それは決して愉快だったからの笑いではない。自分の無力さへのやるせなさから漏れたものだった。
何がなんでもルティに会いたい。しかし、そうすることでヴィンター様も危険に晒すことになる。
つまり、私は選択を迫られているのだ。
(ここで静かに立ち去るかこのままこの部屋から出なければ、ふたりの命は保証されるだろう。その代わりもしルティに接触を図ろうとすれば……)
ベッドで今だに眠っているヴィンター様を見つめながら、私はある決断をした。
トントン
心臓の鼓動が驚くほど速くなる。しかし、ルティの返事は……。
「レフか??」
(ああ、そうだ、当たり前だ)
明るい声で、小辺境伯の名を呼んだルティに胸が痛むのが分かる。しかし、誰よりもその胸の痛みの原因が自業自得であるとも理解している。
ヴィンター様とふたりきりになって気付いていた。ルティは確かに気難しい部分はあったかもしれないけれど傲慢でもわがままでもなかったということを……。
むしろ、いつも誰かを信じることもできない場所で必死に私だけは信じていた。その信頼を踏みにじったのだ。それなのにその手を、信頼を失ってから大切さに気付くなんて我ながら酷い男だと自嘲する。
(自分が、ルティを傷つけてその信頼も愛も捨ててヴィンター様を選んだじゃないか。それなのに……。いや、それでもどうしても……)
もう一度、あの美しい蒼い瞳を真正面から見つめられたい、話がしたいと、自身の過ちを打ち明けたいと思った。だから、いつも持ち歩いていた羊皮紙の破り急いでメッセージを書いた。
『話がある、もし聞いてくれるならば今夜館の庭園まで来てほしい』
そう書いた1枚の手紙を、扉に差し込む。
(この手紙をみたら、ルティは私だと気付いてくれるだろうか……)
そんな都合の良い妄想をしてすぐに気付いてしまった。ルティに手紙の1枚も最近は自分で書いていなかった。
徒従に代筆させて内容すら確認していなかった。だからもしこの手紙を読んでもルティは私が書いたとは気づかない。
あまりに自業自得な顛末。けれど逆にルティは来てくれるかもしれない。そう考えたが、警戒心の強いルティは差出人が分からない手紙などはそのまま何も反応されないかもしれない。
そんなことを考えていた時、廊下の向こうから慌ただしい足音がすることに気付く、小辺境伯が戻ってきたのかもしれない。
私は後ろ髪を引かれる気持ちを押さえながらその場を後にして部屋に戻った。
部屋に戻ると、ヴィンター様は出て行った時のまま、ベッドで寝息を立てていた。馬車以外で眠ることができたのが久しぶりだったのでとても疲れていたのだろう。
しかし、私はその安らかな寝顔を眺めるよりもずっと、ルティのことばかり考えてしまった。
手紙は出したが、ルティがその手紙を読んでも差出人も分からない手紙に来てくれないかもしれない。そんなことを考えているうちに時間が経ち、外は暗くなり始めてきた。
黒に染まっていく空を眺めていた時、突然扉を控え目にノックする音がした。
「誰だ??」
扉の外に問いかけるが、反応がない。
それはまるで先ほど、私がルティにしたことのようで少しだけ笑いそうになる。けれど、もしかしたらこの先にいるのは領主や、その刺客かもしれない。
私は扉を開かずにそれに耳を当てて物音を確認する。そこまで厚いとは言い難い扉なので誰かがそこに居れば何か聞こえるかもしれないと考えたが、物音ひとつしない。
(なるほど、ここまで気配を殺すことができるのは暗殺者の可能性が高いか??)
その場合、眠っているヴィンター様を起こしたいが扉から離れるのも危険だと判断してしばらく扉を隔てた膠着状態が続いたが……。
なんと、先ほどルティにしたように扉の隙間から羊皮紙の紙が差し込まれたのだ。
それはパラパラと待って地面に文字側を上にして落ちた。そこには血のような赤いインクと無骨な文字でひとこと書かれていた。
『ルティアに会うな。もし、会うならばお前らを殺す』
その瞬間、血が冷めるような恐怖と頭が沸騰するような怒りを両方感じた。間違いない。この手紙は小辺境伯が我々に警告するために入れたのだ。
彼が温情をかけてやるうちに立ち去れと言うことだろう。
「ははははは」
思わず力のない笑いが漏れていた。それは決して愉快だったからの笑いではない。自分の無力さへのやるせなさから漏れたものだった。
何がなんでもルティに会いたい。しかし、そうすることでヴィンター様も危険に晒すことになる。
つまり、私は選択を迫られているのだ。
(ここで静かに立ち去るかこのままこの部屋から出なければ、ふたりの命は保証されるだろう。その代わりもしルティに接触を図ろうとすれば……)
ベッドで今だに眠っているヴィンター様を見つめながら、私はある決断をした。
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